DMM創業者・亀山敬司氏と、シード特化のVC2名(ガゼルキャピタル石橋氏、パートナーズファンド山田氏)が対談。AI時代の資金調達論、VCの差別化、マイノリティ投資からM&Aへの段階的アプローチ、そしてVC業界の厳しい現状まで本音で議論した。
冒頭から飛び出したのは、若手起業家にとって直球の問い。「AIで稼ぎながら大きくできる時代に、そこまでVCマネーを求める必要があるビジネスは少なくなってきているのではないか」――パートナーズファンドの山田氏は率直にそう語る。
VC側の立場でありながら、必ずしも全ての起業家にエクイティ調達を勧めるわけではない、というのが現代のシード投資家のスタンスのようだ。
では、どういう企業はVCからの資金調達に向くのか。山田氏は具体例を挙げる。
- 飲食店の多店舗展開:日本政策金融公庫から2,000万円借りて1店舗目を黒字で回すのではなく、VCマネーで1億円を調達し3店舗同時展開で加速させるパターン
- ディープテック領域:研究開発に2〜3億円を投じてマイルストーン達成を目指す、赤字を大きく掘るモデル
亀山会長も「ディープテックは時間も金もかかる。うまく当たった時にしかリターンがないが、当たればバントで何十倍にもなる。それ以外に選択肢がないぐらいVCの使い勝手があるんじゃないか」と同意する。
ガゼルキャピタルの石橋氏はさらに別の観点を加える。先行者メリットが効きやすい競争環境のマーケットや、類似競合に対して先に踏み込むことでネットワーク優位を築けるケースでは、キャッシュフローが回っていてもエクイティ調達の合理性があるという。
面談から実際の投資に至る確率はどれくらいか。亀山会長の問いに、石橋氏・山田氏ともに「1/6ぐらい」と答えた。
「99%は『ダメダメ』と言っているわけだ。Tinderと一緒で、断ってばっかり」と亀山会長が笑う。一方で、VC側も「最近はVCも増えすぎて、お互いに大変」だという。供給過多になりつつある資金と、それを受け取る起業家とのマッチングは、双方にとって難しい時代に入っている。
投資を受ける起業家にとっては、どのVCを選ぶかが重要な意思決定となる。両VCに「自社の差別化ポイント」を聞くと、揃って「人」という答えが返ってきた。
山田氏は語る。「人の力でしか僕は差別化できないなと思っているタイプ。EQ勝負しているので、この人と一緒にやりたいと思っていただけるかどうか」。最初の面談ではビジネスの話を一切せず、お互いのパーソナリティや価値観の共有に時間を使うこともあるという。
投資先を見極めるタイミングについても、山田氏は「ご飯に行った時が一番大事な時間。なぜこの人はこの事業をやりたいんだろう、というのを深掘りする。採用みたいな感じ」と話す。
石橋氏は、ビジネスYouTube「スタートアップ投資TV」での情報発信を通じて、起業家との接点を早期に作る戦略を取っている。「VCさんが気づく前に、誰よりも優秀な起業家を見つけ、誰よりも早いタイミングで、誰よりも高い金額を提示する」。これがマーケティング活動の一環でもあるという。
投資を受ける起業家が陥りがちな落とし穴について、石橋氏は明確な指針を示す。
「VCの担当者は、ある意味取締役を採用するのと同じぐらい重要。お金を入れて終わりというVCも一部いるが、基本的には経営に介在してくると思っておいた方がいい。経営メンバーを採用するクラスのイメージで選ぶとフィットする」
また、相性が悪く起業家を激詰めするタイプのVCもおり、結果として精神的に追い込まれてしまうケースもあるという。VC業界はある意味でインサイダー社会でもあり、複数のVCと関係を作っておくことで「あそこはあまり良くない話が多い」という情報も入ってくる。
対談で特に深く議論されたのが、マイノリティ投資とM&Aの関係性だ。山田氏はM&Aを結婚に例えて説明する。
「マイノリティ投資は恋人期間。10%以下を持つのはまさに『付き合います』という感じ。20%以上、50%以上はもう結婚だと思っている」
いきなり100%取得して離婚するのは大変だからこそ、最初は10%程度のマイノリティで入り、半年〜1年一緒に事業をやってみて相性が良ければ次の資金調達タイミングで持分法適用、51%、100%と段階的に取得していく。こうしたマイノリティ投資部門を作る事業会社が増えているという。
セカンダリーマーケットも活況だ。CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の増加もあり、VCが保有するマイノリティ株式を事業会社が買い取るケースも増えている。物流系の事業会社が物流系スタートアップに出資し、独占的な業務提携を確保するために資本業務提携を結ぶ――そうした動きが目立つ。
対談で最も率直に語られたのが、VC業界の現状の厳しさだった。
金融機関や機関投資家からファンドに資金を集めるためには、IRR(内部収益率)で15〜20%以上、10年で3〜4倍以上のリターンが求められる。しかし業界全体の実情は厳しい。
山田氏は明かす。「特定のVCしかまともなリターンを出しておらず、平均値で見ると本当に1倍から1.5倍ぐらいの水準」
2015〜2017年頃にファンドを組成したVCが今、満期を迎えつつあるが、IPO市場が冷え込んでおり売却が難しい。「VCは儲かるのか」という根本的な問いが業界に突きつけられているフェーズだという。
実際にVCファンドへの年間投資総額は2年ほど前から明確に減少傾向にある。2010年代前半から急増したVCの成績の答え合わせが始まり、淘汰の局面に入っている。
石橋氏は自社のLP(出資者)構成の変化をこう語る。
- 1号ファンド:個人投資家が約8割
- 2号ファンド:事業法人が6〜7割
- 3号ファンド:金融機関が約30%
徐々に個人比率が下がり、事業会社・金融機関の比率が上がってきた。地方銀行や信用金庫、さらには大学までもがVCを始めており、市場参加者は多様化している。
対談の最後に、亀山会長自身も自社の取り組みを紹介。AI領域を中心に、起業の初期段階から株式を一定割合(マジョリティを取得)受け取りつつ、融資で資金を提供し、利益が出た段階で買い取り前提のスキームを構築しているという。
「IPOやM&Aを前提とせず、こちらの買い取り前提で出資する。5億貸し付けてコミットするから、入口から株主になれる」――投資というよりも、融資をベースにした事業共創の形だ。
対談を通じて浮かび上がってきたのは、AI時代に資金調達の常識が変わりつつあるという事実だ。VCマネーが万能ではなく、自己資金、デット、エクイティ、そして亀山会長のようなハイブリッド型まで、起業家が選べる選択肢は広がっている。
山田氏は最後にこう語った。「IPOやM&Aは手段でしかない。どういう世界を作りたいのかを起点に、自分がどういう人間なのかを理解した上で、起業すべき人が起業すればいい」
VC業界が成熟と淘汰の局面に入る中、起業家側にも「なぜ資金調達するのか」「誰から受けるのか」を見極めるリテラシーがますます問われる時代になりそうだ。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
