DMM.com会長・亀山敬司氏が若手経営者からの質問に答えた公開Q&A。ソーシャルグッドと利益追求のバランス、弱者戦略によるブランド構築、ホテル業界における後発からの市場参入手法、事業の集中と多角化の判断軸まで、創業者ならではの視点で語った。
海外の再生テクノロジーを日本に持ち込む事業を展開してきた経営者から、亀山会長に率直な問いが投げかけられた。「自分がやっていることは大きな視点で見ると日本の国力を下げているのではないか」「経営者としてバランスを取るべきか、シンプルに利益を追求すべきか」というものだ。
亀山会長の答えは明快だった。「僕はソーシャルグッドを取ります。ソーシャルグッドこそが自分の利益になると思っているし、短期的にお金になっても社会的に良くないことは基本やらない。自分のことを自分で好きでいられるかどうかが基準です」。
そのうえで、判断には立場の自覚が必要だと続ける。「自分はDMMの最高責任者として何をやるかという発想で考える。国会議員になれば国の立場、国連に行けば世界の立場で考える。守るべき場所、背負うべき範囲を明確にしたほうがいい」。
たとえば日本にとって良くないが世界にとって良いことが起きたとき、どこを軸に判断するか。インドのエンジニアがアメリカの仕事をオンラインで請け負えば、アメリカの雇用は失われるが世界の格差は縮まる。「自分が日本の責任者なら日本にとっていいことを優先する。家族のためなら家族のため。本当に余裕ができたら、そのうち1%でも社会に回そうとか、そういう順番でいい」。
質問者は「若い頃は世界を飛び回ってAppleやGoogleがあればいいと思っていたが、40歳になって愛国心が出てきた」と語った。亀山会長は「それは健全。余裕ができ次第、会社の次に社会や日本のことを考えていけばいい」と応じている。
グランピング施設を4拠点運営する経営者からは、ブランディングの考え方を問う質問が出た。亀山会長は意外な角度から答える。「僕ならグランピングという名前を捨てる。一度行った体験者が『もういい』となり始めている。独自のサービスをつけて新しいブランド名で出したほうがいい」。
さらにSNSブランディングについては、20年前に発見したという独自の哲学を披露した。「弱いものほど強い、というのを発見したんですよ。インターネットでは弱者ほど強い。強い人は叩かれるし嫌われるけど、弱い人は攻撃されない」。
亀山会長自身、最初に始めたブログは「童貞ブログ」で、その後「無職」「底辺ライター」と肩書きを下げ続けてきた。「だんだん弱者ポジションが取れなくなって困った」と笑う。現在は「パパ」というポジションで弱さを演出しているという。
DMM自体のブランディングも、出発点はマイナスからのスタートだった。「14、15年前は『DMM=うさん臭い、危険、やばそう』というイメージ。マイナスをゼロまで戻すのが目標だった。普通の人間ですよ、悪い人間じゃないですよ、と一生懸命言い続けて、ようやくゼロになったのが50歳前半」。
ゼロから上がってくると、今度は別の難しさが生まれる。「期待値が上がると下手なことが言えなくなる。昔なら『DMMらしいよね』で済んだ発言も、今は炎上の対象になる。信用を守り、炎上させないのが大変」。期待値コントロールという観点で、ブランドが成熟するほど運用が難しくなることを示唆した。
グランピング4拠点規模での差別化について、亀山会長は身も蓋もない答えを返した。「その規模ならサービスを良くする以外に手はない。名前なんてDMMだろうがABCだろうがどうでもいい。味の素だってただの味の素だけど、ちゃんとしたものをやっていればそれがブランドになる」。
結局のところ、行った人が「良かったね」と口コミで広げ、満足度を上げ続けることでしかブランドは育たない。「いきなりボンと上がるものではない。10何年コツコツやってきて、意外と世間は寛大だなと感じる」。
京都と沖縄でホテル運営を手がける元金融出身の経営者から、後発組としての勝ち方を問う質問が出た。京都市内と宮島という立地について、亀山会長はまず率直に評価する。「その2つならバカでも儲かるはず。インバウンドの影響で席自体はいい時に入った」。
そのうえで、施設拡大の手段として「面で抑える」戦略を提案した。具体例として挙げたのが奈良県・吉野だ。「英語対応の旅館と謳っているのに実際は対応できていない、素泊まりプランがない、ソフト面が遅れている地域がある。そういうところに1軒入って改善し、外国人収容を増やして儲かることを示せば、横にバババッと広がる」。
さらに踏み込んだ提案として、収益が伸びそうな旅館を丸ごと借り受けるスキームを示した。「年間利益100万円の旅館があったら、1200万円で全部借り受けますと。社員も全部引き継ぎます、と提案する。10年契約にすれば、自分が改善して2000万、3000万の利益を出せる。古い旅館の典型的な伸びしろは、料金設定が安すぎることとダイレクトマーケティングができていないこと」。
オフシーズン1万5000円で売っているような部屋を、アパホテル流のダイナミックプライシングで3万円に上げるだけで利益構造は一変する。決済導入、インバウンド向け広告、英語表記の充実といった対応も売上を底上げする。
さらに大胆な発想として、M&A案件への逆提案も挙げた。「後継者がいなくて売却に出ている宿泊施設があれば、買わずに『運営を任せてください』と提案する。買う金がなくても入っていける」。実際に銭湯業界では同様のスキームで若い経営者が複数店舗を運営している例があるという。
大阪で採用支援会社を経営する6年目の代表は、毎年新しいサービスを追加しすぎて「何の会社かわからない」と言われる悩みを打ち明けた。社員1名・顧客100社・拠点数800という規模感を聞いた亀山会長の判断は「もう少し集中していい気がする。多角化は10年早い」だった。
ただし、紹介ベースで顧客を絞り込み、その同じ顧客に複数サービスを提供するスタイルは肯定的に評価した。「絞り込んだお客に対して『こういうこともできないか』と言われて店舗事業も始めるなら、それは関連の延長としてあり。ただし、そのコア事業がいずれ衰退に向かうことを予想して先に新しい手を打っているなら、それは正しい動き」。
DMMが多種多様な事業に手を出す判断基準についても明かされた。「水族館はUSJ出身の人間が事業計画を持ってきて、ロジックがまとまっていたからやった。失敗したけど。8、9割は『うまくいかない』と直感で分かるから跳ねる。残りの『分からない』案件を、財布の範囲内で試す」。水族館事業はオープン直後にコロナ禍に突入し、補助金もない状況で耐えたが、現在はチームラボとの連携や差別化施策で回復基調にあるという。
大学6年生の質問者から「自分のことが好きになる瞬間はあるか」という問いが出た。亀山会長の答えは意外なほど日常的だった。「運動が大嫌いだけど、健康のためにプールで1時間泳ぐ。泳いでる間は嫌で仕方ないけど、終わった後に『今日も頑張ったな』と自分で褒める。やりたくないことをやって自分を褒めるのが、かっこよかったかなという瞬間」。
年を重ねるほど楽な選択肢が増える中で、面倒なことを意識的にやり、自己評価する。シンプルだが経営者としての持続可能性を支える美学が垣間見えた。
本セッションで一貫していたのは、「自分が背負うべき範囲を明確にする」という思想だった。社会的な大義と利益のバランスも、ブランディングのポジショニングも、事業の集中と多角化も、すべては「自分の立ち位置」を起点に判断される。亀山会長が示した処方箋は、抽象的な経営論ではなく、現場で使える具体的な手数の提示だった。後発でも勝てる戦略は確かに存在し、それは「弱さを認め、面で抑え、改善で利益を出す」という地味な原則に貫かれている。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです。


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