デュアルブリッジキャピタル代表・寺田氏に、VCの投資判断基準、企業価値向上の本質、そしてスタートアップによるM&A(ロールアップ戦略)の可能性について聞いた。資金調達環境が潤沢になる一方で、従来の経営手法では資金使途が見出しにくい時代に、新しい成長戦略を探る経営者必見の内容。
デュアルブリッジキャピタル代表の寺田氏が率いるのは、ミダスキャピタルという企業群ファンドグループの一翼を担うベンチャーキャピタルファンドである。
ミダスキャピタル本体は完全自己資本で運営され、成長企業に対して超長期で投資を行う。基本方針は「投資先の経営株主・筆頭株主になること」。一方で、この方針ではスタートアップ向けの少数株主投資(マイノリティ投資)が難しいため、別の投資主体として2023年に設立されたのがデュアルブリッジキャピタルだ。
デュアルブリッジキャピタルは外部から資金を預かる純然たる独立系VCで、2024年12月に総額75億円の資金調達を完了。グループ全体の運用資産は約2,000億円規模に達する。
ミダスキャピタルの代表的な投資先には、2023年に上場したアミューズメント・エンターテインメント企業のジェンダ、リユース業界のバリューセル・テクノロジーズなどがある。ジェンダは創業者の片岡氏(会長)、申氏(社長)とミダスキャピタルが3者で共同創業した会社で、ファンドはバイアウト型のM&Aだけでなく、ゼロからの会社設立にも関与している。
デュアルブリッジキャピタルの投資の約8割はシード・アーリーステージ、残り2割がレイターステージ。ファンドの運用期間は10年プラス2年の延長オプション付きで、2025年1月時点で投資済み企業は18社に上る。
業種・業態は絞っていないが、寺田氏が重視するポイントは大きく2つある。
1つ目は「強い経営チームを組成できる企業家かどうか」だ。必ずしもカリスマ的なリーダーシップである必要はなく、壮大なビジョンに共感した仲間が集まる、あるいは「支えなければ」と周囲を惹きつけるなど、形は問わない。いずれにしても産業界において推進力のある経営チームを作ることが、スタートアップの成否を分ける最大要素の一つだという。
2つ目は「実検証を伴う仮説構築力」。VCは事業領域に関しては素人であることが多く、企業家から事業計画を聞くと素朴な疑問が浮かんでくる。たとえば「製造業向けAIプロダクトを月額20万円で売る」と聞けば、「本当にAIで作り切れるのか」「20万円の便益を顧客が感じるのか」「競合は7〜8万円で提供しているが独自性はあるのか」といった疑問だ。
こうした議論は平行線になりがちだが、終わらせる方法はシンプルだ。1週間後に再会した際、企業家が「先週の話を踏まえて月額20万円で契約を取ってきました」と顧客の実需を獲得していれば、仮説は実証済みということになる。仮説を裏付ける実際の行動が伴っている企業家ほど、事業を連続的に拡大していく蓋然性が高いという。
ミダスキャピタルグループは日本有数のM&A件数を誇る。一般的にM&Aは成功率が高くないと言われるが、なぜ企業価値向上につながっているのか。
寺田氏は2つの強みを挙げる。
1つは「卓越した人材を集めきること」。トップティアの成長企業で最速で昇進している人材、20〜30代で数十人〜数百人規模の組織責任者を務める「あぶら乗り人材」と常に接点を持ち、転職市場には出てこない人材を人づてで採用する仕組みを持つ。
もう1つは「ファイナンスとM&Aを使った非連続な企業価値向上のノウハウ」。グループ経営や個人としての経験から、こうした企業行動を有効活用してきたメンバーが揃い、知見を企業群全体で蓄積・横展開している。
また、M&Aに適した業界とそうでない業界がある点も重要だ。海外勢が多い業界では適正価格でのM&A機会が少ない。市場規模が小さければ、規模感のある売却案件も発生しにくい。ジェンダのアミューズメント領域、バリューセルのリユース領域は、相対的にM&Aによる連続成長に適しているという。
そして「この道をたどると大体うまくいかない」という失敗パターンの蓄積こそが、他の投資主体にない強みになっていると寺田氏は語る。
投資銀行のマーケット部門で16年間、上場企業の企業価値分析を続けてきた寺田氏に、企業価値の本質を聞いた。
企業価値の代表的な計算式は「EPS(一株当たり利益)×PER(株価収益率)」。EPSは要するにキャッシュフローであり、PERは潜在成長率と資本コストで構成される。
ここで重要なのは、PERのレンジは限られているという事実だ。日本市場の平均は15〜20倍、高くて30〜40倍、低くても10倍程度。つまり最大でも10〜40倍の差しかない。一方でキャッシュフローには上限がない。したがって、事業領域やビジネスモデルでPERを最大化しようとするより、長期のキャッシュフローを最大化することが企業価値に最も影響する。
「足元で赤字でも、5年後に赤字でも構わない。企業が継続している期間でいかにキャッシュフローを極大化するか」が本質だという。利益はその会社が社会からどれだけ必要とされているか、独自の付加価値の対価であり、ここに集中することが企業価値向上につながる。
100%株主のオーナー経営者の場合、企業価値(株式価値)は「将来に対する割引率」によって変わる。「今100万円もらうのが嬉しいのか、3年後に120万円もらうのが嬉しいのか」は人それぞれだ。
VCが見る割引率、上場株投資家の割引率、事業会社の割引率はすべて異なる。だからこそオーナー経営者は、今の利益を投資に回した場合に5年後・10年後にどれくらい利益を増やしたいかを定量化し、判断材料として持っておくことが重要だ。
ただし確実に言えるのは「同じ金額なら今の利益のほうが嬉しい」ということ。新規事業や採用への投資判断は、株主的視点と事業家的視点を両立させるのが理想だが、無理に両立させようとせず「事業家として売上と利益を伸ばせば株価は上がる」とシンプルに考えるのも一つの解だという。
日本政府はスタートアップへの年間投資額を5年後に10兆円にする「5カ年計画」を発表。事業会社のCVCも増え、VCファンドの規模も拡大している。一方で、有力なスタートアップ数や日本市場の規模はそれに比例して伸びているわけではない。
つまり、スタートアップ向けの資金は潤沢にあるが、従来の経営手法では資金使途が意外と見つからない。この構造課題を解決する一つの手段が「スタートアップによるM&A」だと寺田氏は強調する。
広告宣伝費を大量投下してマーケットリーダーを目指すモデルは、市場規模の制約やスイッチングコストの低さから、ユニットエコノミクスが合わなくなってきた。代わりに台頭しつつあるのが、ジェンダのような上場成功事例をアナロジーとした、連続的なM&Aによる成長戦略(ロールアップ戦略)だ。
たとえば広大な顧客基盤を持つが製品競争力の弱い企業を、強いプロダクトを持つスタートアップが買収すれば、顧客基盤と商品力を掛け合わせて非連続な成長を実現できる。
ただし寺田氏はM&Aの危険性も率直に語る。「自社の業績予測ですら1年後を正確に当てられる経営者は少ない。にもかかわらず数ヶ月のデューデリジェンスで他人の会社を利益の5〜10倍払って買収するM&Aは、正気の沙汰ではないほどリスクが高い」。だからこそ知見の差が競争優位になり、経営力の差が企業価値に直結しやすい。安易に成長の源泉とすべきではないという。
なお、デュアルブリッジキャピタルの投資先には黒字達成済みの企業も少なくない。本業では資金調達不要だが、M&A含む新たな動きへの追加調達ニーズに応えるパターンも増えているという。
ロールアップ戦略を実行する側に立つには、「いま投資している先にどれくらい長持ちする収益基盤を築けるか」「その城下町からどれだけの収穫高が見込めるか」を冷静に見極める経営力が求められる。
M&A、ファイナンス、経営人材の獲得は産業を問わず再現性が出しやすい領域。一方で売上の作り方は事業ごとに異なり横展開が難しい。コスト削減は比較的やりやすい。
また、AIの活用についても本質は同じだ。「キャッシュフローを増やすには、安く買うか高く売るかしかない」。AIプロダクトを開発・販売して高く売るのか、AIで人件費等のコストを削減して安く仕入れるのか。要素技術としてのAIがどうキャッシュフローに結びつくかを企業ごとに判断することが重要だ。
寺田氏との対話から見えたのは、企業価値向上の極めてシンプルな原則だった。長期のキャッシュフローを最大化すること、強い経営チームを作ること、仮説を実証で裏付けること。M&Aやロールアップ戦略といった先進的な手法も、結局はこの原則の上に成り立つ。
デュアルブリッジキャピタルでは、現在も投資先の発掘とキャピタリストの採用を積極的に進めている。経験を問わず、VCというプロフェッショナルの仕事に熱量を持つ人材を求めているという。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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