実家が寺で、お坊さんTikTokerとしても活動する古谷広代氏が立ち上げた「宗教×ビジネス」事業。医療機関への宗教者派遣という壮大なビジョンに、編集者・箕輪厚介氏が事業相談で投げかけた「自分でコントロールできることから始めよ」という指摘から、宗教をビジネス化する難しさと起業家が陥りがちな思考の罠を掘り下げる。
今回の事業相談企画のゲストは、お坊さんTikTokerとしても活動する古谷広代氏。実家が寺院で、2024年10月に「エク合同会社」を設立した。
古谷氏が掲げるのは「宗教者とビジネスを掛け算したものを事業として世の中に発信していく」というテーマ。相談相手は、編集者として数々の事業に携わってきた箕輪厚介氏だ。
古谷氏はまず、自身の悩みをこう切り出した。
「お坊さんというと、ワイドショーだと高額なお布施とか、決していい意味で語られないことが多くて。やろうと思っているのは、医療機関に宗教者を出入りさせる世界線を作るというのがビジョンなんです」
古谷氏が描くビジョンの根底には、日本の医療と社会保障に対する問題意識がある。
高齢者の医療費が社会保険料を押し上げている現状、平均寿命の長さ、そして昨今議論される安楽死制度。こうしたテーマと向き合うときに必要なのが「死生観」だと古谷氏は語る。
参考事例として挙げるのがアメリカだ。アメリカでは病院に牧師が常駐しており、ターミナル期の患者が不安になればボタン一つで牧師が駆けつけ、手を握ってくれる。一方で日本では、病院に袈裟を着たお坊さんが出入りしていたら「不謹慎」「死ねと言っているのか」と捉えられかねない。
それでも古谷氏は、日本人の宗教観の独特さに可能性を見ている。
「私無宗教ですっていう人が非常に多いんだけれども、クリスマスもやる、ハロウィンもやる、初詣もやる、葬式もやるという民族はあんまりないんですよ。無宗教というのか、いいものはいいよねっていう懐の深さ。僕は懐が深いっていう方を押していきたいんです」
例えば、余命半年か3ヶ月かを選ぶ場面で、死生観を持って判断するのと、考えないまま延命を選ぶのとでは大きく違う——古谷氏はそう訴える。
このビジョンに対し、箕輪氏は冷静に切り込んだ。
「言ってることは分かるけど、ビジネスってことを考えた場合、まだ早いんじゃない。安楽死制度なんて5年とか10年のスパンで楽勝でなるとは思えないんだよね」
さらに、医療機関側の視点からも疑問を呈する。3ヶ月の入院が決まっただけでも気が重いのに、病院側から「うち宗教者と連携していて、死について考えるオプションもあるんですけど」と提案されたら、患者は「めんどくせえ病院だな」と感じるだろう、と。
箕輪氏自身も、毎日神社に参拝して自分自身と向き合っているといい、「大吉教という宗教を立ち上げようと思っている」と冗談まじりに語る。日本人は状況や瞬間に応じて何かしら神的なものに依存する曖昧な宗教観を持っている。だからこそ、ビジネスとして押し売りされると引いてしまう、というのが箕輪氏の見立てだ。
とはいえ、箕輪氏は古谷氏の挑戦そのものを否定しているわけではない。むしろ「攻めとしてはいい」と評価する。
「宗教っていうのは弾圧があると中が結束するから。こいつら何やってんの、気持ち悪いって言われた方がいいんだよ」
オンラインサロンが宗教的なコミュニティとして時に炎上してきたのと同様、外圧が結束を生む構造は宗教の本質でもある。「まだ早い」という批判は、攻めの姿勢としては機能する。問題はその先の「ビジネスとしての設計」だ。
古谷氏は「自社ヘラ(自社のPR)ですけれども」と前置きしつつ、新規事業は宗教法人とは別の合同会社として立ち上げていることを明かす。宗教法人は布施に対しては非課税だが、新規ビジネスは別枠で課税される。
しかしマネタイズの設計はまだ詰め切れていないという。中傷的な概念をビジネス化しようとしているからこそ、箕輪氏は具体に落とすことを勧める。
「お客さんがどういう人で、単価いくらで、何人ぐらいいるのか。そういうめちゃめちゃ機械的なビジネスのフレームワークに当てはめた方がいい。じゃないとすごい抽象的な話が永遠に広がって、ビジネス化はしない」
世界観や概念は強いが、マネタイズや事業モデルがゼロ——これが古谷氏のいまの状況だという指摘だ。
箕輪氏が最も強調したのは、自分でコントロールできる範囲で事業を組み立てる、というシンプルな原則だ。
「ビジネスがうまい人は、自分のコントロールできるところから始めるのよ。ビジネスがうまくなかったり、初めての人たちは、医療機関とか安楽死制度とか、それを巻き込もうとする。それって自分ではコントロールできないことが入ったビジネスモデルだから、どうにもならんくねって」
そして大谷翔平のインタビューでの言葉を引き合いに出す。子どもの予定を問われた大谷が「自分の努力だけではどうにもならないことは、変に口に出さない方がいい」と答えたという話だ。
「子ども作るとか、安楽死制度とか、相手がいることや法律があることをわあわあ言ってる人って、自分でコントロールできないからこそ叫ぶし、逃げだと思う。自分ができることだけをやればいい」
古谷氏のいま「自分でコントロールできること」とは、TikTokなどSNSでの発信を強化し、インフルエンサーとしての影響力を高めることだ。そこからコーチングやメンタルケアといった派生サービスにつなげていく道筋がある。
箕輪氏の問いは最後、本質に迫る。「結局、何がやりたいの?」
古谷氏の答えはシンプルだった。「仏教を身近に」。そのためには、どんな方法でもいいと考えているという。
「出家させればいいじゃん。次々と。若いお坊さんを出家させたいじゃん」と箕輪氏。出家しても結局、人間は大したものではないと知り、ありのままを受け入れる弱さを認める——その自覚を促すこと自体が、宗教者の役割なのではないか。
相談は「次回イベント状態で成田さんに持っていく」というかたちで一区切りとなった。壮大な世界観を語ることと、ビジネスとして成立させることのギャップ。そのあいだを埋める作業が、古谷氏の次のフェーズになる。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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