元ゴールドマン・サックスの田中渓氏とおくりバント高山氏が、人生のモチベーショングラフを片手に対談。中年期に訪れる虚無感、ドーパミン中毒からの脱却、煩悩との付き合い方、そして幸せの定義について本音で語り合った。
本記事は、元ゴールドマン・サックス出身の田中渓氏と、おくりバント代表の高山氏による対談の模様をお届けする。一見すると生活リズムも価値観も真逆に見える二人だが、対話を進めるうちに驚くほど共通する人生観が浮かび上がってきた。
田中氏は3時45分起床、6時半まで運動、9時就寝という生活を365日続けるストイックな早朝型。一方の高山氏は11時起床、深夜4時就寝、年間360日は飲みに行くという深夜型。「完全にシフト交代ですね」と笑い合いながら、対談はスタートした。
田中氏の人生は、中学受験の失敗で滑り止めの学校に進学したところからどん底を経験。そこから第一志望の会社に入社して頂点を迎えるが、30代でプレイヤーからマネージャーになる過程でモヤモヤを抱え、40歳前後で「このままで人生いいんだっけ」と大きく落ち込む。昨年会社を辞め、自分の人生の舵取りを始めた今が「一番いい状態」だと振り返る。
意外にも田中氏には、ピアスを開け、メッシュにして日焼けサロンに通い、タトゥーを2箇所入れていた「マイルドヤンキー」時代があったという。
高山氏は、子供の頃から食に困らない家庭で育ち、好きな音楽や映画を仕事にしてきた。「ずっとやりたいことだけやって楽しく生きてきたが、40歳ぐらいになってさらに許されるようになった」と語る。中野でバー「BAR PUDLE」も始め、現在も高いモチベーションを維持している。
12年目を迎える高山氏の会社は、これまで5、6回潰れそうになったという。一番ひどい時は会社のキャッシュが3万円という状況も経験している。
「落ち込んでもしょうがない。落ち込んでる時って誰も助けてくれない」と高山氏。お金を借りる時も、深刻に「やばいんです」と頼むより、「一番つまんないお金がないんですよ」と前向きに伝えた方が貸してもらえることに気づいたという。
また、辛い時は元寇で攻めてきた船の先頭にいる兵士の気持ちを思い出すという独特の発想も披露。「守ってる人より絶対あっちの方が辛いよな」と思うと明るい気持ちになって飲みに行けるそうだ。
田中氏の動じない心の作り方は、極めてロジカルだ。
「何事も始める時に3つのシナリオを用意する。順速度で行ったらこんな感じだという基本ケース、楽観的なケース、そして7割カットされる最悪ケースまで想像しておく」
事前に最悪を想像しておくことで、実際に起こった時のダメージが小さくなる。さらに田中氏は「満足度=結果ー期待値」という公式を紹介。期待値をほぼゼロにコントロールしておけば満足度は上がりまくる、という心の持ち方を実践している。
田中氏が繰り返し強調したのが、「目的」と「目標」と「手段」を切り分けて考えることの重要性だ。
「年収1億稼ぎたいというのは目標。そのために株や投資をやるのが手段。さらに上位の概念に『being』があって、それは何のために稼ぐのか、どういう自由な状態になりたいのかという話」
田中氏自身のbeingは、「自分の言葉を誰かに届けたい」「好奇心のままに行動できる状態でいたい」「気の向くままに美味しいご飯を食べ、好きな人に会える状態でいたい」というもの。これが土台にあるからこそ、目標や手段がブレないのだという。
対談の核心となったのが、田中氏が「ミッドエイジクライシス」と呼ぶ中年の危機の話題だ。田中氏のもとには、上場会社の社長、元オリンピック選手、大物歌手など、人生の頂点を経験した人々から連絡が次々と届くという。
「彼らは100%同じことを言ってくる。人生で一番頂点をもう経験してしまった、あと60年生きなきゃいけないのに下がっていくだけの人生が怖いし、つまんないし、辛いんだけど、と」
田中氏の答えはこうだ。「人間が幸せを感じる瞬間は、山を登った頂点ではなく、頂上が見えてきた時。だから次の山をどこかに持っておかないといけない」
過去に登った山の記録は「スタンプラリー」として持っておけばいい。捨てる必要はないが、常に次の山を探すことが幸福の継続には不可欠だという。
司会者から「自分はドーパミン中毒になっている」との告白を受け、田中氏は人間が幸せを感じる4つのホルモン――ドーパミン、セロトニン、オキシトシン、ベータエンドルフィン――について解説した。
ドーパミンは強い高揚感だが一時的で、より強い刺激を求めてしまう。一方、太陽を浴びる、腸の動きを良くする、運動する、音楽を聴くといった行為で出るセロトニンやオキシトシンは、穏やかで持続的な幸福感をもたらす。
田中氏自身、出家を試みてインドの90歳の仏教指導者と1週間過ごした経験もあるという。「最高だと思ったが、戻ってきてしまった」と笑う。現実的な対処法としては、1日の中に時間を区切って、散歩・マインドフルネス・座禅などの穏やかな活動を2〜3時間置くことを勧める。
タイパ・コスパ志向についても両者は警鐘を鳴らす。
「隣町まで大根が5円安いからと車で買いに行くようなもの。流されるままにやって、不確実性に任せていると、出会いやチャンスが転がっている。何でもかんでも切り詰めていくと無感想だけが残る」(田中氏)
「偉そうにタイパ・コスパと言っている人の方がダメな傾向がある」(高山氏)
人間の最高と最低の部分が共存する話題でも、二人の見解は一致した。意志の力は当てにならないし強すぎるため、煩悩は消せない。だからこそ15分から始めて少しずつ拡張していく時間管理が必要だと田中氏は語る。
高山氏は「むしろ煩悩をエネルギーにしている」「褒められたいという気持ちには抗えない」と率直に認める。CMやミュージックビデオへの情熱、47歳から始めたギターの早弾き、新しいバー経営――次々と新しい挑戦を続けることで、飽きを防いでいるという。
高山氏が大切にしているのは、「人はそれぞれだと理解できれば比較しなくて済む」という考え方。営業時代はトップになりたいと焦っていたが、ある時から意味がないと気づいた。「友達がいる、頼ってくれる人がいる、話を聞いてくれる人がいる方がよっぽど楽しいし価値がある」
田中氏も、20代でブランド品や高級車をひと通り経験した後、アスリート活動を通じて物欲が薄れていったという。「お金は手段。人より稼ぐ、偉くなることは切り離して考える」
高山氏が憧れる人物について語った言葉が印象的だ。サックスを始める時に「ジョン・コルトレーンを目指すのか」と聞かれ、「私は私を目指す」と答えたエピソードを紹介。
田中氏も「尊敬する人を聞かれてもほぼみんなのことそう思っている。すごい人の真似できるところを少しずつパクって、エッセンスを取り入れていく。人は多重人格の重ね合わせでできている」と応じた。
対談の最後、田中氏は「人生はフリーフロー」という言葉でまとめた。フリーフローには「自由に流れる」と「飲み放題」の二つの意味がある。一つのことを決めてバーっと突き進む時期があってもいいが、登り詰めると喪失感や虚無感に襲われる。常に流されながらいろんなものに手を出し、新しいコミュニティに属していけばいい――それが田中氏の結論だ。
高山氏のまとめは、シンプルに「今日はいい友達ができました」。一見対照的な二人が、根底では同じ価値観――それぞれの道で幸せに生きること――を共有していたことが鮮やかに浮かび上がる対談となった。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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