M&Aは「買って終わり」ではなく「買収後が本番」。ポート株式会社の春日博文社長が語る、対象会社の組織に溶け込みながら成果を出すPMIの実践論。送り込む人材をメンバーから配置する理由、マネージャー層が辞めない理由、領域横断で組織を立ち上げる採用方針までを聞いた。
M&Aの成否は買収後の統合プロセス(PMI=Post Merger Integration、買収後の経営統合)で決まると言われる。ポート株式会社の代表・春日氏は、買収先の組織に人材を送り込む際、いきなり社長のポジションに就かせない方針を貫いている。
「社長からいきなり送り込まれると、対象会社の従業員さんからすると親会社が土足で入ってきているような感じになってしまうし、結局後々の連携がうまくいかないケースが多いと思っているんです」と春日氏は語る。
そのためポートでは、送り込む人材をまずメンバー層の仕事からスタートさせる。本人にも「最初は相当無酬的に厳しいよ」と前置きをしたうえで、成果が出てから役職を引き上げていく。実際、エネルギー事業の主力子会社では、エネルギー販売のトップにポートから送り込んだ人材が就いているが、その人物もメンバー層から積み上げて昇進してきたという。
メンバーから入るスタイルには、明確な狙いがある。春日氏が挙げるのは次の二点だ。
第一に、対象会社の組織が受け入れやすくなること。第二に、派遣された人材自身が現場のビジネスに対して高い解像度を持てるようになることだ。
「派遣した人間がすごい高い解像度を持ってビジネスに取り込めるので、マネジメントスタイルが変わります。本当に小さい事柄に対する解像度が高い状態でPMIできるので、成功確率が上がるんですよ」
納得感を醸成しながら現場の実情を理解した上でマネジメント側に回るため、時間はかかるが結果として業績が伸び続ける——これがポート流のPMI設計だ。
投資ファンドのように2年で売却する出口を前提としていないポートでは、組織全体に良い影響を与え続けられるかどうかをM&A実行前から見極める。
「M&Aする前に、結構現場のキーマンの方々と面談させてもらったりもします。主要な役員とか他の会社でもそうですけど、マネージャー以上のレイヤーの方々、辞めていないんですよ。かなり辞めていないと思うんです」
一般的にM&A後はロックアップ期間(旧経営陣・キーマンを一定期間拘束する契約)が明けると同時に主要メンバーが離脱するケースが目立つが、ポートでは縛りで引き止めるのではなく、フィットを重視した事前の見極めで離職を防いでいる。
創業オーナーは株式売却によるエグジットを目的にしているため退任が前提となるが、重要なのはその後だ。「ナンバー2のレイヤーの方が社長になる、またはポートから送る。その上で、その方々が辞めずに、かつ高いモチベーションで取り組んでもらえる状態にするのがすごく大事だなと思っています」
M&Aのデューデリジェンス(DD=買収前の対象会社の調査)にかかる期間について、春日氏は「1対1の交渉ならかなり早い」と話す。複数社が競うビッド形式では時間がかかるが、相対交渉であれば1〜2か月程度で完了することもあるという。
ポートが手がける事業は「Webで集客してインサイドセールスで支援する」という掛け算の構造を共通項としており、ビジネスモデルの構図が同じであるためDDも比較的速いスピードで進められる。
就活メディアからスタートしたポートは、現在エネルギーをはじめとする複数領域を展開している。領域ごとに組織文化や商習慣は異なるが、それらを同時に立ち上げ連携させる難易度はどう乗り越えているのか。
カギは採用段階での期待値調整にある。
「人材のビジネスだけやりたいという人を採用してしまうとそうなっちゃうと思うんです。新卒採用で『人材ビジネスだからうちの会社に来たい』と思って採用するということはあまりやらないようにしています。どちらかというと、社会の問題を解決しようね、という前提で、それをテクノロジーかリアルでやっていこうという前提で採用しています」
「領域特化型の会社ではないよ」と最初から伝えているため、人材からエネルギーへ事業領域が広がっても、社員側にミスマッチや戸惑いが生じにくい。
30歳で上場し、その後もバリエーションが上がり続けてきた稀有な事例について「再現性は?」と問われると、春日氏は時代背景を踏まえて答えた。
「2010年、2011年って、そんなにいきなりエクイティが入って一気に成長するみたいなことがなかったので、地道に営業キャッシュフローを積み上げていきながら伸ばしていかないといけない、というのが大前提としてあったと思うんです」
営業的な仕事からスタートしたからこそ得られた、オペレーションの最適化に対する勘所。テクノロジーの進化を取り入れつつも、この営業の軸を持っていることが現在の事業展開に効いていると春日氏は振り返る。
ポート式のPMIに通底するのは、対象会社へのリスペクトと、長期で価値を伸ばすという姿勢だ。送り込む人材はメンバーから始めて納得感と解像度を積み上げる、ロックアップで縛らずフィットで残ってもらう、領域横断を前提にした採用で組織カルチャーを揃える——これらの積み重ねが、買収後にも業績が伸び続ける土台になっている。
M&Aを「ゴール」ではなく「スタート」と捉える経営者にとって、春日氏の実践は示唆に富むものだ。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
