心理学の大家・加藤諦三氏が、肉体的成長と心理的成長のギャップ、宝くじ当選者の悲劇、成功者のうつ病まで踏み込み「幸せになる人の3つの条件」を語った。資本主義的な成功と人間としての幸福をどう両立させるのか、経営者必読のインタビュー。
人間は成長することを当たり前のように考えているが、実はとてもリスクを伴う営みだ──心理学者の加藤諦三氏はそう語る。
鳥や猫は放っておいても自然に成長する。しかし人間は違う。生まれた時には何の力もなく、保護と安全を求めざるを得ない。一方で成長するためには、その保護と安全から離れる必要がある。
「安全を望むか、成長を望むかという葛藤の中で、安全性が勝ってしまう。これを『安全性の優位』と呼びます。成長にはリスクが伴うことを理解しないと、人間は自然には成長しないのです」
結果として、肉体的にはどんどん成長するのに心理的には幼児のまま、という人が大量に生まれる。これが「大人になった幼児」だ。
「肉体的には40歳でも心理的には3歳、4歳の人はいくらでもいます。70歳でも心理的には7歳という人もいる。人間の欲求は抑えることはできても消えることはない。だから抑えて社会的な面目を保ちながら成長してきてしまう」
青年期になれば本来、自分の興味と関心が芽生え、自分が何に向いているかが見えてくる。しかし心理的に未熟なまま社会に出ると、深刻な問題が起こる。
小さい頃は親から無条件に褒められて育つ。ところが社会に出ると、会社は「22歳」として扱う。本人も周囲も22歳のつもりだが、心理的にはまだ2、3歳のまま──。
「自分の適性に向いていないことをやっているから、本人は本当に辛い。しかし会社はそうとは思わないから、ここでトラブルが生まれるんです」
恋愛も同じだ。肉体的には恋愛をする年齢でも、心理的には対等な関係を築けない。マザコン男性が結婚生活で苦しむのも、結婚相手に「無条件に褒めてくれる母親」を求めてしまうから。さらに親になっても、自分が子供のままでは保護者にはなれない。
話は経営者の関心事に及ぶ。売上が1億円から2億円、3億円と伸びることは「成長」と言えるのか。
加藤氏の答えは明確だ。本当に自分の関心のあることをしていれば、「1億たまったら10億欲しい」「10億たまったら1兆円欲しい」という発想にはならない、と。
「過程自体が楽しいから、目標という概念がなくなる。常に満足するわけです。だから『もっともっと』が始まった時には、もう危険信号なんです」
インタビュアーが「YouTubeの登録者数を1万人、10万人、100万人と目指してきた」と打ち明けると、加藤氏はこう答えた。
「本当に好きなことをやっていれば、1万人でも100万人でも、あるいは50万人に減っても満足できる。本当に好きなことをやっている時には『過程』に関心がある。好きじゃない時は『結果』が全てだから、『もっともっと』になる」
好きなことをやっていれば、成功しても失敗しても達成感は得られる。逆に過程に満足できないと、成功すら「焦り」に変わってしまう。
加藤氏は、うつ病研究の権威セリグマンが提唱した「サクセス・デプレッション(成功者のうつ病)」を紹介する。東大卒のエリートにも、オリンピックでメダルを取ったマラソン選手にも、自殺者は出ている。ノーベル賞受賞者ですら例外ではない。
「自分の適性に向いていないことをやって成功しても、達成感がない。『俺はダメな人間だ』という気持ちから抜け出せないんです」
好きなことを見つけられないまま、ただ親に認められたい一心で頑張ってきた人ほど、頂点に達した瞬間に行き場を失う。
アメリカABCニュースが宝くじ当選者を追跡した特集を加藤氏は引き合いに出す。当選者たちは皆、暗い顔をしていたという。
- 当選すると周囲に「タチの悪い人間」が集まってくる
- まともな人は離れていく
- 多くが離婚する
- お金を稼ぐ能力がないので10年もしないうちに財産が消える
「身分不相応なものを得ると、不幸になる確率が高い。自分相応に稼いでいる人は、周りの人間関係が変わらないから不幸にならないんです」
加藤氏が示す「幸せになる人の3つの共通性」は明快だ。
1. **適正目標を持っている**──自分の能力にふさわしい目標を持っている
2. **楽観主義である**──悲観主義の人は何でも悪く考えてしまう
3. **良い人間関係を持っている**
「人の人間関係を見れば、その人の無意識が分かる。良い人間関係を持っている人は、無意識まで含めて望ましい人なんです」
問題が起きた時、自分で解決しようとする人と、「あいつのせいでこうなった」と他責にする人。後者は成長の機会を逃し続ける。
では、自分の目標が適切かどうかをどう判断すればよいか。加藤氏の答えはシンプルだ。
「焦っていないかどうか。100万円儲ければ次は1000万円欲しくなり、1000万円もらってもどこまで行っても満足しない。それは適切な目標ではないというサインです」
過程から満足を得ている人は幸せだが、結果からしか満足を得られない人は、どんなに成功しても満たされない。
人間は鳥が空を飛ぶ姿を見て「自由でいいな」と思う。しかし鷲は地上の餌を必死に探しているかもしれない。これを加藤氏は「外貨(がいか)」と呼ぶ。自分の願望を外側のものを通して見てしまう心の働きだ。
「友人が会社を上場させたのを見て『いいな』と思うのは、自分もしたいと思っているということ。それを認識すること自体は良いサインです。本当に他人の幸せを祝福できる人こそ、本当に幸せな人なのです」
アドラーは「うつ病は重症でも2週間で治る」と語ったという。心の底に憎しみや恨みがなくなり、人の幸せを祝福できるようになれば、うつは治る──そして、その鍵は「自分の好きなことを見つけること」にある。
「アメリカの研究では、大企業で成功している人は皆『孤独と栄光』の両方を抱えている。成功者ほど孤独という地獄を味わっている、と言われます」
話題はイーロン・マスクにまで及ぶ。あれほどの富がありながらなお求め続ける姿は、加藤氏には幸せには見えないという。
「もっとお金を儲けようとするのではなく、もっと人の幸せを願うようになれば、当然幸せになれるはずです」
資本主義は「10を100に、100を1000に」というエコシステムだ。そこと個人の幸福をどう両立させるか──突き詰めるほど難易度の高いテーマだが、加藤氏が示した「過程の満足」「適正目標」「人間関係」という補助線は、経営者にとって何度でも立ち返るべき指針となるだろう。
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※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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