「計画性のない会社は借りられない」。融資支援のプロ・株式会社ソラボの田原氏が、創業期から年商10億規模を目指す経営者向けに、保証協会付き融資からプロパー融資へとステップアップする実践的なノウハウを語る。
資金調達は経営者にとって永遠のテーマである。とりわけ「銀行から借りる」という選択肢は、自社の成長スピードを大きく左右する。今回、M&A CAMPでは融資支援を専門とする株式会社ソラボ代表の田原氏を招き、ホストのシン氏が自社の状況も交えながら、銀行融資のリアルを聞き出した。本記事では、創業前から年商数億規模までの経営者が押さえるべき融資戦略を、対談形式の内容を再構成してお届けする。
田原氏はまず、融資が下りない会社の特徴を一言でこう表現する。「計画性がない会社は基本的に借りられない」。
意外に思われるが、創業1年目は「実績がないから借りにくい」のではなく、むしろ借りやすいタイミングだという。半年〜10ヶ月、あるいは1年継続すると過半数の会社が赤字になると言われており、赤字の決算データが揃ってから借りに行くと、金融機関から「このまま倒産するのでは」とネガティブに見られてしまうからだ。
最も借りやすいのは独立開業前〜独立直後の12ヶ月以内。日本政策金融公庫と民間金融機関の保証協会付き融資の双方を借り、返済実績を積み上げていくのが王道のルートとなる。1回目の借入実績が、2回目・3回目の融資、ひいては苦しい時の支援にもつながる「鍵」になる。
創業1年目では、過去の自分自身がプレゼン材料となる。具体的には次の3点である。
- 自己資金(独立までにいくら準備できたか)
- 経験(理想は同業界で6年程度)
- 信用情報(クレジットの延滞履歴など)
この3つが完璧であれば、スタートからすぐに借りられるケースが多い。逆に3つすべてがダメな場合、創業初期では「99.99%無理」と田原氏は断言する。
シン氏が「学生起業は難しいか」と尋ねると、田原氏はこう答える。学生はそもそも自己資金を100万〜200万円貯めるのが難しく、評価対象となる経験もアルバイト程度。スタートアップでのインターン経験があれば多少評価されるが、それでもハードルは高い。「学生ベンチャーは絶対無理」とまでは言わないものの、極めて厳しいのが実情だ。
2年目以降の融資審査では、決算書の状況に加え、取引先構成にも目が向けられる。1社依存の売上構成は、その1社を切られた瞬間に売上ゼロになるため、金融機関は警戒する。
田原氏が紹介した実例は興味深い。融資を申し込んだ会社の仕入先が、たまたま金融機関のデータベースに存在しており、その仕入先が債務超過状態だった。「こんなに儲かっていない会社の商品を売って、本当にいい商品なのか」と疑問を持たれ、商売そのものへの信用が揺らいだという。
また、法人の登記簿(履歴事項全部証明書)に記載される取締役・株主の名前も全員調べられている。過去には、取締役に反社会的勢力疑いのある人物がいたために、「動かせないから別会社を作ったのではないか」と疑われたケースもあった。株主・役員構成の透明性は想像以上に重要だ。
さらに見落とされがちなのが通帳の動きである。日本政策金融公庫では過去半年分の通帳が必ずチェックされる。資本金を会社の通帳に入れた直後に引き出してしまうと「実態がないのでは」と見られる。代表者個人の通帳もチェック対象で、代表口座が長らくゼロに近かったのに突然200万円が入金されすぐ会社に振り込まれた、といった動きは「誰かに一瞬借りたのでは」と疑われる。自己資金として認められたいなら、計画的にコツコツ積み増していく必要がある。
ここからは、より大きな金額を借りるための戦略に話が及ぶ。シン氏は現在6期目、年商2億円・利益2,000万円前後という自社の状況を踏まえ、1,000万〜1億円規模の借入を検討している。
田原氏は政府系金融機関の構造から解説する。日本政策金融公庫には「国民生活事業」と「中小企業事業」があり、入り口は基本的に国民生活事業。ただし国民生活事業の支店決済では5,000万円が上限で、本店決済まで進まないとそれ以上は出ない。
中小企業事業に行くための明確な基準は公表されていないが、田原氏の実感値では「年商5億円以上が一つの土台」。つまり5,000万円超の枠を狙うなら、まずは年商を伸ばすしかない。決算書では、毎年の利益、純資産の厚み、預金残高が評価される。
民間金融機関には、保証協会付き融資とプロパー融資の2種類がある。保証協会付きは銀行のリスクが小さいため貸しやすいが、コロナ禍のような特殊事情を除けば枠は8,000万円。5億円・10億円規模を借りたければ、銀行が直接リスクを負うプロパー融資を増やしていくしかない。
プロパー融資を引く戦略としては、まず保証協会付きで実績を積み、業績の伸びとともに金融機関側に「プロパーも出していい」と判断させる流れが基本だ。「2,000万円ずつバーター」のように、保証協会枠とプロパー枠を同額同時に出してくれる優しい担当者もいるという。これは経営者にとって大きなチャンスとなる。
借入総額の目安は「年商の半分まで」が一つの感覚値。結局のところ、多く借りたいなら年商を上げるしかない、というシンプルな結論に行き着く。
なお例外として、VCから何十億円規模を調達したスタートアップが、ファクタリングなど「お金を回すビジネス」で巨額のデットを引くケースもある。しかしこれは極めて特殊で、一般的なコンサル会社やSaaS企業が真似できるモデルではない、と田原氏は釘を刺す。
借入においては「ずっと黒字」が望ましいが、絶対条件ではない。田原氏が強調するのは「貸したお金を返してくれるかどうか」を金融機関は見ているという原則だ。
たとえばYouTubeチャンネル運営に4,000万円を投じた結果、利益が500万〜1,000万円に圧縮されたとしても、「この投資をしなければ5,000万円の利益が出ていた」「投資した先から将来こう儲かる」というストーリーをきちんとプレゼンできれば、評価は維持できる。
大事なのは、意図と説明、そして実態がそれに即していることである。
対談の後半では、シン氏が自社の財務状況を踏まえた相談を行った。田原氏のコメントから読み取れる実務的なポイントを整理する。
- **売掛金が少ない理由を説明できるか**:YouTubeタイアップは契約翌月払いで前金型、通常案件は納品翌月払い。ビジネスモデルを正直に説明すれば不利にはならない。
- **前受金の性質を正直に伝える**:2年契約のサブスク前受金は、ロックアップ期間を満了しないと返金リスクがある。隠さず伝えるのが信頼につながる。
- **プロパー融資の実績作りを始めるべき**:保証協会付きのみの状態から、プロパーで2,000万〜3,000万円程度の実績を積み始めるのが次のステップ。
- **役員報酬は手厚く**:利益を出したいあまり役員報酬を月20万円・年240万円程度に下げすぎると、会社のキャッシュを個人に流す「社長貸付金」「仮払金」「短期貸付金」が発生し、決算書の見栄えが悪くなる。
シン氏の「代表個人の貯金はあったほうがいいか」という問いに対し、田原氏は二段構えで答える。
創業初期は、株式やNISAなど換金性の高い資産も「堅実に貯めてきた証拠」として自己資金に組み込める。しかし5〜7年目以降は個人通帳をほぼ見られなくなるため、神経質になる必要はない。
むしろ経営者にとって最良の「貯蓄」は、自社が売却・上場した時の対価だ。家族や子どもがいるなら一定の安定資金は必要だが、そうでなければ「全ベット」も十分にあり得る選択肢だと田原氏は語る。
また、年商が右肩上がりで伸びている期間が長いほど評価は積み上がる。途中で一時的に業績が下がった年があっても、翌年回復していれば「計画を立て直せる経営者」とむしろ高く評価される。10年経営していれば1度くらい凹む年は誰にでもある。
本対談を通じて見えてきたのは、銀行融資には派手な裏技がないという事実である。創業期は自己資金・経験・信用情報の三点で勝負し、その後は業績を着実に伸ばしながら、保証協会付き融資→プロパー融資という階段を一段ずつ上っていく。取引先・株主・通帳・科目構成といった細部にも気を配り、金融機関に「計画性のある経営者」と認識させ続けることが、結果的に借入額と取引銀行数を増やしていく。
融資を成長エンジンに変えたい経営者にとって、まずは自社の決算書とビジネスモデルを「金融機関の目線」で点検することが第一歩になる。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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