上場企業・北の達人コーポレーション代表の木下勝寿氏に1日密着。朝礼・クレド・権限委譲・採用基準・時間の使い方まで、年商146億円企業を率いる経営者の思考と仕組みを公開する。
札幌と東京を拠点にヘルスケア・化粧品のEC事業を展開する上場企業、北の達人コーポレーション。代表取締役社長の木下勝寿氏は、資本金1万円から会社を立ち上げ、現在では年商146億円規模にまで事業を成長させてきた経営者だ。
本記事では、M&A CAMPが行った木下氏への1日密着取材をもとに、上場企業の社長がどのように1日を過ごし、何を考え、どのような仕組みで組織を動かしているのかを再構成してお届けする。
木下氏の1日は、全社朝礼から始まる。札幌と東京の拠点をZoomで全てつなぎ、200名規模の社員が顔を合わせる。
「Zoomの方が一人ひとりの顔が見えるんですよ。前日の集客数や売上、台風など外部環境の共有を毎朝行っています」
朝礼の後は、5〜6人のチームに分かれて「グッドアンドニュー」と「クレド」を実施する。
- **グッドアンドニュー**:24時間以内に起きた良かったこと・新しい発見を共有し、人間関係を形成する
- **クレド**:会社の行動指針(全社共通+部署別で計20数個)を1日1個読み上げ、各自の意見を述べる
こうした仕組みは、創業から2〜3年目、社員が3人ほどの頃から導入してきたという。
「組織を作っていく上で、烏合の衆のままでは大きくならない。共通理念を持ち、人間関係を形成する仕組みは早い段階で必須になります」
クレドは固定ではなく、組織の状況に合わせて1〜2年に1度更新される。当たり前にできるようになった項目は外し、新たに必要な項目を加える。価値観や判断基準を共有することが、日々の意思決定の優先順位を揃えることにつながっている。
木下氏は現在、社長業のかたわらマーケティング部長も兼任している。下のメンバーが育つにつれて徐々に権限を委譲しているところだという。
「無理やり権限を渡すのは絶対にしません。立場が人を育てるという面もありますが、早すぎる段階で権限委譲して組織がぐちゃぐちゃになるケースを他社で多く見てきました」
判断基準は明確だ。日常業務の中でトラブルが発生したとき、本人が自然に自走して解決できる場面が何度か続いた段階で、初めて権限を渡す。「やってみろ」と無理に背中を押すのではなく、自然に解ける状態を見届けてから任せる、というスタンスである。
2000年頃、30歳で創業した木下氏は、事業領域の選定にも明確な論理を持っていた。
「BtoBは景気変動にすごく弱い。だから絶対にBtoCにしようと思っていました。コンテンツや技術の世界は変化が激しいので、マネタイズは『物』にしようと。それでEコマースに行き着いたんです」
BtoCは立ち上がりは遅いが、顧客基盤が積み上がれば突然ゼロになることはない。1万人の顧客が一斉に離反することは起きないからだ。一方、BtoBは1件で大型受注が取れる代わりに、担当者の異動ひとつで取引が消える脆さがある。
「絶対に失敗しない方法は存在します。それを押さえた上でやっていれば、大成功するかは分からなくても失敗はしないと思っていました」
今同じく起業するなら、と問われても、木下氏は「経験値がある分、同じ領域で行く方が早い」と即答する。
育成と採用、どちらが重要か。木下氏の答えは明確だ。
「今は圧倒的に採用です。育成という言葉はありますが、できない人をできるようにするのは正直難しい。できる人がよりできるようになるだけです」
リクルート時代に多くの社長に同じ質問をぶつけたが、100%全員が「採用」と答えたという。
北の達人では職種別採用を徹底し、各職種に向いた「センス」を定義。それを見抜くためのテストを独自に開発している。クリエイティブや運用といった職種は特に向き不向きが大きく、向いていない人が1〜2年やっても成果が出ないのに、向いている人なら入社10日で結果を出すことすらある。
経営幹部は基本的に社内から登用する。「自分で物事を考えてやる人」と「与えられた手法を実行する人」に大別される中で、自然と前者が幹部に育っていくという。
木下氏のデスクには3台のモニターが並ぶ。Zoom会議の参加者の顔、共有資料、自分用のデスクトップを使い分ける。
「Zoom以外だと逆に仕事がしづらい。リアル会議では参加者の顔も資料も同時に見られないので」
時間の使い方で最も意識しているのは「仕組み作り」だ。各事業の状況を、本人の口頭報告ではなく数字の一覧表で一目で判断できるようにフォーマット化している。
「採用目標に届いていないとき、応募者数が足りないのか、応募者の質が低いのか、内定承諾率が低いのか。本人の報告だとぐちゃぐちゃになりますが、数字の一覧があれば問題箇所が一発で分かる。1回の会議で的確な判断と指示ができるんです」
木下氏がメディアやYouTubeに出演する目的は、ほぼ100%採用だという。
「講演は多くて1,000人ですが、YouTubeは何万人にも届く。3年前から完全にYouTubeにシフトしました」
ただし注意点もある。SNSが普及する前から既に東証プライム上場企業として実績がある北の達人だからこそ、後発でSNSに取り組んでもフォロワーや再生数が伸びやすい。ゼロから立ち上げる企業にとっては本業に注力した方がよいケースもある。
「ただ、いつかの段階でSNSは必須になります。フォロワー数や再生数が極端に少ないと逆効果になることもあるので、最初の仕掛けは重要です」
密着の終盤、木下氏の新刊『悩まない人の考え方』についても話が及んだ。
「私はもう20年くらい悩んでいません。問題は起きますが、悩むというのは問題が解決しないままずっと考え続けている状態のこと。私はフォーマットに当てはめて思考処理するので、1時間以上悩むことがほぼないんです」
ポジティブシンキングや鋼のメンタルではなく、「ちゃんと考えて解消する」考え方をフォーマット化している点に特徴がある。
朝礼、クレド、職種別採用テスト、数字の一覧表、3画面のモニター、フォーマット化された思考法。木下勝寿氏の1日に共通するのは、属人性を排した「仕組み」で経営を回しているという点だ。
資本金1万円から年商146億円へ。その成長の背後には、絶対に失敗しない選択を積み重ね、組織と意思決定を仕組み化し続ける経営者の姿があった。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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