赤字企業向けと思われがちな「資本性劣後ローン」は、実は黒字企業の資本増強にも有効な制度。日本政策金融公庫の活用法から、立地戦略・複数金融機関との付き合い方まで、若手経営者と財務専門家が語る融資調達の実践論。
創業間もない企業や若手経営者にとって、銀行からの融資調達は大きなハードルです。経歴や実績がない中で、どのように金融機関と関係を築き、必要な資金を引き出していくのか。本記事では、若手経営者が実際に活用した「資本性劣後ローン」の体験を起点に、財務の専門家である森尾氏との対談を通じて、駆け出し企業が使える資金調達の選択肢と金融機関との付き合い方を整理します。
対談の冒頭で語られたのは、預金の置き場所を意図的に分散させた話題です。これまでメガバンク1行にほとんどの預金を集中させていた状態から、地方銀行のキラ星銀行や爽やか信用金庫などにそれぞれ8000万円、5000万円といった単位で預金を移したところ、金融機関側の反応が明らかに変わったといいます。
「相手もやっぱ意外と驚くというか、ガッと入ったら何事だみたいな感じになる」——預金を実際に置いてみることで、金融機関がどのように反応するかを学べたといいます。預金は単なる資金管理ではなく、金融機関との関係構築の入り口になることが体感できたエピソードです。
本記事の核となるトピックが、日本政策金融公庫が提供する「資本性劣後ローン」です。発言者は1ヶ月半前に、爽やか信用金庫から保証協会付きで3000万円、日本政策金融公庫から3500万円を資本性劣後ローンとして借り入れたといいます。
資本性劣後ローンの基本的な仕組みは次の通りです。
- 返済方式は5年後・7年後などに一括返済(期中は利息のみ)
- 赤字企業であれば利率が非常に低く設定される
- 黒字企業でも2%台の比較的低い金利で借りられる
- 貸借対照表上は「負債」に計上されるが、他の民間金融機関が自己資本比率を見る際には「資本」とみなしてもらえる
この「他行から資本として見てもらえる」点が最大の特徴で、結果として民間金融機関からの追加借入がしやすくなる効果があります。
森尾氏は「赤字の会社さんが使うよりは、黒字の会社の資本の厚みを増やす前向きな目的でやっている方が多い」と指摘します。一般には業績不振企業の穴埋め用というイメージが強いものの、実際には黒字企業の資本増強策として活用されているのが実態だといいます。
資本性劣後ローンを活用する上で、森尾氏が特に強調したのが決算書上の表記です。
「決算書には長期借入金と資本性劣後ローン、と項目を分けてさらに証明書をちゃんとつけて、民間の方が見れるようにしている」
過去には、長期借入金の中に資本性劣後ローンを混ぜてしまい、民間金融機関がその存在に気づけず、「ただの借入」として評価されてしまったケースもあったといいます。資本性劣後ローンは公表される性質のものではないため、決算書上で明示し、公庫が発行する証明書を添付して初めて、他の金融機関が「資本」として評価できるようになります。
金利については、最初の3年間は0.5%、4年目から2.6〜2.7%と段階的に上昇していきます。10年・15年と借り続ければ、3000万円借りて4500万円返すような状態になることもあるため、利息負担が重く見える側面もあります。
しかし森尾氏は、5年経過後に繰り上げ返済が可能である点に着目すべきだと話します。
「5年で平均金利を出すと1%ちょっとなんです。1%ちょっとで自己資本比率・自己資本金額が一気に上がる」
5年以内に同額を稼げれば、繰り上げ返済しても資本は実質的に厚いままになります。さらに、コロナや震災のような不測の事態に備える「保険料」としても、5年間3000万円の赤字を出せる体力を作っておく価値は大きいといいます。
資本性劣後ローンによって自己資本比率が改善すると、民間金融機関からの評価が上がります。森尾氏が推奨するのは、5年以内に必要となる一括返済資金を、その後改善した信用力をテコに民間から借り換えで準備しておく動き方です。
注意点として、資本性劣後ローンは中小企業が利用できるものとしては日本政策金融公庫と商工中金のみが対象で、横浜銀行などの民間銀行が提供する「資本性ローン」は金融庁が資本として認めていないため、他行からは資本とみなされません。政府系金融機関ならではの制度といえます。
なお、現行の制度は2024年6月で終了予定とのことで、活用を検討する場合は早めの動きが必要です。担当者によって対応の積極性に差があるため、事業計画や資金繰り表の作成まで踏み込んでサポートしてくれる担当者に当たれるかも、現実的には大きな要素になります。
若手経営者にとって最大の壁は「経歴がない」ことです。発言者自身も学生起業の出身で、最初は借入が非常に難しかったと振り返ります。
ここで森尾氏が示すのが、会計事務所など信用のある第三者を経由するアプローチです。
「皆さん方が『こんにちは』と言って行っても『経験もないんでしょ、学生だし』と言われる。でも私みたいなものが公庫さんに『何々さんを連れて行くので応援お願いします』と言うと全然違う」
日本政策金融公庫は、事業プランそのものよりも経営者の経歴・研究姿勢・貯金する力(毎月決まった金額をコツコツ貯める力)を重視するといいます。逆に言えば、未来を緻密に語れない段階の経営者でも、過去の積み上げを評価してもらえる可能性があるということです。信用がない部分を、信用のある人にうまく接続してもらうことで乗り越える発想が重要になります。
対談はさらに、ビジネスモデルと借入のしやすさの関係に踏み込みます。
貸借対照表の左側(資産)に売掛金や在庫がある事業は、それを担保的に評価して融資が出やすい構造にあります。一方、動画制作事業のように外注費が原価で在庫を持たないモデルや、エージェント事業のように原価が人件費中心のモデルは、決算書に「資産」として残るものが少なく、融資の見合いを作りにくいといいます。
「人は在庫として見てもらえない」という森尾氏の指摘は端的で、サービス業中心の若手経営者が直面する構造的な課題を表しています。利益を出して利益剰余金を厚くしていく姿勢、あるいはネット販売など売掛・在庫を伴う事業を組み合わせる発想が選択肢になります。
1億円を1行から調達しようとすると、売掛金が2000万円程度の場合「そんなにいらないでしょう」と却下されがちです。しかし、2000万円ずつ貸してくれる銀行・信用金庫が周辺に5行あれば、合計で1億円を調達できる可能性があります。プロパー融資(保証協会を通さない直接融資)であれば、こうした複数行からの同時調達が現実的に成立します。
そのために重要になるのが、本店をどこに置くかという「金融立地」の発想です。森尾氏は次のように整理します。
- 杉並区や世田谷区など住宅街エリアは法人数が少なく、銀行員のノルマも個人向け商品(年金口座、投資信託、保険)に偏りがちで、事業向け融資のリソースが薄い
- 渋谷・新宿・港区・中央区・千代田区は法人数が多く、地方銀行・信用金庫の支店も集積しているため、競争原理が働き融資姿勢が積極的
- ただし上場企業が多いエリアでは、優秀な担当者がそちらに割り当てられ、中小企業が相手にされにくいリスクもある
発言者の事例として、ある銀行では売上3〜4億円以下の会社を全て渋谷中央支店に集約して扱うケースもあるといい、エリアによっては支店再編で遠方扱いになる懸念もあります。
さらに、若い経営者には20代後半〜30代前半の法人営業に長けた若手担当者との相性が重要で、こうした人材も都心の主要エリアに集まりやすい傾向があります。本店所在地は登記上の問題だけでなく、どのレベルの金融人材と日常的に接点を持てるかを左右する戦略的な選択になります。
対談の終盤、森尾氏は財務における役割分担についてこう語ります。
「PLを良くするのが経営者の務めであって、バランスシートを良くするのは皆さんの力じゃなくても専門家がたくさんいる」
経営者は売上・利益を作るPL(損益計算書)の責任を負う一方、BS(貸借対照表)の構造改善——資本性劣後ローンの活用、複数行からのプロパー調達、立地戦略——は財務の専門家との連携で進められる領域です。発言者自身も、自分1人で抱え込まずに専門家を活用することが、結果的に成長スピードを早めると整理しています。
森尾氏は「こんなにいい時代はないんじゃないか」と話します。日本政策金融公庫の創業融資は2024年4月から枠組みが拡大し、自己資金要件も実質的になくなる方向にあります。資本性劣後ローンのように、低コストで資本を厚くできる制度も整っています。
それでも、こうした情報は表に出にくく、知っているか知らないかで経営の選択肢が大きく変わるのが実態です。銀行借入を「ハードルの高いもの」と決めつけず、制度の理解と金融機関との関係構築に踏み込めるかどうかが、若手経営者の成長速度を左右する分岐点になりそうです。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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