元ミクシィ代表で現アニマルスピリッツ代表の朝倉祐介氏が、自身のスタートアップ売却・上場企業経営・VC設立までの軌跡を語る。資金調達の落とし穴、企業家・事業家・経営者という3つのフェーズ論、そして本当に伸びる会社の見極め方とは。
元ミクシィ代表取締役で、現在はベンチャーキャピタル「アニマルスピリッツ」を率いる朝倉祐介氏。そのキャリアは異色だ。
中学卒業後、競馬騎手を目指して2年弱を競馬の世界で過ごすも、体格が大きくなりすぎたうえに交通事故に遭い、肉体労働の継続が困難に。3年間専門学校に通って大学受験資格を取得し、東京大学に進学した。
「競馬の世界はやっても背が伸びすぎたらどうにもならない、自分でコントロールできない世界です。でも大学受験は別に自分でコントロールできる。これはいいなと思ってやっていました」
大学卒業後はマッキンゼー・アンド・カンパニーに新卒入社。3年半在籍した後、学生時代に仲間と立ち上げたスタートアップ「ネイキッドテクノロジー」に戻ることになる。
朝倉氏が出戻ったのは2010年。リーマンショック後でベンチャー投資が極めて下火だった時期だ。
「2023年、24年の日本のスタートアップ資金調達額は8000〜9000億円程度ですが、2010年当時は700億円ほど。本当に氷河期のような時期でした」
ネイキッドテクノロジーが手掛けていたのは、ガラケー時代に複数キャリア・複数機種に対応するアプリケーションを1つのソースコードから展開できるミドルウェア。これをライセンス提供しつつ、自社でTwitterクライアントなども開発していた。
しかし、ガラケーからスマホへの大きな端末シフトのなかで事業の先行きは厳しく、資金調達のために事業会社を含め複数社を回るなかで「100%買収したい」という申し出を受ける。その1社がミクシィだった。当時1億円の資金調達でも「すごい」と注目される時代であり、スタートアップM&A自体が珍しかった。
2011年9月にミクシィ入社、2012年7月に執行役員、2013年春に代表取締役へ。当時のミクシィは、海外SNSの参入による可処分時間の奪い合い、ガラケーからスマホへのデバイスシフト、ナショナルクライアントのスマホ広告出稿の遅れという三重苦に直面していた。
「ガラケーで売上の大宗を占めていた状態から環境が大きく変わり、スマホに移行するユーザーに対して広告売上が追いついてこない。中で見ていて、なかなか大変な状況でした」
会社のアイデンティティが「SNS」と完全に密結合していたため、SNS以外の事業をやるという発想が社内外ともに受け入れられにくかったという。朝倉氏が一貫して取り組んだのは、この密結合をどう解きほぐすかという経営課題だった。
結果として「時代の歯車がカチっとはまった」形で業績は急回復。代表就任時に時価総額180億円だった同社は、数千億円規模まで成長した。
朝倉氏は、経営者を「企業家」「事業家」「経営者」の3つのフェーズに分けて捉えている。
- **企業家(0→1)**:プロダクトやサービスをゼロから生み出すフェーズ
- **事業家(1→10)**:生まれた事業を安定運営し、収益を上げながら拡大再生産するフェーズ
- **経営者(10×10=100)**:10の事業を10個同時並行で回していくフェーズ
「人には得手不得手があるので、0→1は得意だけれど100からっきしダメ、という人は実際にいっぱいいる。逆に100をうまくできる人が0→1できるかというと、これもまた別の話」
朝倉氏自身は、ネイキッドテクノロジー時代の0→1と、ミクシィでの100の両方を経験したことになる。「適性とか言ってる場合じゃない。目の前で家事が起きていたら、消火器があればかけるし、バケツがあればバケツリレーをする。それくらいの状況でした」
2014年にミクシィ代表を退任した朝倉氏は、スタンフォード大学からのオファーを受けて2年間アメリカへ。サバティカル(長期休暇)として研究員生活を送りつつ、現地スタートアップへのエンジェル投資も行った。
投資先の1社、ナイジェリアのオンライン決済企業「Paystack」は後にStripeに約200ミリオン(約300億円)で買収され、当時のアフリカ初スタートアップとしては大型のイグジットとなった。
帰国後の2017年、朝倉氏はシニフィアンを共同創業し、200億円規模の「THE FUND」を組成。当時ほぼプレイヤーがいなかったレイトステージ投資に特化し、タイミー、アストロスケール、SmartHRなどに投資した。
背景には、当時から問題視されていた「スモールIPO」「上場ゴール」への課題意識がある。
「スモールIPOが起こるのは、起業家の志が低いからでもVCが早く売り抜けたいからでもなく、需要に対して供給がないから。数十〜数百億円単位の資金調達ができないなら、イグジットはIPOしかない。だったら大きく育てるオプションを作ろう、と」
2024年頃、朝倉氏はシード・アーリーステージを対象とする「アニマルスピリッツ」を立ち上げる。レイトステージ投資の現場で、初期からの資金調達ストーリーの設計に課題を抱える起業家が多いと感じたためだ。
「2桁、場合によっては3桁億円の資金調達をしようとしているのに、定量的なデータが財務諸表ぐらいしかなかったり、KPIがうまく設計されていなかったりする。事業計画も、シードの頃の延長線上で書かれていて、レイトの調達ストーリーとして成立していない」
そしてこう続ける。
「初めて資金調達をしたいというご相談を受ける機会が多いのですが、体感で6〜7割は資金調達しない方がいいんじゃないかという話をしています」
VCマネーには「色」がある。投資した株式の価値が10倍、20倍、30倍、100倍に上がるリターンを期待しているお金だ。事業の性質上そこまでの急成長を求められないビジネスや、まだ手がかりが掴めていない段階で外部資本を入れると、起業家もVCも不幸になる。
「VCを入れた瞬間から砂時計が落ち始める。リード・ホフマンは、スタートアップは崖から降りながら激突する前に飛行機を組み立てるようなものと言っていますが、自己資金でじっくり事業を組み立てられるマーケットなら、そもそもそんなことをしなくていい」
VC投資においてしばしば議論される「マーケットと経営者、どちらを重視するか」。朝倉氏の答えは、結論として両方大事としつつも、自社のスタンスは「マーケット重視」だと語る。
「ものすごく優秀な人が成長しないマーケットでやっているのと、飛び抜けて優秀ではないかもしれないけれどマーケットが正しい時、どちらを取るか。僕は後者の方が伸びると思っています。なおかつ人は変わる。事業を通じて学び、伸びていく可能性がある」
アニマルスピリッツが掲げる投資テーマは3つ。
1. **国を守る**:超高齢社会の持続可能性に資するソリューション
2. **地球を保つ**:気候変動など現役世代が向き合うべき課題
3. **フロンティアを開く**:宇宙開発など新しいマーケットの創造
そしてこれら全てに横串で関わるテーマとしてAIがある。「全ての産業に関係しないものはない」(朝倉氏)。
朝倉氏はM&Aに対する日本社会の偏見にも言及する。
「経済紙ですら事業売却のことを『身売り』と呼ぶことがある。これはひどい差別用語で、本来は人身売買を表す言葉。会社を売ることがそんな後ろめたいものであるはずがないし、事業が伸びることを大事に考えるならむしろ戦略的に使うべき選択肢です」
M&Aが増えてこなければ、スタートアップの出口が広がらず、エコシステムも回らない。一方で、M&Aは需要と供給の問題であり、売り手側だけが増えても買い手側の需要が伴わなければ機能しない。
また、売却後の経営者の振る舞いも重要だと指摘する。売却前は「自分たちの会社はこんなにいい」と価値を高めるインセンティブが働くが、売却後に約束した成長が実現しなければ「高値掴みされた」と評価され、信頼が失われる。これはIPOゴール批判と同じ構造だ。
上場前のセカンダリーマーケットや、創業者の一部株式売却についても朝倉氏は前向きだ。
「創業者がイグジットイベント前に保有株式の一部を売り出すのは、大いにありだと思います。ただ程度の問題で、100%売り払ってしまうなら、その人は経営者ではないだろうと」
未上場期間が長期化する潮流のなかで、上場やM&Aまで歯を食いしばって安い役員報酬で頑張れというのは現実的でない。モチベーションを保つ仕組みとして、一定のセカンダリー売却は機能する。一方で、ファンド期間の都合で事業に最適でないタイミングで早期のイグジットを迫るVCの姿勢は本末転倒だと指摘する。
最後に朝倉氏が強調したのは、資本市場との向き合い方だ。
「資金調達するということは、ある種、別の事業をやるようなもの。自分たちの会社を売っているわけですから、資本市場はもう一つのお客様なんです」
「時価総額が上がらなくても会社の資金は困らない、と真顔で言われることがありますが、それは結局あなたのお客様を困らせているということ。自分たちのプロダクトに関しても同じことが言えますか、と思うんです」
資金調達は解約できないサブスクリプション契約のようなもの。経営の複雑性を確実に増す。それでもなお踏み切るだけの確信があるかどうか。これが朝倉氏の問いかける本質的な視点だ。
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※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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