350億円を運用する機関投資家・ファンドノート川井氏に、3画面同時のチャート分析、IPO企業500社の業績予想Excel、オーガニック成長の見極め方など、プロの投資手法を聞いた。経営者が知るべき投資家目線とは。
約350億円を運用する機関投資家・ファンドノートの川井氏。前回1日密着取材を行った際に話題となった「3画面で同時にチャートを追う」分析スタイルについて、より具体的な手法を聞いた。
川井氏のデスクには複数のチャートが常時並ぶ。日本株、米国株、欧州、中国・香港株まで一覧で表示され、リアルタイムで動く銘柄を右端に置きながら、他は分析作業に充てているという。
「考え方としては、何が起きた時にどういう動きをしたかを考えるという感じです。日々いろんなニュースが出る中で、ノイズではない部分、みんなの考え方がどれぐらいマーケットに織り込まれているかを測るために常にマーケットを見ています」
ニュースが出た際、トピックスが上がって日経平均が上がっていなければ金融株中心の動きと判断し、日本の利上げに対するポジティブニュースだろうと推測する。逆に日経平均が上がってトピックスが上がっていなければ、半導体や輸出関連企業に好材料が出たと考える。
- トピックス:東証一部上場の約2,000社、日本全体を映す指数
- 日経平均:代表的な225社。現在は半導体色が非常に強い(アドバンテスト、東京エレクトロン、ソフトバンクグループ等のウェイトが大きい)
- S&P500:500社の総合的な指数で中立寄り、トピックスに近い
- NASDAQ:IT100社中心で日経平均に近い性格
- NYダウ:製造業寄りの30社
「日本とアメリカで8割決まる感じです」と川井氏。日経平均が史上最高値圏にある背景については、米国でのAI投資の激化と、それに伴う半導体需要の増加を挙げた。
情報収集にはXのリストが欠かせない。フォロー1,000人規模のリスト、金融機関で働く人のリスト、クリプト関連、ニュース速報、宇宙関連など複数のリストを使い分ける。
宇宙関連を追っているのは、日本の宇宙株が今後伸びると見ているからだ。国の宇宙関連投資予算は2025年の2,500億円から2026年には4,000億円規模への増額が見込まれており、ベンチャーやインフルエンサーの動向もウォッチしている。
AIツールはディープシーク(DeepSeek)とChatGPTを使い分ける。「中国に絡むテーマやクリプト、コーディングはディープシーク。文章生成や交渉メールはChatGPT」というのが基本だ。
川井氏のフォルダには、直近5年で上場した約500社(実質700社)の個別Excelが格納されている。
「決算は3カ月ごとに出してくれるので、3カ月ごとにどういう変化が起きたかをすべて把握しておきたい。説明資料の中の受注残高、JAXAの補助金額、何期の打ち上げが決まっているか、そうした数字を漏らさずExcelに転記しています」
業績予想は3〜4年先まで作る。売上を構成要素ごとに分解し、それぞれを成長率や利益率の前提に基づいて積み上げていく。実績が出るたびに前提を見直し、会社のIRが発信するメッセージと突き合わせて修正する。
「これぐらいちゃんと分解して真面目にやるかどうかで差がつきます。誰でもできるんじゃないですか、時間と一定の作法の勉強があれば」
川井氏が紹介した著作権管理会社の事例では、売上前年比成長率が35%→21%→20%→15%→2.6%と下がっていた。一見、急激な鈍化に見えるが、前年同期が35%と特殊に高かったため、実力ベースでは15〜20%成長は維持されている可能性があると見立てる。
「グロース株は成長率が下がると株価が下がりやすいですが、要因によってはむしろ買いタイミングになる」
なお、3カ月単位の数字は経費計上のタイミング等で一定コントロールできる。短期で取り繕っても1年単位で見れば実態は明らかになるため、その間に買った投資家を含み損にするだけで意味がない、というのが川井氏の見方だ。
投資家がポジティブに評価する成長率の目安は、トップライン(売上)30%以上。これでグロース市場の上位15〜20%に入る水準だという。
「20%の伸びでも『鈍化したな』と感じる。普通の社長やニュースだけ見ている投資家は『売上20%伸びてすごい』と思うかもしれませんが、そこにギャップがあります」
また、利益はノイズが多いため、川井氏は粗利益の伸びを重視する。会社ごとに比較できる物差しとして信頼度が高いからだ。
近年はM&Aで売上を膨らませる会社が増えている。川井氏はM&Aリリース内の業績数字を読み解き、連結売上の伸びから買収企業分を差し引いて、本体のオーガニック成長率を独自に計算する。
「M&Aがその会社の成長戦略の基本ですと打ち出している会社であれば、それで評価します。ただ、そうではない会社がM&Aで業績をボンと膨らませているのは、僕たちは見抜きます」
買収から2年程度経てば統合済みとして全社オーガニックで判断するが、買った直後はあくまで分離して見るという。
親子上場については基本的に好意的ではない。子会社が親会社を向いてビジネスをするリスク、配当方針や関係取引の条件、流通株の少なさによる流動性低下を懸念する。
コングロマリットについても、それぞれの事業が最適な投資をできているか見えにくいためディスカウントされやすい。「時価総額3,000億円規模になればコングロマリットでもいい」が、それ未満であればワンプロダクトに集中した方が投資家には分析しやすく、評価されやすい。
ポートフォリオに組み入れる際の最初のロットは0.5%程度。300億円のファンドなら1.5億円規模だ。確信度が高まれば5%まで増やし、相当な自信があるときに最大10%まで引き上げる。
「『株価がすぐ上がる』『他の人がまだ気づいていない』『大きく上がる可能性がある』と思える時にテンションが上がる。例えば、自分しかこの足し算・引き算をしていないだろうという瞬間がたまにあります」
損切りラインは決めていない。会社の成長ストーリーが続く限り保有するスタンスだ。
ファンドノートは未上場株、特にシリーズC後半〜Dの会社にも投資する。シード投資はリスク分散が必要なVC型の戦略になるが、レイターであれば1社1社のバリュエーションが上場時に上がるかという視点で評価できる。
「上場時には基本3割ぐらい株価が上がるべきとされている。両方やっている人がいないので、上場株の知見を未上場に活用するとリターンが出せる」
川井氏との対話を通じて、経営者と機関投資家が見ているレースは大きく異なることが浮かび上がる。
- 業界全体が伸びていなければ、どれだけ頑張っても株価は上がりにくい
- 売上数億円規模で上場すると、わずかな増減で成長率が大きくぶれ経営が難しくなる
- 上場は「ガチのファイナンス強者」が株主に入ってくるスタートライン
「ある有名な経営者は、仲のいい機関投資家を1人作れと指導するらしい」と聞き手が紹介すると、川井氏も「絶対にそうですね」と頷いた。投資家側の気持ちが分からなければ、上場後の戦いで戦えないからだ。
ファンドノートの目標リターンは年率20%(手取りベース)。手数料は固定1.8%+年率6%超過分に対して20%の成功報酬。25%程度のグロスリターンを狙い、20%を顧客に返す設計だ。
ただし川井氏は「IPO株は飛び道具的なアセット。ポートフォリオの中心はトピックスやS&P500のようなインデックスであっていい」と冷静に語る。「インデックスは年6〜8%の安定リターンを得るために使い、当社のような戦略は資産の一部で活用するのが望ましい」
聞き手も最低ロットの300万円から実際に口座を開設し、投資をスタートすることになった。
3画面のチャート、500社のExcel、Xの複数リスト、AIツールの使い分け——機関投資家のリアルな分析手法は、経営者にとっても示唆に富む。
オーガニック成長を見極められること、粗利益の質、ワンプロダクトでの集中、規模感を伴った上場——これらは長期で会社を成長させる経営者が押さえておくべき視点でもある。「投資家目線を知らないと、長期で経営する上で成長の定義の基軸が変わる」という聞き手のコメントが、本記事の核心をよく表している。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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