シナジーマーケティングを楽天・Yahoo!に2度売却した谷井等氏が、エンジェル投資家として見極める成功する起業家の特徴、経営におけるオリジナリティ追求、そして世界50カ国を巡って得た知見を語る。
株式会社ペイフォワード代表の谷井等氏は、25歳で起業した1社目を楽天に売却し、2社目のシナジーマーケティングを上場後にYahoo!グループへ。その後3年間で世界50カ国を放浪し、ビジネスの世界に戻ってシナジーマーケティングをYahoo!から買い戻した異色の経営者だ。
現在はエンジェル投資家・メンターとしても活動する谷井氏に、地方のオーナー企業や若手経営者から寄せられた質問をぶつけた。
谷井氏はまず「ビジネスモデル自体がパワフルで、起業家の能力を超えて成長してしまう企業もある」と前置きしつつ、それを除いた成功する起業家の特徴を3つ挙げた。
**1つ目は「諦めの悪さ」**。少し儲からないとすぐ撤退する人ではなく、儲かるかどうかとは別の次元で「これをやりたい」「使命感がある」と思える人。そういう人間はどうやってうまくいかせるかを考え続け、いつか花を開かせる。
**2つ目は「遠慮のなさ」**。たとえば初対面の相手にも年収を遠慮なく聞けるタイプ。表面的な会話に収まらず、根掘り葉掘り聞き続けるからこそ、相手が普段は出さない本音や情報まで引き出せる。「自分一人で考えるよりも、たくさんの濃い情報を集めて判断したほうが正しい判断ができる」と谷井氏は語る。
**3つ目は「根拠のない自信」**。谷井氏が大学のゴルフ部時代、プロゴルファーから聞いた話が印象的だ。プロが恐れる若手は、ドライバーが飛ぶ選手でもアプローチが上手い選手でもなく「お前なんでそんなに自信あるの、と聞きたくなるくらい根拠なく『行ける』と思っているやつ」だという。
「日本人は謙虚であれ、目上を立てよと教えられるが、スタートアップの世界ではむしろ逆。お行儀よく座っていても成果が上がらない人より、賛否を呼ぶくらい強気な人のほうが、成功という観点では伸びている」
ちなみに谷井氏自身は3つのうち「自分はできると思おうとしているタイプ」だと自己分析する。「基本的に自己評価がめちゃくちゃ低い。社員の遂行能力に比べて自分は何もできないと、いつも落ち込んでいる」と謙遜した。
谷井氏のエンジェル投資のスタンスは独特だ。「絶対伸びる」と評判のピカピカの会社からの出資依頼は、むしろ断ることが多いという。
「うちがいなくても伸びる会社に出す意味はない。役割がないでしょう」
ペイフォワードはファンドではなく自己資金での投資のため、投資期間の制約もバジェットの縛りもない。だから本当に世の中にとってプラスになる事業をやっているのに、不人気領域でベンチャーキャピタルから資金調達が難しい企業——そういう「ギリギリの会社」に出資する。
その動機を谷井氏は「介在価値」という言葉で表現する。
「自分たちの存在を確認したい。ピカピカの会社にお金を出して3年5年待って『上場ありがとう、儲かった』では、僕らである意味がない。苦しんでいる企業に介入し、協力して成果を出してこそ、自分たちの存在意義を感じられる」
メンタリング、人材調達、PR支援、営業先紹介、他VCの紹介、銀行への同行説得まで、必要なら何でもやる。そして成功させて回収した資金を、また次世代の起業家に投資していく——まさに社名通り「ペイフォワード」の循環だ。
投資先へのアドバイスについて、谷井氏は「あんまり答えは言わない」と語る。
「IBMにこんな話があるそうです。湖畔のおじいさんが毎年水鳥に餌をやっていたが、おじいさんが亡くなると鳥は餌を取れずに死んでしまった。IBMは言うのです——『愛とは餌を与えることではなく、餌の取り方を教えることだ』と」
谷井氏が起業家にインストールしようとするのは、答えそのものではなく「判断の根拠となる考え方」だ。時代もキャラも事業領域も違う中で、経験豊かな先輩起業家の助言が当たる確率は90%以下。だからこそ、本人が自分で判断できるようにすることがメンターの役割だという。
谷井氏が一貫して語るのは、経営の本質はオリジナリティの追求だということ。
「A社の人事政策、B社の営業戦略、ベストプラクティスをコピーして寄せ集めても、うまくいくはずがない。もしそれでうまくいくなら、盛田昭夫や井深大の挙動を全部コピーすればソニーになれるはず。でも70年後にソニーにはなれない」
だからひたすら自問自答するしかない。自分はどうありたいか、どういう会社でありたいか——下手なりに一歩一歩進む。
シナジーマーケティング社長時代、谷井氏は毎日のランチタイムをこの自問自答に充てていた。1階のカフェでホットドッグを頬張りながら、ノートに組織のあり方、営業のあり方、プロダクトの構築方針を書き出す。夜中も同様で、お酒を入れながらキーボードを叩き、頭の回転にタッチが追いつかず自分自身に怒鳴ることもあったという。
「経営は本当に楽しい。ロールプレイングゲームと同じ。創業当初は村の前でスライムに会うような可愛らしい問題ばかりだが、進むほど大きな竜が出てくる」
谷井氏は自身を「マーケッター」と位置付ける。マーケティングを「売れる仕組み作り」と定義したのはリクルートだったというが、世の中を調べ、商品を企画し、広め、届ける——これは経営のフロント全体に重なる。
マーケッターとして最も危険なのは、世の中の人々と感性が乖離してしまうこと。だから谷井氏は「日経新聞からスパまで全部読め」と言う。
「頭のいい人ほど日経・東洋経済・ダイヤモンドの経済三誌ばかり読む。でもそれをやればやるほど売り手側の論理ばかり理解して、市場のことが分からなくなる。週刊SPA!の定番企画『あの会社の給与明細』が一番売れるのは、結局みんなが一番興味あるのは隣のやつの年収だから。下世話と切り捨てず、世の中の人がそれを読みたい理由を肌感覚で感じることが大事」
かつてテストマーケティングは静岡県で行われていた。人口分布が日本全国に最も近いからだ。マーケッターとして理想は「自分自身が静岡県になること」——世の中の感性とずっと同期化し続ける努力だという。
感性の同期化が示唆するもう一つの真実は「世の中の9割は安定を求めている」ということだ。
「スタートアップ界隈にいると、給与・若いうちから活躍・成長機会を提供価値として打ち出す。でも世の中で成長したい人は5%程度。安定か成長かと聞かれたら9割は安定と答える。両者の能力に関連性はない。安定志向の優秀層を採りに行ったほうが、レッドオーシャンを避けられるかもしれない」
谷井氏は「全員、旅をしたほうがいい。特に海外」と勧める。日本国内では同質の中の差にすぎないが、海外なら1週間でも得るものがあるという。観光地で写真を撮るだけでなく、現地の人と語り合うことが重要だ。
最も学びが大きかったのはインド。「日本の真逆を全部置いていくとインドになる」。町の汚さも、人の押しの強さも、すべてが正反対。空港から夜中にホテルへ辿り着くだけで一苦労——タクシーは思った場所へ行ってくれず「あのホテルは潰れた」「政治的問題で入れない」と全然関係ないホテルに連れて行こうとする。それと戦うのが面白いという。
中国・深圳の体験も大きい。テンセントを訪れた際、街中の人口密度をGPSデータでヒートマップ化し、一定以上人が集まると当局に通報する仕組みを見せられた。「暴動の事前調査」と説明された時、当たり前の基準が全く違うと痛感したという。
「監視カメラだらけで嫌じゃないか」と聞くと、現地の人は「アメリカみたいに夜道でピストルを突き付けられる方が怖い」と答える。それぞれに合理性がある。世界を回ることで、日本にいて当たり前と思っていることを相対化できる。
ロシアでもプーチンについて市民に聞き回ったという谷井氏。「彼以外できなかったし、これからも彼しかできないんじゃないか」という生の声を聞いた経験が、複数の立場を理解する経営判断にも生きている。
「新たな刺激や、今まで体験したことのないものから受けるインパクトの大きさは、若いほうが大きい。映画を見て泣くのも若い人のほうが多い」
オンラインで仕事が完結する時代、1週間海外に出ても誰も気づかない。経営者こそ意識的に未知の体験をしに行くべきだ——谷井氏のメッセージは、地方のオーナー企業や若手起業家にとっても示唆に富む。
経営の答えは外にはない。自分の中に答えを見出すこと。そして同時に、世の中の感性と同期し続けること。この一見矛盾する二つを両立させることが、谷井氏の言う「オリジナリティの追求」なのかもしれない。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
