千葉県津田沼で次郎系ラーメン店「夢を語る千葉」を経営する深川氏が、飲食店M&A専門家・白石氏に多店舗展開と海外進出の戦略を相談。月商500万円を達成した1店舗からどう成長を描くか、経営者が現場を離れるタイミングや北米出店のリアルを語る。
今回のM&A CAMPは、実店舗型ビジネスを対象とした事業相談企画。飲食店に特化したM&Aアドバイザリーを手がける白石氏をゲストに迎え、千葉県津田沼で次郎系ラーメン店「夢を語る千葉」を経営する株式会社夜明けの深川氏が事業の悩みを相談した。
白石氏は1998年にサントリーホールディングスに入社して以来、一貫して飲食店向けの仕事に約20年以上携わってきた人物。社内ベンチャーとして外食専門のM&A会社を立ち上げ、現在に至る。
深川氏は元々ラーメン屋になりたかったわけではなく、「夢を語る」というコンセプトに惹かれて創業者のもとに飛び込み、ビジネス化のためにラーメン修行を始めたという経緯を持つ。現在は1店舗を経営し、月商500万円、ラーメン1杯約1,000円で1日200杯弱を売り上げている。
深川氏が最初に投げかけたのは「いつまでプレイヤーでい続けるべきか」という問いだった。メンバーが増え、自分がいなくても現場が回るようになりつつある一方、今後の店舗展開を見据えたとき、自身が現場でどこまで引っ張るべきかを悩んでいるという。
白石氏の答えは明確だ。「どこを目指すかによって変わってくる」とした上で、3〜4店舗の規模で良ければ現場に入っていてもいいが、10店舗、20店舗、30店舗と増やしていくのであれば、すぐに現場を離れて経営に特化したほうがいいと助言した。
理由は経営者の人件費とパフォーマンスにある。経営者がオペレーションを回している状態では、その高い人件費が損益計算書に乗ってしまう。普通のメンバーで店舗をどれだけ回せるか、その利益のもとに何店舗をオープンできるかという発想に切り替えなければ、結局は成長できないという。
現場好きなら週1回、月1回の頻度で現場に入るのは構わない。深川氏は現在、週3コマ、1.5〜2日程度の現場稼働まで減らせており、いいタイミングでシフトしつつあると評価された。
話題はM&A市場の現状にも及んだ。白石氏によれば、現在の飲食店M&Aは非常に活発化している。背景には3つの社会的要因があるという。
1つ目は、一時代を築いた飲食オーナーの引退時期。
2つ目はコロナ禍の影響だ。閉店した店舗は多いものの、借入は残ったままという会社が多数存在する。例えば20店舗あったうち10店舗が閉店しても、借入は20店舗分のままという企業が少なくない。蓋を開ければ業績は良いが返済はできないという状態で、再生系のM&A相談につながっている。
3つ目は逆に好調な企業の事例。自社のキャッシュだけでは出店スピードに限界があるため、株式の一部を譲渡して資本提携し、100店舗・200店舗と一気に展開していくケースだ。
バリュエーションについて白石氏は、外食企業は純資産がほぼないため、正常収益(通常出る利益)の3倍〜5倍、場合によっては10倍をかけ、そこから実質の借入金を引いた金額が相場だと説明した。
深川氏には明確な目標がある。2026年1月の海外進出だ。それまでの2年間で月商500万円規模の直営店を5店舗に増やし、海外市場を取りに行く計画だという。ただし周囲の30〜40代の飲食店経営者からは「もっと国内で展開してから出るべき」という意見が多く、そこに迷いを感じていた。
白石氏の答えは「国内に増やす必要はもうない」だった。
よく語られる海外進出の失敗事例は大手のものが多く、実は中小企業の成功事例は数多く存在するという。成功している中小は、メソッドを公にすると大手に真似されて負けるため口を閉ざす。だからこそ「大手が失敗した方法と全く逆のメソッドで中小は成功している」と白石氏は指摘する。
例として挙げられたのは愛知県にある「華雨竹林」のようなラーメン店だ。世界で大きく展開しているにもかかわらず、国内ではあまり知られていない。
さらに北米市場の特徴として、1店舗が成功すればすぐにFC希望者が現れるため、まず1店舗を成功させることが極めて重要だという。
白石氏は深川氏に問いかけた。「ニューヨークに出すのか、カリフォルニアか、それともワシントンの郊外か」。
深川氏は実際にカリフォルニアを訪れ、物価の高さと日本食の売れ行きを体感し「カリフォルニアが良さそう」と回答した。これに対し白石氏は、それこそが日本人がはまりやすい失敗の鉄則だと指摘する。
ニューヨークは飽きやすい市場。カリフォルニアで流行っても「誰でも流行るのでは」と全米からは見られてしまう。一方、ワシントンの郊外のように一食1万円超えが当たり前のエリアに1軒のラーメン店が出れば、それだけで王様のように売れる。年商6億円規模に達したとなれば「これは全米展開できる」とアメリカ人が評価する、というのが現地のマインドだという。
このマインドを知っているかどうかで出店戦略は大きく変わる。郊外から仕掛けることがポイントになる。
また、白石氏は「ジャパニーズプライス」の罠にも触れた。日本人はお金を出すと足元を見られて投資額が膨れ上がり、結果として儲からなくなる。中小企業が成功するのは、ジャパニーズプライスを払えず交渉して安く出店するからこそ展開できる、という構造があるからだ。
さらに、海外展開で絶対にやってはいけないこととして「現地仕込み」を挙げた。味のクオリティが落ちるため、商品設計の段階から避ける必要がある。
深川氏の国内出店計画は、年内に千葉県内へ2店舗、残り2店舗は茨城など少し離れた地方に出すというもの。1時間離れた店舗のマネジメントを学ぶための布石だ。白石氏は「非常にいい戦略」と評価した。
深川氏のラーメンの利益率は18%。家賃14万円・14坪という条件の良さもあるが、一般的な10%前後を大きく上回る数字で、白石氏は「アメリカでも成功する戦略に近いかもしれない」と分析した。
深川氏の店舗の特徴は、若いメンバー(大学生中心)で構成され、ようやく社会人になったメンバーが戻ってきて店舗展開に動き出せるフェーズに入った点だ。
他店との差別化要因として、深川氏は「10個の挨拶」を挙げる。
例えば10番目の「子を落とせ挨拶」は、本当に好きな人に向けるような気持ちで全てのお客さんに挨拶しようというもの。来店時に笑顔でなかった人が帰り際に笑顔になれば、ラーメンと共にその人の1日に笑顔をプラスできたという発想だ。
また「追撃挨拶」では、店内で「ありがとうございました」と言うだけでなく、外まで出て見送る。振り返ってもらえる笑顔が、お客さんからの最後の評価になる。
次郎系ならではの「全開挨拶」は、「仕事ができるから自信がつくのではなく、大きい声を出すから自信がつく」という考え方に基づき、まず声を出すことから始める。
こうした朝礼・終礼での共有と振り返りが、現在の接客レベルにつながっている。
白石氏は「ラーメンはサービス料を取らない業態だが、客単価2,000円で『ありがとうございました』と帰ってもらえる店になればいい」という持論を語り、深川氏の店づくりを高く評価した。
対談の最後、白石氏は「ラーメン屋を深川氏の会社が買収して、リブランディングする」という選択肢にも触れた。飲食店M&Aの件数は急増しており、買収から再生・リブランドという展開も今後の成長戦略の一つとなりうる。
月商500万円の1店舗から、国内多店舗展開、そして2026年の海外進出へ——深川氏のリアルな挑戦は、実店舗型ビジネスのスケール戦略を考える経営者にとって、多くの示唆を含んでいる。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
