伝説のエンジニア・中島聡氏が、AI時代における経営者・エンジニアの生き残り方を語る。1人ベンチャーの台頭、SaaSビジネスモデルの崩壊、人月商売からの脱却、そして「人事予算を取りに行く」という新たなIT企業の戦い方とは。
Windows 95の開発に携わった元伝説のエンジニアであり、現在は作家・起業家として活動する中島聡氏。新著『2034』の発売を機に、M&A CAMPがAI時代の経営戦略・キャリア戦略について話を聞いた。
中島氏はまず、現在のAIによる雇用インパクトをこう表現する。
「AIが賢くなったから人がいらないというよりも、AIによって人の仕事が置き換えられる可能性があるなら、様子見のために雇用解除をしようという動きが始まっている。アメリカでは明らかに起こっていて、日本でも一部で始まっている」
オラクルが2万人規模のレイオフを発表するなど、ソフトウェアエンジニア業界はいわば「AI津波」の直撃を受けている状況。一方で、波がまだ見えていない他業界の人々は、その衝撃に気づいていないと中島氏は指摘する。
そして、現在のAI進化のフェーズについて中島氏はこう答えた。
「2合目から3合目に登ったぐらい。ここ半年でプログラムを書く手法がガラっと変わった。それでもまだ2〜3合目で、ここからもっと大きな波が来るのは明らか。気持ちを引き締めて、波に乗ってサーフボードを立てて乗りましょう、というイメージで動かないといけない」
中島氏は、目前に迫る変化を端的にこう表現する。
「数字をはっきり出すのは難しいが、イメージとしては8割ぐらいのホワイトカラーの仕事は、AIがやった方が安い・早い・正確という時代がもうすぐ目の前にある」
この変化は、新卒採用市場やキャリアアドバイザー業務など、ホワイトカラー全般に影響を及ぼす。実際、収録当日にClaude Codeを初めて触ったというインタビュアー側からも、「新卒採用を止めようと確信した」という声が上がった。
変化はネガティブな側面ばかりではない。中島氏は、新たに生まれるチャンスについても言及する。
「Claude Codeのおかげで生産性は上がる。企画やUI/UXデザイン、マーケットニーズ、売り方が上手な人が、1人や2人でサービスを立ち上げてしまう。100万人ユーザーがいなくてもペイできる」
例えば、日本国内で5,000人しかユーザーがいなくても、その5,000人にとってなくてはならないアプリにすれば、十分食べていけるしエグジットも狙える。さらに、5,000人のうち10人しか使わない機能でも、AIに指示すれば追加コストはほぼゼロで実装できる。
「もし今、僕が大学を出るタイミングだったら、そういうところを狙うかもしれない」と中島氏。
そしてこうしたニッチアプリ群を束ねる形でのM&Aも増えると予想する。「ハンドボールとカーリングとバスケのアプリを全部買って、もっと大きなアプリにする会社が出てくる。M&A対象としても十分ありえる」
AIの台頭は、これまで好調だったSaaSビジネスモデルにも大きな影響を与える。
「SaaSの会社にとってきついのは、まずたくさん人がいること。それから資産だと思われていた大量のコードが時代遅れになっていたりする。ゼロからClaude Codeに書かせた方が、コンパクトでアーキテクチャ的にいいものができる。財産だと思われていたものが負債になっている」
さらにマネタイズモデル自体への影響も大きい。SaaSはこれまで「従業員1人あたり月2,000〜3,000円」というモデルで成長してきたが、AIエージェントで一発処理できる時代に同じ単価は維持できない。1万人で運営してきた会社が1,000人で済むようになれば、売上自体も10分の1になりかねない。
もし今もう一度スタートアップを立ち上げるなら、と問われた中島氏の答えは明確だった。
「純粋なソフト会社はやらない。IP、例えばキャラクターと組むところでやる。ソフトだけだと簡単に真似されてしまう。でもハードがロボットだったり、IPが紐づいていたりすると簡単には真似できない」
日本の漫画・映画・アニメといったIP保有企業や、自動車の下請けでハードづくりの文化を持つ企業は、AI時代をどう戦えばいいか分からない状況にある。そうした会社のパートナーとして組む形が、新たなチャンスになるという。
伸びる領域として中島氏が挙げるのは、フィジカル(物理)が絡むAIビジネスだ。「ソフトだけで食べていくのは難しくなる。ロボットだけじゃないが、もっと物理的なものが絡んだソフト・AIビジネスが伸びる」
会場のIT経営者からの「これから何を仕事にすべきか」という質問に対し、中島氏は具体的な戦略を提示した。
「いわゆるITコンサルタントとして人月ベースでビジネスをするのは、もう脱却した方がいい。今までは10人月必要だったプロジェクトが、AIを使えば1人月でできる。売上が下がってしまう」
そして、ここからが核心だ。
「狙うのはIT予算ではなく人事予算。会社にとってIT予算は知れているが、人事予算は会社によっては全体の8割を占める。今あなたの会社で10人のチームが年間5,000万かけてやっている仕事を、うちはAIエージェントを作って500万でやりますよ、と。部門ごと任せてくださいと。それが証明できれば喜んで500万払ってくれる。継続的なビジネスにもなる」
NTT入社、マイクロソフト転職、米国移住──中島氏自身のキャリアの転機を振り返ると、「計算で動いた時はうまくいかず、感情に押し流された時の方がうまくいった」という。
NTT入社は「理系のエリートコースだから」という計算ずくの選択だった。一方、マイクロソフト日本法人立ち上げの誘いに応じた時は「あんまり計算もなくフッと決めた」結果、人生が大きく開けた。
「ロジカルに左脳で考えるんだけど、どこかでその情報が右脳に伝わって感情が起きる。右脳が決めた時は説明できない。でも、そこに情熱や夢中になれることがある時、人間は強い」
マラソン選手・高橋尚子が「優勝後に嬉しくて走った」というエピソードを引き合いに、楽しんでいる人間の強さを語った。
ではAI時代に人間に残される領域とは何か。中島氏が例に挙げたのは、イーロン・マスクの存在だ。
「物理的に見れば理にかなっているけど、普通やらないよなということを『やる』と言ってしまう。宇宙にデータセンターを作る、データセンターの衛星は月で作って打ち上げる、と。AIで代替できなさそうなのは、こういう宣言をして大きいことを言うこと」
「欲望の大きさ」は、AIが持ちえない人間の核心的な要素であり、それは後天的に大きくできるものでもないと中島氏は指摘する。
「AIは何でもできるし、ソツなく仕事してくれる。例えばYouTubeでビジネスとして成功するのに大事なのは、チャンネルが魅力的かどうか。経営の部分は8割きっちりやっていればよく、それは本当にAIでできる」
高給のCxOを採用するのではなく、自分が尖るべき領域に集中し、それ以外はAIに任せて「Bくらいの完成度」でやってもらえばいい──これが中島氏の示す新たな経営者像だ。
一方、中島氏は日本市場の構造的問題に懸念も示した。
「アメリカの会社は経済原理が働くので、1万人を1,000人にすると平気でやる。でも日本は雇用規制があり、黒字の大企業は人を解雇してはいけない国。そこで戦うとなると負けるような気がする」
また、就職人気ランキングで「サラリーマン」が1位という調査結果にも触れ、「公務員も上位。YouTuberや野球選手の方がずっと夢があるじゃないか。1番の妥協が1番人気というのは、この国大丈夫かなと思う」と苦言を呈した。
さらに、メガバンクが新卒数百人採用を発表していることに対しても、「これから5〜10年で世界が変わろうとしている中、雇って数年で解雇しなければならなくなるかもしれない。逆に責任があるんじゃないか」と疑問を投げかけた。
セッションの最後、「忙しい現代人がどう自分と向き合うか」という質問に対し、中島氏は自身の習慣を語った。
「日本にいる時は、地下鉄の乗り換えを考えて、最後の2駅は歩くようにしている。歩くのは考えるのにすごくプラスになる。あとは水泳。泳いでいる時も意外と考え事ができる。インターネットから離れる時間を作るのも必要かもしれない」
刺激を受け、誰よりも先に思いついて形にしたい──その純粋な好奇心と「欲望の最大化」こそが、中島氏の創造の源泉だと締めくくった。
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※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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