クロスポイントベンチャーズ代表の手嶋浩己氏が、若手起業家に向けて急成長企業の共通点、組織化の落とし穴、資金調達の本質、M&Aを見据えた経営判断までを語る。メルカリ・dely初期投資家ならではの視点が詰まった一本。
メルカリやdely(クラシル)の初期投資家として知られ、現在はベンチャーキャピタル「クロスポイントベンチャーズ」を率いる手嶋浩己氏。前ファンドでは52億円規模で39社に投資し、6社のIPO、8社のM&Aという高い成果を上げている。
本記事では、創業5年以内・売上5億円以下の若手起業家を主な読者として、手嶋氏が語る「急成長企業の共通点」「組織化の落とし穴」「資金調達と出口戦略」「投資家との関係構築」までを再構成してお届けする。
手嶋氏が投資判断で重視するのは、シード期であっても「この人は黒字の事業を作れるか」という感覚だという。
> 黒字の事業が作れれば、資金調達に依存しなくても済む。最悪、営業で自宅で食っていけるかも見ている。
その見極めのポイントは2つ。商売感覚があるかどうかと、組織が作れそうかどうかだ。
起業家には様々なタイプがいる。テクノロジードリブンで立ち上がる人、特定領域へのこだわりが強い人。だが手嶋氏が「手堅い」と感じるのは、ビジネスそのものではなく「商売そのもの」に興味があるパターンだという。今やっている事業をやること自体が目的ではない人、つまり商売人としての感覚を持つ起業家こそ、結果的に打率が高い。
手嶋氏がメルカリやdelyに投資したのは、ユナイテッド在籍時代。当時は投資事業が本業ではなく、別の事業責任者を務めていた。
> フィーチャーフォンからスマートフォンに移るにあたって、こういうポイントを押さえた事業がうまくいくのではないかという仮説が自分の中にかなりあった。
スマホアプリ領域に圧倒的に詳しかったため、その領域に絞って投資。本業があったからこそ「失敗を許容できる枠」があり、結果的にハイリスク・ハイリターンに絞った投資が可能だった。5年間で7件ほどしか投資していないが、そこにメルカリやdelyが含まれていた。
メルカリへの3億円投資は、現預金20億円の会社にとって決して小さくない決断だったが、自身がアプリ事業で実績を出していたこと、山田進太郎氏というシリアルアントレプレナーの存在が後押しになった。delyの堀江氏については「成功への欲求が異常だった」「物が違うと感じた」と振り返る。
手嶋氏は、スタートアップの成長プロセスを「泉を掘り当てる前」と「掘り当てた後」に分けて考える。泉を掘り当てるパターンは多様だが、その後に大きくできるかどうかには明確な共通点があるという。
最大のポイントは、自分たちのことをメタ化して考えられるかどうか。
> 当事者だからこそ、逆に窒息していくパターンがある。勢いだけで突き進む、あるいは全てが自分たちの実力だと過信してしまう。
泉を掘り当てた後に一度立ち止まり、「なぜ当たったのか」「どこが実力でどこが運か」「ここから大きくするには何が必要か」を冷静に再構築できるかどうか。これが命運を分ける。
また競争環境の見極めも重要だ。事業が大きくなれば必ず競争が起きる。どういうルールでどれくらいの時間軸で勝負が決まるのか――経験値がないと想像しにくい世界に突入する。山田進太郎氏や堀江氏のような経験者は、顧客価値を掘り当てたタイミングで自分たちの行動をメタ化し、再構築する作業を徹底しているという。
失敗パターンとして手嶋氏が挙げるのは、組織化の失敗だ。中でも多いのが「組織論にクリエイティビティを持ち込む」ケース。
> 創業期は魔法のようなもので、再現性がない。創業の2〜3年の盛り上がりはお祭りのようなもの。そこで起きる一体感やフラットさを『俺たちは特別だ』と勘違いし、既存の組織論を否定し始めると崩壊する。
手嶋氏の主張は明快だ。組織論に関しては過去の失敗・成功・うまくいくパターンを全部学んで、オーソドックスにやった方がいい。クリエイティビティは事業やプロダクトに使うべきで、組織論に持ち込むと持続性を失う。
ティール組織のような新しい概念も、実装するための前提条件を整えるには相当な努力が必要であり、同じ努力をするならオーソドックスな手法の方が効率的・効果的だと指摘する。
手嶋氏は、投資先との関係構築において独特のスタンスを取る。投資から半年〜1年後につまずきそうなテーマを、あえて先回りして投げかけるのだ。
> 最初は『なんでそんなことを言うんですか』『今必要ですか』と違和感を持たれる。でも他の取締役や社外取締役から言われたことが頭にこびりつき、3カ月後にふと腹落ちする瞬間がある。
M&Aの可能性についても同様だ。投資時点では起業家もVCも「IPOで大きい会社を作る」と言わざるを得ないゲームのルールがある。だからこそ手嶋氏は、投資から半年ほど経って人間関係ができた頃にラフに話題を振る。可能性を残すために、キーマンに薄く知っておいてもらう活動を積み重ねていく。
この姿勢の根底にあるのは「信念を持って発言する」というポリシー。レピュテーションは大事だが、それを毀損しないために言うべきことを言わないのは本末転倒だという。
手嶋氏は、起業家の本音と背負っている役割が矛盾することがあると指摘する。責任感が増すほど、本音と建前の境界が曖昧になっていく。
> その時に、客観的な立場で『どういう人生にしたいの』というところから話すようにしている。社長を半分オーナーでやり続けることだけが責任を果たすことじゃない、と伝える。
上場企業の取締役を10年務めた経験から、「上場は1つの手段にすぎない」と心の底から言える。人生100年時代、若い起業家ほど他の人生の可能性も含めてキャリアプランを考えるべきだ、というのが手嶋氏のスタンスだ。
ただし、M&A・IPO継続・社長交代など方向性を決めた後は、決断前後の言動には細心の注意が必要だと釘を刺す。決めたからこそスピーディに進めたくなるが、いい加減に進めると信用を毀損し、これまで積み上げたものが無駄になりかねない。
組織や事業フェーズが変わるたびに、起業家自身も変化を求められる。手嶋氏は、変化に対応するためにメンターや共同創業者の存在を重視する。
- メンターは「自分の等身大を理解し、人となりがわかり、事業や経営に知見がある人」が望ましい
- 共同創業者は「2人いれば3〜4人分の仕事ができる」。違和感を感じた時に率直に話し合えるかが鍵
- クリエイター気質の創業者がいる場合は、経営チーム全体でバランスを取る必要がある
また、プライベートとの両立については「価値観が多様化した今、自分の考え方次第で最適化できる時代」とした上で、自身は「ゆるく融合しつつ、ある程度は切り分けるタイプ」だと明かした。
ベンチャーキャピタルから資金調達する条件として手嶋氏が最低限求めるのは、「リターンを返す意思があること」だという。
そして資金調達の本質的な意味について、こう語る。
> 資金調達というのは、ある種の強制力が発生する。会社の経営に強制的に前提条件が加わり、必死に考えるきっかけや適切なプレッシャーが与えられる。急成長を志向するなら、その環境を作ってしまった方が圧倒的に簡単。
一方で、自立して事業を伸ばせる自信があり、資金も必要ない場合は無理に調達する必要はない。重要なのは、自分がどういうタイプで、どういう時間軸で何を成し遂げたいかを見極めることだ。
最後に手嶋氏は、若手起業家がベテラン経営者と組む際の注意点を挙げた。
他人の経験値を想像できない・尊重できないタイプもいれば、逆にシニアな経営者を過大評価しすぎるタイプもいる。自分にできることが少ない時期は、ベテランの能力が過剰に大きく見えがちだ。だが、本当のポテンシャルとスキルを見極めずに招き入れると、3年ほどで関係が終わり、4年目以降の戦略が立ち行かなくなる。
> 若手起業家ほど、経験を持った人を過大評価も過小評価もせずに受け止める努力が常に必要。
勢いで起業し、勢いで成長することは可能だが、長期的に伸ばすためには「メタ化して考えた後に、期限を決めて楽観的に行動しまくる」というサイクルを回し続けることが鍵となる。
手嶋氏の語る投資哲学と起業家論には、一貫したメッセージがある。それは「自分たちを過信せず、過小評価もせず、ニュートラルに現実を直視する」という姿勢だ。
泉を掘り当てた後にメタ化できるか、組織論にオーソドックスを持ち込めるか、本音と役割のズレを直視できるか――いずれも当事者には難しい問いだが、それを支えるのがメンターであり、共同創業者であり、信頼できる投資家との関係なのだろう。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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