学生時代に中国人留学生向け塾、タピオカ店を経て、コロナ禍にバーチャルレストラン事業を立ち上げた牧本氏。自己資金で売上5億・営業利益3億規模に成長させた事業を、ユーグレナグループに譲渡するまでの意思決定と、2回の破談を経験して得た教訓を語る。
ワナ株式会社の代表取締役を務める牧本氏は、学生時代から複数の事業を立ち上げてきた連続起業家だ。最初に大きく手がけたのは中国人留学生向けの塾事業で、これを譲渡した後、大学3年生の頃にはタピオカブームに乗って都内にタピオカ店を複数オープンさせた。
しかしコロナ禍が直撃する。月商1,000万円を叩き出していた小さな店舗の売上が、わずか30万円まで激減。すべての店舗が赤字に転落した。「この危機をどう立て直すか」という問いから生まれたのが、後のM&Aにつながるバーチャルレストラン事業だった。
2020年6月、株式会社バーチャルレストラン(後のワナ株式会社)を創業。コロナ禍で唯一伸びていたデリバリー領域に着目し、ゴーストレストラン/バーチャルレストランと呼ばれる業態を展開した。既存の飲食店が持つ営業許可を活用し、デリバリー向けの別ブランドを「終点」できるフランチャイズモデルだ。
飲食店にとってデリバリーは、ラーメンが伸びてしまう、原価率が合わない、Uber Eatsの運用が難しいといった課題があった。同社はブランド提供とプラットフォーム運用コンサルをセットにすることで、これらの課題を一括解決するサービスを構築した。
出資は受けず、自己資金でスタート。創業メンバーは大学の同級生中心で、採用力もない状態からの船出だったという。それでも事業は2年で売上約5億円、営業利益約3億円規模まで成長した。
興味深いのは、牧本氏が当初「会社売却にすら興味がなかった」と語る点だ。キャッシュフローも潤沢で、創業者として現金化を急ぐ動機もなかった。
それでもM&Aを選んだ理由は、事業成長を最優先したからだった。
「プロダクトと仕組みは強かった。ただ、ここから急加速して事業を伸ばすために必要なのは営業力と顧客基盤だった」と牧本氏は振り返る。これをゼロから自社で構築するより、既に飲食領域で大きな顧客基盤を持つ企業と組んだほうが、はるかに早く事業を成長させられる。M&Aはあくまで「事業成長のための手段」として選ばれたのだ。
最終的にユーグレナホールディングスのグループ入りを決定。2022年9月に株式譲渡を実行した。
ここに至るまでの道は平坦ではなかった。半年間で2社と破談を経験し、3社目でようやくユーグレナグループとの合意に至っている。
破談の経験から得た教訓のひとつは、仲介の重要性だ。
「2社のうち1社は相対(仲介なし)でやろうとしていた。仲良くなりすぎると、後から拒みにくくなる。売り手は立場が弱くなりがちなので、間に1人挟んだほうがいい」
もうひとつは、M&Aプロセスへの理解だ。意向表明、基本合意、最終契約、クロージングという4段階のうち、それぞれがどの程度の重みを持つのかを事前に把握しておく必要があると指摘する。
「意向表明は思っているより軽いもの。そこに書かれた金額や条件に踊らされすぎないことが大事」
さらにデューデリジェンス(買収側による詳細調査)でのリスクも挙げる。買い手候補が将来的な競合になり得る企業の場合、DDの場で内部情報を抜かれるリスクがあるという。
「業界として目新しく、利益率も出していたので、裏側を知りたがる人は多かった。開示するところと濁すところの線引きは、1〜2社目のときにもう少しやっておくべきだった」
バリュエーションの観点でも、「これだけシンプルな仕組みで利益が出るなら再現性があるじゃん」と思われすぎないよう、見せ方の工夫が必要だったと振り返る。
最終的にユーグレナグループを選んだ決め手のひとつは、創業者・出雲氏の人柄だった。
初対面が5月20日頃。牧本氏の誕生日は5月30日。その誕生日に合わせて意向表明書が出てきたという。通常なら時間のかかる意向表明書を、無理にでも誕生日に間に合わせてくる姿勢に、牧本氏は強く心を動かされた。
「誕生日を伝えてもいないのに、知って合わせてくる。男としてかっこいいと思った」
意思決定からDD、最終契約まで約2ヶ月という驚異的なスピードで進んだのも、双方の本気度が噛み合った結果だった。
インタビューの後半では、事業づくりについての考えも語られた。
0→1フェーズで牧本氏が重視するのは「計画より変化への適応」だ。バーチャルレストラン事業も、最初からモデルがあったわけではなく、タピオカの在庫処分から始まり、サイドメニュー導入、デリバリー転用、ブランド拡張、運用コンサル化という形で、顧客のニーズに応えるたびにサービスが進化していった。
「お客さんに『あったらいいな』と言われたら、まず『できます』と答える。そこからニーズに沿ってサービスが肉付けされていく」
細かい事業計画を作っても、5年で事業内容自体が別物になる。だからこそ「とにかくアクション」を社内で唱え続けてきたという。
もうひとつのこだわりは「ワントップ経営」だ。大学・高校時代の友人が多くを占める組織で、議論はオープンに、しかし意思決定は最終的に代表が下し、決まった後は全員でその方向に従う。スピード感を重視するフェーズでは、共同創業よりワントップのほうが回りやすかったと語る。
0→1から一貫して牧本氏が重視してきたのが「黒字経営」だ。
「赤字を踏むモデルにもいろいろある。ただ、最初からきちんと利益を出してスケールさせるほうが、絶対的に価値がある」
黒字であれば、M&AもIPOも、選択肢を残せる。経営者の心の健康状態にも好影響がある。そして何より、メンバーのモチベーションが最大化されるのは「会社が儲かっているとき」だと牧本氏は言う。
「案件が入ってきて、顧客がついて、会社が忙しい。ただし『ありがたい忙しさ』。小さい会社だから、自分ごととして未来を感じられる」
トップラインだけでなく利益までしっかり見る経営姿勢は、近年のスタートアップ業界全体の潮流とも重なる。
譲渡後、牧本氏はワナ株式会社の代表として、ユーグレナグループの中で事業を率いる。短期的には現事業の成長、中長期的には「グループ全体のトップを目指したい」と語る。社長になる、新たな買収を仕掛けるなど、形は問わずグループに関わりながら頂を目指す構想だ。
そしてもう一段先には、海外市場での挑戦がある。
「両親が中国で、自分の半分以上は中国でできている。ビジネスというより『商売』が好き。世界で活躍できる企業を作っていきたい」
26歳で大型M&Aを経験した経営者の視線は、すでに国境の外を見据えている。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
