20代でM&Aを経験した若手経営者4人が集結。売却後の働き方、組織づくり、人間関係、お金の使い方、そして「人が辞める悲しみ」まで、リアルな日常と価値観の変化を本音で語り合った座談会の内容をお届けします。
20代前半から半ばでM&Aを経験した若手経営者4名が一堂に会した座談会。司会のしゅう氏のもと、ふみこ氏、向氏、渋川氏が、売却後の働き方やプライベートの変化について語り合った。
参加者全員に共通するのは「就職経験がない」という点。学生時代から起業の道に進み、そのままM&Aによるエグジットを経験した世代だ。一人だけ売却後のロックアップ期間中に「社会人っぽい経験」をしているメンバーもいるが、いわゆる新卒入社経験を持たないまま経営者として歩んできた。
売却後の働き方について聞くと、各社で大きな違いはありながらも「劇的に変わったわけではない」という声が多かった。
ある参加者は、月1回の取締役会で業績の良し悪しを分析し、シナジー創出について親会社と戦略会議を行う以外は、出社頻度や働き方は売却前から変わっていないと話す。「報告が増えた、KPIが厳しくなった、それぐらい」とのことだ。
別の参加者の会社はフルリモート体制を売却前から維持。売却先の親会社もリモートワークに理解があったため、出社義務化のような変化はなかったという。「JTC(日本の伝統的大企業)的なカルチャーの企業に売却していたら、強制出社になっていた可能性もある」と振り返る。
リモートワークの背景には採用戦略もある。優秀なエンジニアを採用するためには、フル出社では反発が強いという現実がある。コロナ禍をきっかけに福岡へ移住したエンジニアの存在をきっかけに、会社全体がリモートに舵を切ったケースもあった。
リモートワーク中心とはいえ、グループ会社全員が日本中から集まる年に一度のキックオフ会は貴重な交流機会となっている。
「IR資料の読み解きを社長が直接してくれたり、今期の方針が共有されたりする。1週間前は400人規模で開催された」と語る参加者も。インサイダー情報を前提に数字が共有される緊張感、そして自分が登壇する機会もあることが、新鮮な経験になっているという。
働き方を巡る議論は白熱した。「会社が大きくなっても基本出社で行く」と語る参加者は、経営者の思想が強ければ強いほど、曖昧にせずに方針を決めた方が採用にもプラスだと主張する。
一方、店舗運営や在庫管理が必要な事業を持つ参加者は「場所に縛られて生きている」と話し、業態によって最適解が変わることを指摘した。
スタートアップ業界全体で見ると、現在はフルリモートがマイノリティになりつつあるという。固定費削減やグローバル採用を視野に入れる場合、出社型が有利に働くケースもあるためだ。
フルリモートを推進した経営者は、当初の判断について「コロナ禍直下でめちゃくちゃ悩んだ」と振り返る。激務でオフィスに張り付くスタイルを好んでいた時期から、副社長の説得でフルリモートへ切り替えた経緯もあったという。
「正直、フル出社が一番効率はいい。人がいたら士気も上がる。ただ採用上、それでは採用できないから半出社にしている」という現実的な声もあった。
プライベートの変化として話題になったのが「お金の使い方」だ。
ある参加者は、先輩経営者から「消えてなくなるものにお金を使え」というアドバイスを受けたという。経験や食事といった資産性のないものへの支出を、それまでは「投資なのか」という判断軸で避けてきたが、敢えて1回10万円のコース料理などに足を運ぶようになった。
「吉田というお寿司屋さんでは、1発目からキャビアの乗ったイカが出てくる。スター級の打者が続いていくのを味わいきれるのは若いうちだけ」と語る。テーブルに使われている1本の木材、目の前の8000万円の冷蔵庫など、一流に触れる経験が学びになっているという。
「2時間で10万円稼ぐ振る舞いとはどういうものか、職人の姿から学べる」と、単なる消費ではなく学習機会として捉えている点が印象的だ。
別の参加者は「M&A後に売却経験者同士で仲良くなる機会が増えた」と話す。
もともとは同世代の起業家コミュニティが中心だったが、売却を経験すると共通言語が生まれ、金銭感覚も合うため自然と関係が深まるという。中高生の起業家とも交流が広がっているそうだ。
また、「売却した」という経歴は次の挑戦を応援してもらえる肩書きにもなる。新規事業を始める際、初期段階で「M&Aを想定している」と話せば、経験者からのサポートを得やすい。
上場企業の社長は簡単に自社株式を売却できず退任もしにくいため、シリアルアントレプレナーとして連続起業する人は少ない。一方、売却経験者は次の挑戦に踏み出しやすく、VCにとっても魅力的な投資対象になり得るという指摘もあった。
交渉の現場では年齢もシビアな要素になる。ある参加者は「21歳をデッドラインにしていた」と明かす。3ヶ月で交渉をまとめたい理由を相手に伝えても、相手からすると関係のない事情でポカンとされたという。
それでも「21歳での売却と22歳での売却ではメディア露出も全然違う」と語る。起業家の若年齢化が進む中、1歳の差は大きな意味を持つ。
4人それぞれの起業家タイプの違いも話題になった。エモーショナル型に近い起業家には似たタイプの社員が、ロジカル型の起業家にはロジカルなタイプの社員が集まる傾向があるという。
「お酒を飲まないメンバーが多い」「平均年齢26〜27歳」と語る参加者もいれば、ピボットを5回経験する中で副社長や4年勤続のメンバーなど30代以上が増え、平均年齢が上がっていったという声もあった。
VC向けピッチでは「toC事業のときは平均年齢の若さ」を、「toBにピボットした後は平均年齢の高さ」を強調していたという裏話も飛び出した。安心感を演出するためのサバ読みだったというが、本質的には「あまり関係ない」と笑いながら振り返った。
ふみこ氏は売却前、メンバーが離脱した1年間を1人で全ディレクションし「過労すぎた」と振り返る。売却後は半年ほど何もせず、Googleカレンダーが真っ白の時期を過ごしたという。その期間に大学に復学した。
最近採用したのは、コンサルが本業の30歳の女性。お客さんとして知り合った縁で、副業で参画してもらっている。「2回目で100枚の資料を持ってきてくれた。守備力のない自分を補ってくれる存在」と評価する。
別の参加者は、Twitter(X)のDMで知り合ったエンジニアや、東大の同級生をCO的ポジションとして迎え入れた経緯を語った。「気心が知れた相手とご飯に行き、転職を考えていると聞いてそのまま誘った」というカジュアルな採用エピソードも紹介された。
ピボットや組織変更に伴う退職について、しゅう氏が「人が辞めるの、毎回悲しくないですか」と問いかけると、全員が深く頷いた。
「最初はめちゃくちゃ辛かった。でも、この痛みを感じなくなったら、それは経営者としての成長というよりは、大事なものを失った気がする」という発言には、参加者から共感の声が上がった。
「事業がうまくいっていれば人は辞めない。給与水準を上げ、福利厚生や休暇日数を整えられたのは売却後の大きな成果だ」とポジティブな側面も語られた。
東大出身者を多く採用してきた経営者は「ふわっと言ったことを理解する能力は確かに高い」と話す。ただし、それだけで判断はできず、複合的な要素が必要だと付け加えた。
なお、その本人も東大を在学中に卒業したのは「事業がそこまでうまくいっていなかった時期」と「Zoomへの移行」のおかげだと語った。海外進出時にはビザ申請で学歴が見られるため、卒業しておいて良かったと振り返る。
話題は趣味にも及んだ。サーフィンのために湘南に移住した参加者、トライアスロンの大会に毎月出場する参加者、ウォーキングで1日平均1万歩を維持する参加者など、それぞれのスタイルが共有された。
興味深かったのは「経営者の趣味には死の恐怖を伴うものが多い」という指摘だ。
「サウナ、筋トレ、サーフィン、スノーボード、キャンプ、トライアスロン。これらは全部一貫した趣味で、自然や環境と向き合う時間。火を起こす、ナイフを使うといった原始的な行為を都市生活で忘れているからこそ、敢えてやる」
「サーフィンは水に飲まれたら溺れる。スノーボードも大怪我のリスクがある。筋トレのスカルクラッシャーは名前の通り頭蓋骨をクラッシュする可能性がある。デッドリフトで腰を痛めて1年半通院したこともある。そういう死の恐怖を伴う活動だからこそ、生の活動が湧いてくる」
単なる趣味ではなく「人間性の回帰」「原点回帰」として捉える哲学が語られ、座談会は締めくくられた。
20代でM&Aを経験した4人の経営者が語った内容は、単なる売却体験談を超え、その後の働き方、組織づくり、人間関係、価値観の変化にまで及んだ。
売却によって働き方は劇的に変わるわけではないが、人間関係の広がりやお金の使い方、次の挑戦への踏み出しやすさといった点で、確かに変化は訪れる。一方で「人が辞める悲しみ」のように、規模が拡大しても変わらず大切にすべき感覚もある。
それぞれが異なるタイプの起業家でありながら、共通するのは自らの事業と人生に真摯に向き合う姿勢だ。M&Aは終わりではなく、新しいキャリアと挑戦の始まりであることが、リアルな対話から伝わる座談会となった。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
