未上場株と中小型株に投資するファンド「カイカ」のファンドマネージャー・石井氏の1日に密着。350億円を15名で運用する組織体制、3年で105%のリターンを生む銘柄選定の哲学、朝5時から始まる相場との向き合い方を徹底取材した。
今回のM&A CAMPは、これまでの起業家・創業者への密着とは趣向を変え、「投資する側」の1日に迫る投資家密着シリーズ。取材させていただいたのは、未上場株および上場後5年以内の中小型株に投資するファンド「カイカ」のファンドマネージャー・石井氏だ。
オフィスは港区。常勤社員15名、非常勤やリモートを含めて約20名という少数精鋭で、運用残高は約350億円にのぼる。
「このビジネスをやるのに最小人数というのが10人くらいなんです。長くやっている会社は100〜200人くらいの規模感ですが、うちはスタートアップなので、社内に必要な部分だけ採用し、他はBPOを活用して効率的に回しています」
石井氏の1日は朝5時に始まる。子供の世話をしながらTwitter(X)で株のリサーチ、米国市場や欧州株の動向を確認し、その日の日本株の動きを予想する。
出社時にはすでに発注はほぼ完了しているという。3つのモニターには、保有銘柄、指標、ニュース、Twitterのタイムラインがびっしりと並ぶ。
「ニュースよりもTwitterをずっと見ています。リアルタイム性で言えば一番早い。不動産、半導体、自動車など各領域のスペシャリストが匿名で発信していて、情報源として非常に有用です」
3画面を駆使しながらミーティング中も値動きをチェック。マルチタスクをこなす姿に、ファンドマネージャーという仕事の独特なリズムが見える。
石井氏が運用する最も古いファンドは、過去3年間で+105%のリターンを記録している。100万円が約205万円になった計算だ。
では、どのように伸びる会社を見極めているのか。答えは驚くほどシンプルだった。
「めちゃくちゃ当たり前なんですけど、プロダクトがいいか営業がいいか、どっちかですね」
プロダクトについては、「お客さんにとって導入しない理由がない」「業界唯一の商品である」「法規制の変更で導入必須となる」といった条件を満たすものが固い。営業については、キーエンスを引き合いに出しながら「あの仕組みを真似できている会社は強い」と語る。
意外だったのは経営者評価への姿勢だ。
「経営者の能力はあまり関係ないと思っています。すごい賢い経営者でも戦略がしょうもないことはあるし、一度走り出したら方向転換は難しい。今プロダクトがいいかどうかの方が大事です」
取材中、特に印象的だったのが次の言葉だった。
「ロジカルで出てくる答えってあまり儲からないんです。同じ結論にみんなが行くので、早い者順の競争になってしまう。だから自分が他の人と全然違うタイミングで何かを思いつくようにしています」
また、いい投資家の条件として石井氏は2つの矛盾する要素を挙げた。
1つ目は「固執しないこと」。昨日までいいと思っていた銘柄も、決算が悪ければスパッと売る。
2つ目は「自分の軸を持つこと」。中小型株・IPO株を見極める戦略については一切ブレない。
「両立はかなり難しいですけど、戦略は信じきって、短期の投資判断や市場の見方はコロコロ変える。そのバランスです」
IPO銘柄について石井氏は「100社上場しても、当たるのは10社くらい」と語る。その10社を見つけるために、対象となる時価総額50億〜500億の中小型株を5年間×100社、ずっと巡回し続けているという。
「3ヶ月間その会社を調べていない状態が気持ち悪いんです。実は3ヶ月後ぐらいから上がりそうなのに忘れていた、というのを取り逃したくない」
このこだわりが、トップパフォーマンスを支えている。
石井氏のファンドはプロマーケット(TOKYO PRO Market)にも投資する。VCが保有する銘柄がTPMに上場すると、出来高が乏しく株価が動かないために割安な水準で放置されるケースがある。そこに目をつけ、株主から相対で買い取るのだ。
「VCは10年で投資先を100億にしないといけないけれど、我々はその後の橋渡しができる。VCから受け取った株を、サイズが大きくなった段階で大手機関投資家へ売り渡す部分をやりたい」
投資ロットは1社あたり1〜2億円が中心。5%ルール(大量保有報告義務)を意識して、それ以下に抑えるのが基本方針だ。
足元のマーケット観についても言及があった。
「世の中はすごく金余りです。この1年は現金価値の下落が激しい。株や何らかの資産を持っていないとダメな状態。安牌とされているのがビットコインと金です」
ビットコインは流通量が増えないため相対的に価値が上がる。金も同様。米国のマグニフィセント7(GAFAM+メタ+エヌビディア+テスラ)に資金が集中するのも、同じ「カネ余り」の文脈で説明できる。
ただしエヌビディアについては「アリババなど中国勢が同等性能のチップを開発している」点を懸念材料として挙げた。
昼食は8割がオフィスでの中華弁当か、マクドナルド、コンビニの3択。マックではモバイルオーダーで照り焼きバーガーを注文。これは小学生から20年変わらないという。
「変なことを考えずに一番美味しいものを選んだら、結局マックの照り焼きになるんです」
趣味らしい趣味はなく、強いて言えば投資本とプログラミング。Cursorを使って自分の業務効率化システムを書いているという。配偶者も株関連の仕事をしており、「共通言語があって仕事への理解がある」と語る。
夕方以降もアメリカ株や先物の動向を追い、翌日のシナリオを考える。Twitterも半分以上は仕事。1日の中で「働いている時間」と「そうでない時間」の境界はほとんどない。
現在の運用残高37億円のファンドは、2027年頃までに200億円規模まで募集を行い、その後は新規募集をクローズして育てていく方針だ。最低投資額は100万円から、平均は500万円ほど。年率15〜20%のリターンを目標に掲げている。
「自分の戦略をちゃんとやっていけば、小型株の伸びている会社は平均リターンが25〜30%ある。そういう会社を引ける能力を信じていただければ、年率15〜20%は狙えると思っています」
350億円を15人で動かす世界には、規模を追うのではなく、銘柄選定能力を磨き続けるという別の哲学があった。1日中Twitterと指標を眺め、3ヶ月見ていない会社を「気持ち悪い」と感じる感覚。ロジカルでは儲からないからこそ、感覚と定性情報を大切にする姿勢。
株式投資という勝負の世界で長く勝ち続ける人の思考と日常が、わずか1日の密着の中に凝縮されていた。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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