セブンドリーマーズで累計110億円を調達しながら破産申立てに至った阪根信一氏。再びトレダム株式会社を立ち上げ、シード・シリーズAで合計約7億円を調達できた背景には何があるのか。資金調達の現場で起きていたリアルなドラマと、誠実な挑戦が次のチャンスを呼ぶ理由を語ってもらった。
衣類折りたたみロボット「ランドロイド」で世界的に注目を集めたセブンドリーマーズ。創業者の阪根信一氏は、累計110億円の資金調達を実現した稀有な経営者だ。しかし、そのスタートは派手なものではなかった。
「最初は堅実なスタートでした。小さな事業で収益を上げ、その利益を医療デバイス部品事業や、ランドロイド・ナステント(無呼吸症候群デバイス)の基礎研究にコツコツ投じていったんです」
ビギナーズラックもあり、医療デバイス部品事業がしっかり利益を生んでいたことで、赤字を掘らずに開発投資を続けられた。そして2014年春、ランドロイドが世界で初めてカメラとロボットアームだけでぐちゃぐちゃの衣類を畳めるようになった瞬間が訪れる。
「ここでアクセルを踏むぞと決めて、初めて本格的な資金調達を開始しました」
ハードウェアスタートアップでアクセルを踏むには、相当な資金が必要だった。プロダクトの開発に15億円。逆算するとバリュエーション30億円は確保しないと株式が大量に持っていかれてしまう。そう判断した阪根氏は、いきなり「プレマネー30億円・10億円調達」を目標に据えた。
相談先として最初に向かったのは野村證券。そこからジャフコの役員を紹介され、プレゼンに臨んだが——。
「『時価総額いくらぐらい考えてるんですか』と聞かれて『30億持ってます』と答えたら、『すぐ帰れ』『いい加減にしろ』と。2014年当時は、利益を出してがっつり伸びているIT企業でやっとバリュエーション10億円という時代だったので、『1円も売上上げてないお前が何言ってんだ』というのは当然の反応でした」
それでも阪根氏は粘り強く投資家を回り続けた。やがて大手VCの一人がランドロイドのプロトタイプに惚れ込み、3億円のリード投資が動き始める。並行してフォロー投資家も探していたところ、ある事業会社の社長が「7億円残り全部出す」と申し出てくれた。
ところが2014年8月のお盆明け、その大手VCから突然「出せなくなった」と連絡が入る。会社のキャッシュは8月末で尽きる。阪根氏は丸の内のホテルのカフェで、7億円を約束してくれた社長に頭を下げた。
「『リードVCが降りてしまいました。心変わりはありませんか』とお聞きしたら、その社長は『阪根さん、私は別にそのVCが出すと決めたから出すと決めたわけじゃない。私は自分自身で決めたので、7億円は出します』と言ってくださったんです。本当にかっこよかった」
しかし振込は最速で10月末。8月末までのキャッシュが回らない。阪根氏は東京都全部の知財を担保に差し出して3億円の融資を受け、その場をしのいだ。最終的にはリード投資家として東京大学エッジキャピタル、産業革新機構(テック側)の厳しいデューデリジェンス(投資先の事業・技術・財務を精査するプロセス)を通過し、シリーズAで15億円を調達した。
「ハードウェアスタートアップのデューデリでは日本一厳しいと言われていました。そこを通ったことで信用の裏付けができ、出資したい投資家がさらに増えていったんです」
シリーズB以降は、過去のシリーズで約束した事業計画の達成度が問われる。阪根氏は予算を上回る成長で、株主を驚かせた。
「『ここまでアグレッシブな計画を見事に達成するスタートアップは見たことがない』と株主から言われるくらいでした。鼻に入れる無呼吸症候群デバイス『ナステント』の売上が右肩上がりで伸び、ランドロイドの開発もスケジュール通り。R&Dと収益事業を両輪で回せていたので、シリーズBではプレ100億円のバリュエーションで60億円を追加調達できました」
シリーズBでは戦略的に事業会社を軸に据えた。ランドロイドを家電として発売するには「選択感想機」の技術が必要で、それを持つのは国内ではパナソニック、東芝、日立、シャープの4社のみ。阪根氏はこの4社のいずれか1社にリードを取ってもらうと決めて動いた。
「6月1日を解禁日にして、5月末までにあらゆる特許を出し切り、4社にNDAを結んだうえで一斉アプローチしました。最初に来たのがパナソニックさん、5日後にシャープさん、東芝さんは6月末。条件は決めていたので、ファーストカム・ファーストサーブで早く合意できた相手と進める形を取りました」
さらに10月の幕張のCEATECで大手企業トップとの記者会見を行うことを「絶対条件」として掲げた。最終的にパナソニック、大和ハウスとの3社による資本業務提携が成立し、ワールドビジネスサテライトの密着取材も入る大々的な発表となった。
順風満帆だった事業に暗雲が立ち込めたのは、ナステントで誤飲事故が発生したときだった。
「月1億円規模で伸びていた売上が、出荷停止で一気にゼロになりました。厚生労働省と命がけの交渉をして、製品自体に問題はないとなったのですが、説明書に『誤飲事故が起こり得る』という一文を加える必要があった。それは納得です。ただ、市場に出ている在庫を全品回収するよう求められたんです」
5家庭で10箱買って貯めている人をどう追跡するのか。追えるはずがない。それでもホームページ告知、購入者へのメール、店舗での告知など、あらゆるベストを尽くして自主回収を実施。一定期間返品が止まるまで再販審議には入れない。結果として半年間、売上ゼロの状態が続いた。回収費だけで1億円。
「役人の前で足を持ちながら泣いていました。でも涙は報われませんでした、全く」
再開後も広告規制が厳しくなり、医師の処方指示書がなければ買えない仕組みに自主的に切り替えた結果、売上は10分の1以下に落ち込んだ。月1億円が2000万円を切る水準まで下がった。
「やるしかないですよね。修正事業計画を取締役会に上程し、株主に説明に回って、『良くない時ほど早く誠実に伝える』を徹底しました。投資家からも『仕方がない、誠実に対応してくれた』と納得してもらえたと思います」
それでも次の調達には暗雲が立ち込め、最終的にセブンドリーマーズは破産申立てに至った。累計110億円の調達を経ての結末だった。
破産後、阪根氏には上場企業から好待遇でのオファーもあった。一瞬グラついたという。それでも再びスタートアップの「地獄の道」に戻ったのには理由がある。
「前職で何十億も損してしまった株主の方々から『もう一度チャレンジしろ。小さいチャレンジなんて許さない、やる以上は大きなチャレンジをしてくれ』と励ましていただいたんです。そこまで言っていただいて、裏切れないなと」
阪根氏はそこに日本の起業環境への確信を見出している。
「日本においては、誠実な挑戦にデメリットはないと思います。失敗したとしても、誠実な挑戦であれば後押ししてもらえる」
現在共同代表を務めるトレダム株式会社は、貿易企業の為替変動リスクを解消するBtoB FinTechのSaaSツールを展開している。前回の反省を踏まえ、BtoCのハードウェアではなくBtoBのITソフトウェア、それもFinTech領域を選んだ。
「マーケットの大きさや将来の夢の大きさは変えていません。ただ、そこにたどり着くまでのリスクを縮小させたという感覚です」
2回目の起業では資本政策のアプローチも変えた。前職では10年近く受託・部品事業の利益で基礎研究を支えてからアクセルを踏んだが、今回は最初からエクイティ調達で進めている。シードで2億円強、シリーズAで4.4億円強、合計約7億円弱を調達した。
「もう53歳なので、若い頃のように長期間コツコツやる時間はありません。スタートアップの激しい戦いは、働く時間的にも若さが圧倒的に有利。今回は最初からスピードを優先しました」
リード投資家にはヘッドラインアジアを迎え、フォロー投資家には銀行系VCを意図的に多く入れた。FinTechゆえに銀行との連携が事業上不可欠だからだ。
「リードは独立系VCにバリュエーションを決めてもらい、フォローはできる限り銀行系VC。これは今回かなりこだわった部分です」
調達期間そのものは1年ほどかかったが、阪根氏自身は時間の10%以下しか調達に投じないと決めた。CFOが中心で動き、阪根氏は事業に集中する体制を取った。
2回目の調達で改めて感じたのは、シリーズAの計画の質がシリーズB以降を決めるという事実だ。
「シリーズAまでは、将来や未来、なぜやろうと思ったか、社会的なペインの深さといったストーリー性が重視されます。でもシリーズB以降は、約束した予算をどれだけ守って実行できているかという実績が問われる。だからシリーズAの段階で、シリーズBを見据えた計画をきちんと立てて株主を説得することがすごく大事なんです」
投資家からのフィードバックを受け止める姿勢も、阪根氏は強調する。
「VCにピッチしに行ったら、最初は99.9%ボコボコにされます。でもそこで『俺の言うことが理解できないVCはダメだ』という態度を取ると成長がない。ベンチャーキャピタリストはあらゆる成功と失敗を見てきているので、言っていることはほぼ正しい。1時間の無料コンサルだと思って、ちゃんと持ち帰って計画をブラッシュアップする。これを繰り返すと、調達活動そのものが事業計画を磨くプロセスになります」
トレダムにはピボット代表の本田啓介氏もエンジェルとして参画している。阪根氏がエンジェルを入れる目的は明確だ。
「シードアーリーで調達系を厚くしたいというのもありますが、本田さんの場合はアジアのネットワークが強い。次のシリーズB以降で海外投資を入れたいので、そのタイミングで紹介していただけるよう逆算して入っていただきました」
額の大小ではなく、事業の方向性と合うかどうかでエンジェルを選ぶ——というのが阪根氏の考えだ。
資金調達の覚悟について、阪根氏はこう語る。
「最近の若い起業家はスマートで、最初はコンサルなどでキャッシュを回しながら、ある程度のところまで来てからエクイティ調達に切り替える流れが増えていますよね。これはすごく賛成です。ビジネス経験も積めるし、キャッシュが回っていることは投資家にとって何よりの安心材料になる。『最悪、身を縮めればキャッシュを生む事業に戻せる』という証明になるんです」
それでも事業を大きく伸ばすには、どこかでエクイティ調達に踏み込む必要がある。
「自分でラインを決めて、ここまで来たらエクイティに切り替えると覚悟を持つ。そのときに投資家にとって魅力的な技術・サービス・人材といった『きらりと光る武器』をちゃんと用意しておくことが大事です」
投資家との関係についても、阪根氏は双方向の選び合いだと考えている。
「投資家にちゃんと説明して選んでいただくことも大事ですが、こちら側もどういう方と一緒に船に乗りたいのかを考えるのが大事です。事業は社会のため、従業員と家族のため、そして株主のためにもなる。リスペクトできない株主のために頑張ろうとは、なかなか思えないじゃないですか」
良いときも悪いときも同じ船で戦い、本当にいい意見を常にくれる株主を選ぶこと。それは事業上のメリット・デメリットだけではなく、人間としての相性の問題でもある。
資金が砂時計のようにこぼれていく状況で、阪根氏が最も意識していたのは「誰を守るか」だった。
「事業の一部を売却し、一緒に戦ってきた人にも『来月から来なくていい』と言わざるを得ない瞬間があります。そのとき、最後まで会社を支えてくれる人、生き残らせるためにどうしても必要な人を選ばざるを得ない。残った人を守って会社を守って、いつか余裕ができたら、別れた人にもう一度声をかけられるように——そういうことを考えながら経営してきました」
人を雇う基準も、前職の反省から大きく変えた。
「事業が伸びると人が欲しくて欲しくて仕方なくなる。でも『この人だ』と心から思えない人は雇わない。80点だからいいやで雇うと、自分たちだけじゃなくチームも崩れていく。これは今、いちばん心がけている部分です」
セブンドリーマーズの破産から、トレダムでの再起へ。阪根氏のキャリアは、資金調達の成功と失敗、栄光と挫折のすべてが詰まっている。
「仕事は頑張った分だけ、中長期で見れば必ずリターンがある。短期的には給料も取れないかもしれないけれど、長期で見たらこんないいことはないよなと思います」
失敗してもなお応援してくれる株主がいたのは、阪根氏が「誠実な挑戦」を貫いてきたからこそ。日本のスタートアップ環境において、その姿勢こそが最強の資産になる——インタビューを通じて、そんなメッセージが伝わってきた。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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