M&Aは「ビジネスの総合格闘技」と呼ばれるほど難しく、一度で成功する企業は少ない。M&Aの最前線で活躍するたば氏が、株主分散・労務問題・人の問題・会計の問題という4つの典型的な失敗パターンを解説する。
M&Aは「ビジネスの総合格闘技」と呼ばれることもあり、一度で成功する企業はむしろ少ないと言われています。今回は、M&Aの最前線で活躍するたば氏に、現場で頻繁に目にする「事前に防げる失敗」について伺いました。経営者が出口(イグジット)を意識して会社を整えておくべきポイントを、株主構成・労務・人・会計という4つの観点から解説します。
M&Aは株式を移動させる取引であるため、株主が分散しているとバリュエーション(企業価値評価)の段階で揉めやすくなります。
もう一つの典型的な落とし穴が労務関連の問題です。業務委託先との関係性、見なし従業員への残業代支払い漏れ、未払い労働通知書を毎年交付していないケースなど、労務面での不備は枚挙にいとまがありません。
たば氏は「社労士は絶対に入れておいた方がいい」と強調します。買い手が上場企業の場合、上場企業の内部統制レベルから見れば物足りない、あるいはリスクと判断されるポイントが多く出てくるためです。残業時間の把握方法や端数の切り付け方など、細かい部分まで100%完璧にできている会社は少ないというのが実態です。
また、社労士の質も重要なポイントです。月額6万円程度を払っていれば比較的しっかり見てくれることが多い一方、安価な契約だと会社の実態を理解しきれていないケースもあるとのこと。
スタートアップが依頼している会計事務所は、基本的に「税金を正しく納めるため」に決算書を作成しているケースがほとんどです。しかし上場企業グループに入ると、四半期決算、減損計算、申告書に加えて金融商品会計基準準拠の決算書作成など、より高い水準の会計対応が求められます。
そのため、買い手側はバックオフィス強化のための追加コストを織り込んだ上で買収価格を判断します。つまり、対応コストが買収価格から差し引かれる形になるわけです。会計事務所への支払いも、税務だけで月10万〜20万円、上場企業水準で対応するなら月40万円規模に膨らむこともあります。
さらに重要なのが、会計基準そのものの違いです。
- 税務会計:税金を正しく納めるための決算
- 上場企業の会計:企業の収益性と安全性を実体に近い形で反映するための決算
例えば、動画5本分の制作費が一括で振り込まれた場合、上場企業基準では役務提供の進捗に応じて5ヶ月で按分計上する必要があります。現金主義(入金ベース)で売上を立てていると、上場企業の会計基準に当てはめた時に意外と利益が出ていないという事態に陥るのです。これはIPO準備企業でも起こりがちな論点だといいます。
定性的な失敗の代表例が「人の問題」です。M&A後にグループジョインしてもらい、社員と面談すると、社長への不満や派閥の存在が浮かび上がることがあります。さらに深刻なのが、キーマンが退職を申し出るケースです。
IPO一直線で走ってきた会社では、社内で「IPOしか考えていない」と発信してきたために、いざM&Aで他のグループに入ると「目指していたものと違う」と社員が離反するケースもあるといいます。
たば氏は「経営者の方が普段どういうメッセージを社内で社員に発信しているかは結構重要」と指摘します。出口戦略は経営者個人だけでなく、組織全体の納得感に直結するテーマなのです。
人と会計以外で揉める原因として、たば氏はデューデリジェンス(買収監査)の精度を挙げます。決算書上に現金が計上されているのに、調べてみると実際には少なかった──いわゆる現金違いは、従業員不正など定量的な不正が背景にあることが多く、ディール破談の原因になります。顧問税理士が決算を適当に締めていたケースもあるそうです。
また「シナジー」という言葉で片付けず、買収後にどこをどう伸ばすのかを改造度高く言語化できている会社の方が、PMI(買収後統合)でうまくいくとたば氏は語ります。
M&Aの失敗は、最終的には「減損が出るかどうか」で語られます。買った時の期待価値よりも半分以下に価値が落ちると、減損損失を計上しなければなりません。
たば氏はこれを採用と似ていると例えます。市場価値700万円の人材が交渉で1200万円のオファーを勝ち取ったとしても、その水準のパフォーマンスが出なければ居場所がなくなる──個人か法人かの違いだけで、構造は同じだというのです。
売り手としても高く売りすぎると後から苦しくなる可能性があるため、適正価格をベースに置いた上で、リスクとリターンを踏まえて条件を詰めていく姿勢が重要だと言えます。
M&Aで頻発する失敗は、大きく「人の問題」と「会計の問題」に集約されます。起業時から出口(イグジット)を意識している経営者は少数派ですが、株主構成、労務管理、社内メッセージング、会計水準といった論点は、いざM&Aを選択肢に入れた時に一気に顕在化します。
また、上場についても「売上100億円以上ないと上場しない方がいい」という見解や、「上場する意味はM&Aぐらいしかない」というコエモ氏の発言が紹介されました。VCからの資金調達環境が良くなった現在、上場せずにM&Aで成長戦略を描く選択肢も広がっています。
M&Aを「いつかの選択肢」として残しておくためにも、平時から社労士や会計事務所の質に気を配り、デューデリジェンスに耐えうる内部統制を整えておくことが、経営者にとっての備えとなるでしょう。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
