EC通販の立ち上げと売却を経て、家具・家電のサブスクリプションサービス「CLAS」を創業した久保裕丈氏。1社目の反省を活かし累計70億円超を調達してきた経営者が、資本政策・CFOの定義・伸びる経営者の条件を語る。
経営コンサルタントから起業家へと転じ、EC通販事業を立ち上げてバイアウトを経験。3年のブランクを経て、家具・家電のサブスクリプションサービス「CLAS(クラス)」を創業した久保裕丈氏。テレビ番組『バチェラー・ジャパン』初代としても知られる久保氏は、現在までにデットを含めて累計70億円規模の資金調達を実行してきた。1社目と2社目では何が変わったのか。資本政策、CFOの役割、そして「伸びる経営者」に共通する要素について聞いた。
久保氏のキャリアは理系の大学院を経て経営コンサルティング会社に入社、5年間勤務するところから始まる。起業への強い動機があったわけではない。
「コンサルは忙しくてハードだけれど、給料も上がっていく。なんとなく続けられると思っていたんです」
しかし、4〜5年働くうちに周囲で起業する友人や先輩が現れ始めた。彼らに対する憧れと、外部から経営に口を出すコンサルという立場への限界感が重なり、起業を決意。最初に立ち上げたのがEC通販の「ミューズコ」だった。
特徴的なのは、事業領域の選び方だ。「まず起業しよう」が先にあり、その後で市場規模・競合状況・ホワイトスペースを分析してビジネスモデルを描いた。コンサル的なアプローチで参入領域を絞り込んでいったという。
結果として立ち上げから半年で月商5,000万円、1年後に月商1億円、2年弱で月商1億5,000万円と、年商換算で約20億円規模までスムーズに到達した。
当時、久保氏が描いていたのはVCから継続的に資金調達を行いIPOを目指すモデルだった。シードから入ったVCがシリーズA・Bまでフォローオン投資を続け、最初から1億円近い資金を調達できていた。
「月商1億円後半までは順調でした。ただ、そこから先はインフラ投資が必要で、オペレーションをきちんと作らなければいけないことが見えてきた。当時の自分の力量では、単独で資金調達と成長投資の両方を回し切るのは難しいと感じたんです」
そんなタイミングで大手企業から買収の打診が入る。シナジーを生かしてインフラ投資を進めた方が、事業の継続性と成長性の両面で優れていると判断し、売却を決断。ステージとしてはおおむねシリーズB〜Cの間、IPO準備期でいうN-3に近い段階だった。
売却後、久保氏は約3年間「ガッツリは働かない」期間を過ごす。複数社の顧問として組織開発、マーケティング支援、現在でいうDX支援などを行いつつ、テレビ番組『バチェラー・ジャパン』初代男性として出演した。
「経営しながらだと出演は難しかった。あの3年間があったからこそ得られた経験です」
そして、3年間で繰り返し自問したのが「自分は何をやりたいのか、どういう人間でいたいのか」という問いだった。1社目には不完全燃焼の感覚が残っていた。「もっと正しく経営して、正しく調達と成長投資をしていれば、もっといいサービスになっていた」「自分が一番解きたい社会課題ではなかった」――そうしたモヤモヤが次の起業へとつながる。
2社目となるCLASは家具・家電を中心とした耐久消費財のサブスクリプションサービス。利用者は商品を自由に使えて、希望すれば購入もできる。
1社目とは発想が真逆だ。「ホワイトスペースから市場を選ぶ」のではなく、「自分が一番のロイヤルユーザー(N=1)として欲しいサービスを作った」。
2社目で最も意識を変えたのが資本政策だ。久保氏は「最悪のさらに下を見ておく」と繰り返し強調する。
1社目では累計約8億円を調達したが、振り返れば「少なくとも倍は調達しておくべきだった」。これに対しCLASでは、デットも含めて累計約70億円を調達。営業利益が黒字化する地点に到達するために、創業前から「50億円は必要」と試算していたという。
「PLを引いてネガティブを見ているつもりでも、ベンチャー経営者はどこか楽観的なんです。ネガティブケースのさらに1.5倍下を見ておくくらいでちょうどいい」
自己資金を投入しなかったのも明確な戦略だ。「自己資金は会社が本当にやばくなった時、防衛するために残しておくもの」だと言う。役員報酬をゼロにして固定費を抑えるなど、最後の砦として温存しておくという考え方だ。
CLASの調達スタイルは、シリーズを区切らず「常に集め続ける」スタイルだ。耐久消費財を貸し出すビジネスは在庫投資が成長の原資となるため、成長率と在庫投資が直結する。1年〜1年半に1回のサイクルではなく、毎週・毎月レベルで何らかの手段を回しているという。
ここで重要になるのが、エクイティに偏らない調達構成だ。エクイティファイナンスは資本コストが高く(求められる利回りが10〜15%)、本来は成長投資に充てるべきもの。在庫取得のような事業運営的な投資にエクイティを充てると、利益が削られる構造になる。
コロナ禍で資金調達環境が悪化したタイミングで久保氏が活用したのが、ファクタリング、レベニューベースド・ファイナンス(売上連動型融資)、セール・アンド・リースバック(保有資産を売却し賃借する手法)といったアセットファイナンス/デット性のスキームだった。
ただしこれらは即席では組成できない。創業間もない頃から複数のレンダーと対話を重ね、KPIをトラックしてもらい、「貸し倒れリスクが許容範囲」だと実証するのに1年半〜2年を要した。
「調達環境が悪くなってから動くのでは、もう間に合わない。あらゆる手段を前倒しで講じておく必要があります」
資本政策を語るうえで、久保氏が強い問題意識を持つのがCFOの役割定義だ。
「CFOというポジションで採用した人に、管理本部長やCHROの動きを期待しているケースが多すぎる。本来3人必要な役割を1人に背負わせている」
久保氏が考えるCFOの要件は明快だ。事業戦略・エクイティストーリーとPLが連動し、そこからバランスシートとキャッシュフローまで流し込めること。そして、そのキャッシュフローを回し切るための資本政策を実行できること。これがCFOである。
さらに踏み込み、「日本のベンチャーの間違った風潮」として“CXOブーム”そのものに苦言を呈する。
「『CXOやめろ』と僕はずっと言い続けています。財務課長や財務部長ではダメなのか。投資銀行出身でも、プライマリー(株式発行)が得意な人とスペシャルシチュエーションやアセットファイナンスが得意な人は別物。専門性ごとに『財務何々課長』を3人揃える方が組織として優れている場合もあるんです」
CLAS社内では、財務本部長・管理本部長・人事部長といった日本式の役職名で機能を細分化しているという。
ではCEOの役割はどう定義するのか。久保氏は3つを挙げる。
1つ目は「妄想を描くこと」。きれいに言えば中長期戦略の策定だ。2つ目は「組織作りの状態を担保すること」。管理本部長・人事部長といった一義的な責任者がいる前提で、CEOはクオリティチェックとコミットメントを行う。3つ目は「会社の広報活動」。リクルーティングやお客様へのアピールにおいて、正面に立つのはCEOが最適だと考えている。
戦略は朝起きた瞬間にまとまっていることが多いという。前夜まで議論や思考を尽くし、寝ることで脳内が整理される。さらに、メンターから「汚ない意見」をもらい現状を否定してもらうことを重視している。
若手経営者へのアドバイスとして、久保氏は2つの要素を挙げた。
「常に自己否定をし続けて素直であること。そしてインプットを絶対に怠らないこと」
資本政策の知識がなくても話のうまい経営者ならエクイティ調達はまとまることがある。しかしそれは大きなリスクを抱えて走っていることに他ならない。常に「自分には足りない」と認め、特に先輩経営者の意見を素直に聞きながら自分をアップデートし続けること――これが伸びる経営者の条件だと言い切る。
「素直な経営者には絶対勝てない、というのが見てきての実感です」
CLASは将来的にIPOも視野に入れる。上場後も伸び続けるために、シード期・シリーズA〜D・上場直後と、ステージごとに評価される成長の仕方は違ってくる。
「経営者自身も経営層も、ステージごとにアップデートし続けなければいけない。アップデートできなくなった瞬間に、会社の成長は止まります」
1社目の最大の反省は、売上を伸ばすことを優先しインフラ整備を後回しにしたこと。「張りぼてを積み上げ続けて、土台がないから崩れる」状態になったという。CLASでは創業時から、組織の制度・仕組み、サービスのオペレーション、そしてシステムインフラまで「スケール前提」で設計した。特にエンジニアリング面では共同創業者であるテックトップが、初期から大規模スケールを想定した要件で構築を進めてくれたことが、ボトルネック発生を防いだ大きな要因になっている。
大型売却を経験しながら、なぜ再びハングリーであり続けられるのか。久保氏の答えは拍子抜けするほどシンプルだ。
「起業して経営することをモチベーションで考えたことがないんです。やりたくてやっていることだし、これがないと死んじゃう。呼吸と一緒みたいなものだと思っています」
43歳の現在もお金への執着は強くないと言う。お金持ちになりたいという動機があるとモチベーション設計が必要になるが、そうではないからこそ走り続けられる――そう語る久保氏の姿勢には、ベンチャー経営の本質と、スモールビジネスとの線引きが垣間見える。
久保氏のインタビューから浮かび上がるのは、ベンチャー経営における「設計の重要性」だ。資本政策では最悪ケースの1.5倍下を描き、エクイティ・デット・アセットファイナンスを多層的に組み合わせる。CFOやCXOの役割を曖昧にせず、機能ごとに責任を切り分ける。インフラは初期からスケール前提で構築する。そしてその全ての土台になるのが、経営者自身の「素直さ」と「アップデートし続ける姿勢」だ。1回目の起業で味わった不完全燃焼を糧に、累計70億円超の調達を率いてきた経営者の言葉には、若手起業家が後戻りできなくなる前に押さえておくべきポイントが詰まっている。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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