MFS創業者の塩澤崇氏が語る、住宅ローンの本質と経営者ならではの組み方の難しさ。赤字企業の代表でもフラット35なら可能性あり、50年ローンとS&P500を組み合わせた資産形成術、タワマンの資産価値の正体まで、リアルな住宅購入相談を通じて解き明かす。
M&A CAMPの今回のゲストは、住宅ローン比較診断サービス「モゲチェック」を運営する株式会社MFS創業者の塩澤崇氏。モルガン・スタンレーで住宅ローン証券化に携わり、ボストンコンサルティンググループを経て11年前にMFSを起業、2年前に東証グロース市場へ上場した住宅ローンのプロフェッショナルだ。
今回の収録は、ホスト自身がオフィス移転に伴う自宅購入を検討しているというリアルな相談から始まった。前期に第三者割当増資を受けたことで4,000万円ほどの赤字を計上したという経営者にとって、住宅ローンを組むという選択は本当に妥当なのか。
「赤字の経営者が家なんて買うべきじゃない、と自分に対して思っていた」という相談に対し、塩澤氏は意外な答えを示した。
塩澤氏は、賃貸か持ち家かという議論がなかなか決着しない理由を、価値観やライフスタイルとの紐づきにあると整理した上で、自身の経験を踏まえた明快な論理を展開する。
「20代30代は賃貸派でした。仕事も変わるかもしれないし、ベンチャーを立ち上げて家賃10万円以下のところに住んでいた時期もあった。でも持ち家の住宅ローンというのは積立投資なんです」
人間の生涯賃金は2〜3億円、そのうち住居に割り当てられるのは概ね1/4で7,000万〜1億円程度。この限られた予算を「掛け捨ての家賃」に投入し続けるのか、「積立投資となる住宅」に早く切り替えるのか——という資産形成のゲームだという視点だ。
賃貸期間が長くなるほど、残りの住宅予算は減っていく。この「タイムリミット」の存在は、住宅購入を考える上での核となる論点となる。
とはいえ、経営者にとって住宅ローン審査は厳しい。塩澤氏は、組みやすい人と組みづらい人をはっきり区別する。
- 組みやすい:会社員、士業、公務員、いわゆる定収のある人。スタートアップの社員も赤字企業であってもOK
- 組みづらい:法人役員、自営業
会社が赤字の場合、代表者個人の給与が高くても、銀行は事業と一体で審査するため厳しい判断になる。理想は黒字3期、銀行によっては2期で通るケースもある。
それでも難しい場合の選択肢が、全期間固定金利商品「フラット35」だ。フラット35は柔軟な審査をしてくれるため、赤字でも借りられる可能性がある。審査では赤字が「構造的なものか、一時的なものか」を見られる、と塩澤氏は解説する。
話題はペアローンに及ぶ。「『正直不動産』という漫画でペアローンなんてやっちゃダメだと思った」というホストに対し、塩澤氏は自身がペアローンを組んでいることを明かしつつ、こう語る。
「妻にはペアローンのリスクとメリットを伝えた上で、『一人じゃ借りられないから一緒に借りてくれない?』と頼んだら『話が違う』と言われました(笑)」
さらに最近増えているのが50年ローンだ。デメリットは金利支払総額が35年ローンより増えること。一方でメリットは大きい。
- 同じ物件なら毎月のキャッシュフローが安定(35年比で約3割減)
- 同じ月額返済ならより高い物件が買える
- 浮いた返済額をS&P500に積立投資すれば、住宅ローン金利(約0.7〜0.8%)より高い利回り(長期約7%)で運用可能
ただし注意点もある。50年ローンは元本の減りが遅く、10年後でも8,000万円のローンが7,000万円程度しか減っていない。途中で住み替える際、資産価値が保たれる物件でないと売却額がローン残債を下回るリスクがある。
ホストが気にしていたのが、タワーマンションへの違和感と資産価値のバランス。塩澤氏はタワマンの値段が高い理由を3つに整理する。
1. 大規模物件ゆえの共用部分の充実(ジム、ラウンジなど)
2. 専有部分のグレードの高さ
3. 眺望——遮るものがないことの価値
「タワマンの中でも眺望のいい部屋と悪い部屋では平気で1.2〜1.5倍値段が違う」という。眺望に価値を感じる層が、坪単価700〜1,000万円を払っているという構造だ。
そして「東京の不動産は高い」という言説に対しては、明確な反論を示す。
「『資産価値が見込まれる、値上がりが確実視される不動産が高い』というのが正しい。軸をずらせばまだあります」
塩澤氏が独自に名付けたのが「上北デルタ」。赤羽・池袋・田端を結ぶ三角形のエリアで、京浜東北線・山手線・埼京線が走り、都心まで30分程度で出られるが価格はまだ抑えめ。3LDKでも8,000〜9,000万円で買える物件があるという。
塩澤氏が最も強調したのが、住宅ローンには年齢的なタイムリミットがあるという事実だ。
- 40歳超:団体信用生命保険の審査リスクが高まる。健康診断の数値悪化で最悪審査落ちすると、住宅ローン自体が組めなくなる
- 45歳超:35年ローンが組みにくくなり、予算が制限される
- 50歳超:定年(60歳)までの返済年数が短くなり、減額承認のリスクが増す
もう一つの観点が「終の住処の確保」だ。60〜70代になると、認知症や孤独死などのリスクから高齢者を敬遠する大家が増える。若いうちに次の住まいを確保しておくのは、合理的な備えにもなる。
「会社員と公務員の方で住宅ローンを借りていないなら、何のために会社員をしているんですかと言いたくなるくらいです」と塩澤氏は語る。住宅ローンは金利約0.7〜0.8%で借りられる、極めて有利な「レバレッジ商品」。フルローンも可能で、リフォーム費用まで丸ごとローンに組み込んだという自身の事例も紹介された。
結論として塩澤氏が示すのは、シンプルな問いだ。
「最初に申し上げた生涯賃金を、どこに割り振っていくかという話。掛け捨てコストの家賃にずっと払うよりは、資産形成ができる住宅に同じお金を払ったほうがいいんじゃないか」
もちろん意思決定は価値観次第。塩澤氏自身も、当初「世帯年収の7倍のマンション」を希望していたが、妻と話し合って5倍まで下げたという。「奥様としっかり話し合うことが大事」というアドバイスは、家族構成を含めたライフプランと不可分だ。
人口減少が懸念される一方、東京都心部の人口密度は維持される見込みであり、リニア中央新幹線の開業や品川駅周辺の再開発を受けて、城南エリアの資産価値には引き続き期待ができる。インフレを「家に取り込む」発想で、最も金利の安い住宅ローンを使い倒す——これが塩澤氏の住宅論だ。
今回の対談を通して見えてきたのは、住宅購入は単なる消費ではなく、ファイナンスとライフプランが交差する経営判断だということだ。
- 赤字企業の経営者でもフラット35なら可能性がある
- 住宅ローンには40歳・45歳・50歳のタイムリミットがある
- 金利が極めて低い住宅ローンはレバレッジ商品として活用できる
- 50年ローン+S&P500積立という戦略も成立する
- タワマンより「立地と眺望のナンバーワン物件」が資産性を保つ
- 価値観・家族構成と向き合うことが第一歩
「誰かが言ったから決める、というのでは納得感がない。家を買うことがライフイベントと紐づくのは、自分ごと化する作業が必要だからです」という塩澤氏の言葉が印象的だった。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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