『マウント消費の経済学』著者・勝木健太氏が、SNS社会で肥大化する承認欲求=マウンティング欲求を新規事業に活かす方法を解説。NOT HOTELやHOMEWINEなどの事例から、ソロプレナー時代のMX(マウンティング・エクスペリエンス)設計、SEO以後の集客戦略、合理的なM&Aイグジットの考え方までを語り尽くす対談。
『マウンティング大全』に続く新刊『マウント消費の経済学』を出版した勝木健太氏。M&A CAMPに登場した同氏が今回テーマに据えたのは、新規事業・イノベーション・マーケティング担当者に向けた「人間の欲求から逆算する事業づくり」だ。
「ビジネスを作る上で、テクノロジーから逆算しがちじゃないですか。AIがどうこう、と。でも改めて今こそ、人間の欲求や欲望から逆算して商売を作っていくことが大事だと思っています」
SNS社会の到来によって、人々のマウンティング欲求はかつてないほど肥大化している。ビッグテックのプラットフォームが承認欲求を増幅させているという文脈はネガティブに語られがちだが、勝木氏はこれを逆手に取り、ポジティブにビジネスへ転用することを提案する。本書のキーワードは、イノベーションの軸を「技術の革新」から「欲求の革新」へ移すこと。やや暴論を含むが、現代を捉える視座として一読の価値がある内容だ。
そもそも「マウント消費」とは何か。勝木氏は19世紀末の経済学者ヴェブレンやボードリヤールが論じた「見せびらかし消費(顕示的消費)」を踏まえつつ、現代版にアレンジした概念だと説明する。
富裕層が高級車や豪邸を誇示するような露骨な見せびらかしから、現代社会ではより巧妙で「マウントに見えないマウント」へと進化している。謙虚さを装ったマウント、感謝しているふりをしたマウント。コミュニケーションそのものが高度化しているのだ。
さらに世代差も大きい。中学生の頃からInstagramに触れてきた20代前半の令和世代と、40代・50代では、SNS上での自己顕示の作法がまったく異なる。マーケティング用語の「モノ消費」「コト消費」の系譜に「マウント消費」というレイヤーを加えることで、現代消費の構造が見えてくるという。
マウンティング・エクスペリエンス(MX)をうまく設計しているサービスとして、勝木氏は2社を挙げた。
一つはNOT HOTEL。不動産的なベスト性を所有することが、「賢く所有している自分」をさりげなく見せる装置として機能している。Web3やNFTといった先進的な取り組みと、人間の根源的な欲求から逆算したMXとを掛け合わせている点で、欲求革新×技術革新の好例だという。
もう一つはHOMEWINE。毎月ワインが届き、知識を学べるサブスクリプション型スクールだ。「ワインを飲んでいる人は、ワインを飲んでいるように見えて、実はマウンティングを飲んでいる側面もある」と勝木氏は表現する。少人数のソロプレナー的な体制で高い利益を出している点もポイントで、MXがあるからこそ事業をレバレッジできるという。
「ソロプレナーこそMXは必須です。MXがあってこそのDX。まずはMXだと思います」
投資家の注目を引くためAIや量子コンピュータに飛びつきがちだが、まずは普遍的な人間の欲求から事業の足腰を作るべき、というのが勝木氏の主張だ。
マウント消費が興味深いのは、経済学でいう「限界効用逓減の法則」が働かない点にある。美味しい寿司も食べ続ければ満足度は下がるが、マウンティングはずっと気持ちいい──終わりがない。
「ある種の消費という意味で、マウント消費は指数関数的に経済成長に寄与するんじゃないか。ギャグみたいですけど、本当にそうなんじゃないかと」
現代資本主義に求められる絶え間ない成長を因数分解していくと、従来型欲求以外の「マウント欲求」が占める割合が無視できないというわけだ。BtoCはもちろん、BtoBの世界でも「従業員満足度を可視化するクラウド」など、経営者向けのMXは数多く存在する。稟議を通しやすい設計など、組織内政治にもマウンティング的な力学が働いている。
話題は事業戦略論にも及んだ。多くの経営者が売上・営業利益・フォロワー数・いいね数といった同じKPIを追う中、勝木氏は「人と違うKPIを追うことのリターンが高い」と語る。
「市場がある領域で事業を0→1するのではなく、市場も何もないところを概念から0→1する。事業の0→1だけじゃなくて、概念の0→1にも同時に取り組む。そうするとサードドアが開く感覚があります」
「マウント消費」というキーワード自体、検索ボリュームはほぼゼロ。そのマーケットを自分で作って広げていく挑戦が、現在進行形で行われている。
聞き手のM&A CAMP・瞬氏は、自社メディアの運営についても率直に質問を投げた。SEOで新規参入することについて、勝木氏の見立てはシビアだ。
「ピュアなGoogle検索でゼロから参入するのは結構大変です。検索ボリューム自体が減っている雰囲気もあるし、ChatGPTで聞く流れもある。今からなら、むしろYouTube SEOじゃないですか」
たとえば動画編集スクールが動画編集系キーワードでYouTube内上位を取り、集客してスクールを伸ばして売却する──そういったモデルは依然として有効だという。一方、転職やクレジットカードのような収益性の高いSEO領域は、ドメインパワーの強い上場企業が居座っており、新規参入は厳しい。
なお勝木氏自身、4年前に転職領域の比較メディアを立ち上げ、約2年で売却している。勝ち筋として選んだのは「ドメインパワー重視」の方針。自身がインフルエンサーになるのではなく、他企業を取材しその企業からリンクをもらう形でドメインパワーを高めていったという。月利益は最盛期で2,000万円規模に達した。
月2,000万円の利益が出るメディアを、なぜ売却したのか。勝木氏の答えは明快だ。
「お金からある程度自由になりたいという目的で始めたので。収益性を得る事業と、作品性を得る事業を分けることが、よりよく生きるコツだと思っています」
下落リスクのある事業を抱え続けるより、数億円の段階で一度イグジットして人生のお金の不安をなくす。残った資金を運用するだけで、世の中のサラリーマンの生涯年収を上回る。これからAIによって事業の陳腐化スピードが加速し、エンジニアですら淘汰されかねない時代において、合理的な意思決定だという。
「これから何回も起業する時代になると思うんです。立ち上げて売却を5回、7回繰り返すような。だからこそ一度、最初から最後まで形にすることが大事」
超合理的にイグジットして経済的基盤を固めたからこそ、書籍出版のような「全く儲からない非合理的な経済活動」に取り組める。「合を突き詰めないと非合に行けない」というのが、勝木氏のスタイルだ。
対談の終盤、話題はキャリア論・人生論へと展開した。サンディエゴ大学の研究では、嘘偽りなく生きれば人生は果てしなく幸福になるという結果が出ているが、現実には99.9%の人がそれを実現できていない。
「シンプルに、嘘偽りなく本音で生きるという超絶難易度の高い取り組みをするのがおすすめです」
そのためには、ある程度属性的な結果を出すことが前提条件になる。とてつもない成功でなくていい。自分の興味と社会が求めるものとの交差点を見つけ、コツコツと人材としての価値を上げていく。インプットを重ねながら自分のやりたい姿を探り、社会から応援される形にすり合わせていく作業を、地道に続けるしかない。
また、過去に成功した経営者の言葉をそのまま受け取る危険性にも釘を刺す。昭和・平成・令和では社会構造が全く違い、令和の事業環境では「経営の教科書を全部逆に行く」ような社会実験が必要だという。ソロプレナーが「社員は少ない方がいい」と語ること自体、従来の経営論には書かれていない発想だ。
対談の最後に、勝木氏はM&A CAMP自体への事業相談にも応じた。ビジネスメディアとして「ピボット」「NewsPicks」「リハック」などと比較される土俵で戦うのは厳しい。質問の深掘りを極限までマニアックにする、瞬氏でしかできない切り口を磨く、といった方向性が示された。
そして勝木氏自身が示すロールモデルは、こうだ。1社目で売却してキャピタルゲインを得て、その経験を活かしてステークホルダー全員が最高だと感じる2社目に挑む。社員にも還元しながら、自己表現と事業性を両立させる──。
「ソロプレナー以外のほとんどの会社は、みんなすごく大変さを抱えています。これが会社経営だと思いますよ正直」
そう語る勝木氏は、人間関係の煩わしさから距離を置いた今のソロプレナーという立場を「結論最高」と表現した。完璧なソロプレナーでなくても、その要素を一部取り入れることが現代の経営者の選択肢になる──そんな示唆を残し、対談は幕を閉じた。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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