サイゼリヤはなぜ広告を打たずに国内外で成長を続けられるのか。元社長・堀埜一成氏が、ミラノ風ドリアを300円で提供するオペレーション、オーストラリア工場の活用、従業員ファーストの哲学、中国市場での躍進の裏側まで、経営の核心を語った。
サイゼリヤといえば、ミラノ風ドリア税込300円という驚異的な価格設定で知られる。元社長・堀埜一成氏は、その安さの根本にある思想についてこう語る。
「会長の考え方があって、まずは与えろなんですよ。最初から取るなと。これがサイゼリヤの一番根本に流れている重要な思想です。まずは与えて喜んでもらえと。そうするといろんなものが返ってくる」
ミラノ風ドリアも当初は原価率45〜50%だったという。しかし売れるにつれて原価率は下がっていった。理由は単純で、ロスの量は一定なので販売量が増えればロス率が減る。さらに看板商品が決まれば他商品の販売数が抑えられ、運営がシンプルになる。
「同じ値段でもライスガーリックの代わりにミラノ風ドリアを食べる若い人もいる。実は単価が上がったりもする」
サイゼリヤはCMを一切打たない。堀埜氏が社長時代に新聞全面広告を1度出した程度だ。テレビ番組「帰れまてん」などへの出演も1年で打ち切った。
「90分番組に出てめちゃくちゃ利益が出るようになったんですけど、現場の社員さんが疲弊するんですよね。だから1年でやめた」
広告費ゼロだからこそ、原価率を高く取ることができる。安さと品質を両立させる原資はここにある。
サイゼリヤの低価格を支える最大のキーが、オーストラリア工場だ。
「オーストラリアは元々、牛肉とミルクが世界一安い場所。ミラノ風ドリアは牛肉と牛乳がメイン。だからプラントで作って送ってくるからめちゃくちゃ安い。しかも品質が高い」
さらに、ミラノ風ドリアのホワイトソースが「もたれない」秘密は、油の純度にある。
「あれは油が均一だからなんです。バターの他にマーガリンや植物油を混ぜると重たくなる。サイゼリヤはいいバターと生クリームをほぼそのまま使っている。ベシャメルソースは小麦粉を最小限にしているから、さらっとした口当たりになる」
超有名シェフが「こんな贅沢なレシピ、ホテルでも作らないぞ」と言ったほど、技術と素材を結集したものだという。
サイゼリヤの提供スピードは驚異的だ。注文後すぐにサラダが運ばれてくる。
「あれは全部スタンバイしているんです。売れる商品が決まると、全部スタンバイできる。ミラノ風ドリアはオーブンに入れるだけ。ロップ(オーブン通過時間)約6分です」
サラダもレタスは常に積んであり、エビとドレッシングをかけるだけ。看板商品を絞り込むことで、徹底的にオペレーションが磨かれている。
堀埜氏が語る「負けない戦略」の核は意外なものだ。
「負けるのは敵がいるから。だから敵を見なきゃいい。自分の会社を徹底的に観察して、問題点を倒していけばプラスしかない」
社員には競合店を見せない方針を貫いた。理由は「商品を見ると必ず真似し始めて均一化していくから」。サイゼリヤがファミリーレストラン業態の中で独自性を保ち続ける理由がここにある。
ただし、ランチ業態への転換期だけはガストを参考にしたという。「定食という概念は嫌い。イタリアンはいろんなものを選んで楽しむもの」と語りつつ、ランチで勝つために妥協した一例だ。
中国でサイゼリヤは「サリア」として、現地企業のように振る舞いながら出店を進めた。景気後退局面でも店舗を増やし続け、中国人経営者から講演やコンサル依頼が殺到するほどになった。
成功の転機は「7割引き」だった。
「最初は値下げをちょろちょろやってもお客が来なかった。会長が『7割引き』とバンとやった。その翌日から100人並んだ」
計算すれば原価割れする。だがロス率の激減などで成立してしまう。「PLを見ない人なんですよ」と堀埜氏は会長を評した。値段も「試食して見た目で『これ300円』と決められる人」だという。
撤退基準についても明快だ。「みんな2、3店舗で撤退するけど、それは無理。15〜20店舗になって初めて黒字になる。うまくいくまでやめないことが一番大事」
サイゼリヤは「お客様ファースト」を掲げない。
「お客様はファーストにしちゃいけない。従業員の笑顔がなかったらお客さんもクソもない。店に入った瞬間にいい店か悪い店かわかる。あれは従業員の雰囲気なんです」
3K(危険・汚い・きつい)作業を徹底的に減らす。重い鉄板はアルミに切り替え、ガラスのジョッキやワイングラスはプラスチック化した。クレームの嵐になっても「耳を塞ぐだけ。2ヶ月もすればクレームはなくなる」と堀埜氏は笑う。
パート従業員の社員登用制度「キャプテンシャイン」では、筆記試験と学歴要件を撤廃。代わりに「同僚5人の推薦状」を入社後に手渡す仕組みにした。
「これ書いてくれないんですよ、嫌な人だったら。一緒に働きたくない人は5枚集められない。渡すとみんな泣いて結束が固まる」
コロナ禍で導入された紙の注文票も、従業員保護が起点だった。
「お客さんが喋って飛沫がかかると不安になる。無言で注文できるようにと。タブレットは高いし割れる。紙でiPhoneで読み取る形にした」
結果、お客様起因の注文ミスが「これ頼みましたよね」と紙を見せれば解決するという副次効果も生まれた。
少ない新商品でも飽きられない理由は、明確な比率設計にある。
「売れる商品が6、売りたい商品が3、見せる商品が1。見せる商品はバッファローモッツァレラやプロシュートなど。あれがあるから『安かろう悪かろうの店じゃない』と認識される」
ワインも本来は「売りたい商品」。料理とのペアリングで食事の楽しみを広げるための存在で、ドリンクバーは100円から段階的に値上げして現在の199円に至っている。
13年間社長を務めた堀埜氏は、社長の役割を二つに整理する。
一つは「テーマオーナー」。「誰のために何のためにやるのか、説明をしっかりしないとテーマオーナーとしての価値はない。『これやっといてね』ではダメ」
もう一つは「リーダー」。
「リーダーは常に明るい未来を示す。絶対に暗い未来を見せちゃいけない。チリの鉱山事故で全員生還できたのは、リーダーが真っ暗な中で『俺たちは絶対助かる』と言い続けたから」
会長の正垣氏は「1店舗から1000店舗目指すぞ」「客数14億人」と現実離れした夢を言い続けた。それが現実に近づいていったのだ。
若手経営者へのアドバイスを求められた堀埜氏は、こう答えた。
「まずは与えろ。最初から利益を計算するな。喜んでもらってから、何を改善していけばいいか考える」
そして座右の銘として書いた言葉は「我が人生頂上なし」。
「頂上を見たらあかん。降りるのは嫌や。社長は降りたけど山は降りてへんぞ。死んだところが頂上かもしれない」
メンタルの強さの秘訣も明快だ。「振り返らない。後ろを向いたらくよくよする。前を向いて、これからどう登るかを考え続けた方がメンタルは強くなる」
安さの裏にあるのは、技術と思想と諦めない執念。サイゼリヤという奇跡的なビジネスモデルは、極めて緻密な経営判断の積み重ねから成り立っている。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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