ポート株式会社の春川社長に、上場後の経営者が直面するプレッシャー、市場占有率を意識した事業戦略、組織崩壊からの立て直し、M&A市場の魅力について聞いた。学生起業家からプライム上場企業の経営者へと歩んだ春川氏の経験から、成長し続ける経営者の条件が見えてくる。
M&A CAMPの取材で、ポート株式会社代表の春川氏に話を伺った。少子高齢化を背景に注目が集まるM&A市場について、春川氏は「めちゃくちゃ魅力的」だと語る。
「社会的な問題が大前提としてあるし、売り手と買い手の情報の非対称性も大きい。間に入る人の価値はすごくあると思います」
さらに春川氏は、M&A業界の本質を独自の視点で解説する。
「M&AってBtoBに見えるんですけど、売り手側の企業は売主が大体100%オーナーじゃないですか。なので実態はBtoCだと思うんですよね。となるとやっぱり、Cの人に対する情報の非対称性を埋めてあげないと意思決定していけない。Webだけでは絶対にM&Aはできなくて、必ずリアルな交渉が入る。だからこそWebとリアルを掛け合わせやすい領域なんです」
ポート社が手がける人材・エネルギー領域も、まさに「情報の非対称性が高く、ユーザーの意思決定難度が高い、Webとリアルを掛け合わせられるマーケット」という共通項を持つ。M&A業界もこの条件に合致するという見立てだ。
春川氏が事業戦略で重視するのは「市場占有率」だ。新卒人材ビジネスや電力・ガス販売といった、必ずしも巨大ではない市場でも、強いシェアを取ることに意味があるという。
「新卒1つ取っても、市場規模は1000何百億円ある。そのうち20%取れば2300億円ぐらいの売上になるわけで、決して小さくない。仮にニッチでも、その市場で強いシェアを取れれば、その実績を持って他の領域に行っても再現性を持ってやれる」
市場占有率を意識する理由は、利益効率と企業価値に直結するからだという。
「市場内での自分たちのプレゼンス、マーケットでのリーダーシップが取れるようになればなるほど、結果的に利益効率は良くなる。機関投資家の方々とミーティングしていても、プライスリーダーになれればなれるほど企業価値は上がるとおっしゃるケースが多いですね」
春川氏によれば、プライスリーダーになれる目安は「20%から30%」のシェア。競合状況にもよるが、この水準を一つの基準として置いているという。
明るく元気な社員が多いと言われるポート社。その採用方針は創業期から一貫している。
「いろんな領域に参入していくので、その領域のプロを採用するというのはあまりやっていない。経験よりもスタンスで採用するケースが多いです」
しかし、ここに至るまでには大きな失敗があった。学生起業家としてマネジメントを学ばないまま事業を伸ばしていた春川氏は、組織が30名規模になったタイミングで強烈な経験をする。
「30人ぐらい採用して、30人ぐらい辞めたんですよ。1周しているんです。それがあったから、上場前の準備中から今にかけて残ってくれている数十名のメンバーたちは、ほとんど辞めていない」
オフィスを4倍に拡張したものの、人が辞めて必要のない規模になってしまった時期もあったという。失敗の本質は何だったのか。
「資金調達して、インターネットメディア事業を多角化しようと、いろんな領域に参入するためにその領域のプロを大量採用した。有名企業から企業名で採用するような感じになってしまって、結果的にカルチャーとのミスマッチで、ほぼ全員辞めていきました」
スキルは高いがカルチャーが合わない人材を採ってしまう──成長期のベンチャーが陥りがちな罠を、春川氏も経験していた。
「事業が後退すると人は辞めやすい。逆に事業が伸びていると人は辞めにくい。これは大前提としてある。組織もよくなるし、報酬も上がりやすい。事業がうまくいかないことが全てのネックなんです」
この経験以降、ポート社では「素直さ・誠実さを前提とした上での高いコミットメント力」をスタンスとして採用基準に据えている。市場を変えながら進む会社だからこそ、「常に自分たちをアンインストールし続けられる人材」が必要だという。
組織崩壊からの立て直しで、春川氏が選んだ道はインターネットメディア事業への参入だった。創業から3年目までは営業文化で伸ばしてきた会社が、まったく新しい領域に踏み出す転機だった。
「副社長と一緒に組織と事業を立て直そうとなった時に、自分はもうこの事業には携わらないから、インターネットメディア事業で事業を作るね、と役割分担して進んでいった」
メディア事業の立ち上げは春川氏一人。半年から7ヶ月ほどで一気に伸び、「これが主力事業だ」と判断して資金調達と採用を加速させた。やがて売上も逆転する。
「やばい時ほど大きい判断で変えに行く方がいいなと思っています」
上場のタイミングについて、春川氏の見解は明快だ。
「数億で上場して、そのまま株価が上がり続けて数千億になればそれもありだし、利益10〜20億出してから数百億で上場して株価形成した方がいい人もいる。これは全部結果論だと思っています」
その上で春川氏が薦めるのは「出られるなら早く出る」だ。ただし条件がある。
「社長がその後の成長を見えていないなら市場に出てはいけない。経営者が成長し続けることへのコミットメントが明確にあって、その先が見えている状況なら、いくらでも行くべきだと思います」
上場することで得られる実利も大きい。
「上場したからこそ金融機関とのリレーションが取りやすくなり、与信が上がって借入できる余力が高まる。加えて公募増資でマーケットから調達できるオプションも広がる。当然M&Aもしやすくなりますよね」
ポート社自身も、上場後初の公募増資を昨年実施。70億円規模の借入も実行している。「会社が株式市場に出ている以上、企業価値を上げ続けないと上場している意味がない。BSをレバレッジさせて収益に貢献させていくオプションは基本取るべき」と春川氏は言い切る。
上場後に経営者が直面する最大の試練は、市場からのプレッシャーだ。春川氏自身、ポート社の上場初日に「ストップ安2回連続で値がつかない」という、十数年で数社しかない事態を経験している。
「公募の価格を切っているので、もう怒号が飛んでくるような状況。クレームの嵐でしたね、外から。でも『上場させてもらって株価が40%落ちたらそれは起こるよな』と。相手の気持ちも理解できる」
上場後1〜2年は、株価を毎日見るのは「ナンセンス」と感じていた時期もあったという。だが、それは間違いだったと振り返る。
「上場しているということは、株式市場での評価を最も気をつけなきゃいけない。常にそこに対峙していく覚悟を持って上場しなきゃいけない。最初の頃は間違っていたなと思っています」
株価下落やクレームを「いい意味のプレッシャー」と捉え、市場と積極的に対話する姿勢に切り替えた。
グロース市場で伸び続ける企業が少ない理由について、春川氏は経営者の精神面を挙げる。
「市場に出た後に経営者が疲れるという問題が出てくると、基本的にはその会社は経営者を交代させなきゃいけない」
上場ゴールに陥らず、企業価値を伸ばし続けるための条件は何か。春川氏の答えはシンプルだ。
「経営者の戦闘力、経営者の高いコミットメントが続いている状態が最も大事。オーナー系の会社の場合は特にそうだと思っています」
貪欲さを持ち続けること。上場という通過点を超えた後も、経営者自身が成長を止めないこと。それが、市場で評価され続ける企業の条件だという。
春川氏のインタビューから浮かび上がるのは、戦略の精緻さ以上に、経営者自身のコミットメントを持続させることへの強い意識だった。30人採用して30人辞めた組織崩壊、メディア事業への転換、上場初日のストップ安──いくつもの試練を経て、市場と向き合う覚悟と、自らをアップデートし続ける姿勢にたどり着いた経営者の言葉は、これから上場を目指す経営者やM&Aを検討する経営者にとって、多くの示唆を与えてくれる。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
