売上14億円、従業員30名の中古輸入車ベンチャー「カープロデュース」。採用した社員の半数が1年で辞めるという悩みを抱える社長が、DMM亀山会長に組織と経営の本質を聞いた対談。ビジョンよりも大切なものとは何か。
岡山で中古輸入車の販売・整備を手がける株式会社カープロデュース。売上14億円、従業員30名のベンチャー企業を率いる社長は、創業18歳・経営13年目の31歳という若き経営者だ。
地方ゆえの採用難、入社1年で半数が離職するという課題、そして「優秀な社員ほど独立して辞めていく」という悩み──。同社の社長が、DMM創業者の亀山敬司会長に経営の本音をぶつけた。組織を強くするための答えは、意外なほどシンプルだった。
対談の冒頭、社長は自社のビジネスモデルをこう説明する。
「岡山で、中古の輸入車の販売から整備までやることを事業としています。基本的にはオークションで仕入れて、Web集客で全国に販売しています」
国内のオークションに出てきた輸入車の中古、特に5年落ち以降の「片落ち」のゾーンを専門に扱うのが特徴だ。中古輸入車市場では「販売側も専門知識を持たずに右から左に流すだけ」「壊れても誰も保証してくれない」という構造的課題があり、そこに販売から整備までワンストップで対応するという事業を組み立てた。
販売価格帯は100万〜300万円台。中古車市場の売買の約6割を占める「350万円以下」のゾーンに照準を合わせている。販売の6割は県外からの注文で、カーセンサーやグーネットといったポータルサイトと自社リスティング、既存顧客紹介で全国から集客しているという。
岡山に拠点を構え続ける理由について、社長はこう答えた。
「モデルをきっちり作り込めるまでは、店舗保持費も低い岡山でやり続けようと思っています」
売上は前年の11億円から14億円へ約30%成長。ただし「もうちょっとちゃんと儲けたい」という言葉に、現状への満足はない。
話題は本題の組織課題に移る。社長は地方での採用の難しさを率直に吐露した。
「地方ということもあって採用がしにくい。なかなか採用が取れないので、勝手に僕のバイアスがかかってしまって、期待値調整がうまくできずに失敗しがちです」
年間5〜6人を採用しても、半数ほどが離職していく。3年目で平均年収500万円超、5年目では750万円という岡山では高水準の給与体系を整えているにもかかわらず、だ。
離職理由には2つのパターンがあるという。
「1年以内に辞める方は、現場と合っていないというパターン。2〜3年で辞める方は、大体『独立したい』という理由です」
中古車業界は独立しやすい業界でもある。実際、卒業した社員のうち3名が独立しているが、「そんなにうまくいっているようでもない」のが社長にとってのモヤモヤの種だ。「自社を卒業した人が成功する方が嬉しいじゃないですか」という言葉に、誠実な経営者の姿勢が表れている。
社長の悩みに対し、亀山会長の回答は明快だった。
「適性を入り口で見極めることは無理だと思うんだよね。やってみないと分からない。だったら離職を気にせず、バンバン取って募集母数を増やすっていうのはどう?」
社長の現状は「5人入って2〜3人残る」というパターン。亀山会長は「だったら5人を10人にすれば、6人残るじゃない」と続ける。
カープロデュースでは、入社後半年間は固定給で「ゲタを履かせる」期間を設け、その後はインセンティブ型に切り替える仕組みになっている。年間150台販売できれば「プロライン」に達し、3ヶ月で月10台販売できるよう徹底したサポート体制を整えている。
この仕組みの中で、頑張った社員は給与を伸ばし、伸び悩む社員は自然と脱落していく。亀山会長はこの構造を肯定したうえで、「全体的な利益率を上げられる構造を作るのが経営者の仕事」と指摘した。
他社で年間50台販売だった社員がカープロデュースに来ると150台売れるという話を受けて、亀山会長はこうも付け加えた。
「同業の中の引き抜き屋みたいなところがあるから、ライバル会社から来ましたっていうこともあるでしょう。お試しでどうぞって所定の給料をあげて、実力でやれる人だけ残ればいい」
社長が最も辛いと語ったのは、「やっと戦力化できた社員に辞められること」だった。自信がついて「自分でもできる」と思った人材ほど、独立していく。
亀山会長はこの問題を、飲食店やYouTuberの例を引きながら整理した。
「『この歴史と伝統は真似できません』『このブランドは無理ですわ』というモデルがあるとき、人は離れない。極端に言えば、利益が増える。本当はこのままいた方が得なのに、自分でやっちゃうみたいなパターンがあるよね」
つまり、社員に「ここを辞めたら同じことはできない」と思わせる独自性こそが、組織防衛の本質だという。カープロデュースは整備士・営業ともに分業体制を敷いており、「ここではできるが、独立したらできない」という構造を作ろうとしている。
少数精鋭で「すごい」と顧客から称賛される環境が、社員の自信になり、それが裏目に出て独立を選ばせている可能性もある。一気通貫のサポート体制を磨き続けることが、結果的に離職を抑える鍵になるという示唆だ。
対談で印象的だったのは、社長の経営スタイルについての告白だ。社長は経営書を読み、識学を学び、「社員と飲みに行かずに競争させなさい」というマネジメント理論を意識的に実践してきた。
しかし最近、社員との価値観の共有にズレを感じ始めているという。
「昔は月1で社員みんなで飲みに行ったり、誕生日会をしたりしていました。それを意図的に止めたんですが、昔からいるスタッフには『急に行かなくなったな』と思われている部分はあるかもしれません」
亀山会長は、識学のような理論を「真面目に書かれているが、万人に通用するわけじゃない」と切り捨てたうえで、こう語った。
「30人規模ならコミュニケーションしておいた方が得だと思う。社長だから、向こうも友達じゃないという距離は出てしまう。でも、ちゃんと話を聞いてやる、それが大事なんだよ」
社員の主張に対し「いや、それはダメだ」と否定するのではなく、「あ、そうかそうか」と一旦受け止め、そのうえで「俺はこう思うんだよ」と返す。それだけで、社員は「聞いてもらえている」と感じられるという。
社長は「親身を、今のスタッフの半分以上にしていない」と気づきを口にした。「期待したけど裏切られた、という感覚がありました」と振り返る彼に対し、亀山会長は家族の比喩で諭した。
「子供にも約束したのに破られたりするでしょう。でも『話し合おうよ』ってやるじゃない。親が寄り添うしかない。見返りを求めてしまうから嫌になる」
社長のもう一つの悩みは、「ビジョン・ミッションが弱いから組織が弱いのでは」という思いだった。生活を変えたいという危機感から起業した自分には、強い理念がなかったのではないか──。
亀山会長はこの考えを真っ向から否定した。
「あんなのいらない。コンサルがやたらビジョン・ミッションって言うけど、最近のビジョンって後付けで作ってるやつばっかりなんだよね。本当の思いがあってやってる人もいるけど、そうは言いながら『ここ儲からないと困るよね』とか言ってる社長を見ても、共感することはない」
それよりも大切なのは、社員の生活を守ること、そして「ここにいた方が他より得だ」と思ってもらえる環境を作ることだという。
「彼らはビジョンの元に集まってきたわけじゃない。『家族のために給料を上げたい』『安定した生活が欲しい』。そう思って付いてきた時に、『俺たち、ちゃんと豊かになれるかな』というのが社員にとって一番大事なんだよね」
社長自身、生活費や学費を自分で稼ぎなさいと言われ続け、危機感から独立した過去がある。「今から来る社員も同じだと思えばいい」という亀山会長の言葉は、ビジョン論議に偏りがちだった社長の視界を一気に開いた。
社長は今年、大阪や福岡への多店舗展開を視野に入れていると明かした。これに対しても亀山会長の助言は具体的だった。
「人員がいないままに向こうに行ったら、あっちもぐちゃぐちゃ、こっちもぐちゃぐちゃになるパターンよ。今のままだったら『こいつのスキルアップのためにこいつに任せよう』って言えるくらいまで組織の体を作ってからの方がいい」
1箇所で30人と、2箇所に分けて15人ずつでは、組織のあり方が全く違ってくる。コミュニケーションが減り、組織が壊れるリスクが大きい。
年130%の成長を続けることは「全然簡単じゃない」と亀山会長。「毎年5%でも10%でも、良くなっていけばいい」という言葉に、社長は「めちゃくちゃ気持ちが楽になります」と表情を緩めた。
対談の終盤、社長はもう一つの個人的な悩みを打ち明けた。仕事のことを考えすぎて、トライアスロンの練習にも手がつかず、精神的に疲弊しているという。
Facebookの名前を「トライ・トライアトライ社長」に変えるほど、何かにのめり込むと他のことができなくなる性格。社員との人間関係から受ける影響も繊細に感じ取ってしまう。
亀山会長の処方箋は、ここでもシンプルだった。
「俺は仕事で問題があっても、悩んでもしょうがない時は考えないで寝る。それが再現性ある。たまには離れることも大事だよ。1人旅でもいいし、完全オフの旅に行こう」
対談を通じて見えてきたのは、組織を強くするための答えは奇抜な戦略でも壮大なビジョンでもなく、「コミュニケーションを増やす」「離職を恐れずに採用母数を増やす」「身の丈に合った成長率を続ける」「経営者自身が休む」といった、極めて地に足のついた営みの積み重ねだということだ。
クソ真面目すぎる、と笑われた社長の誠実さは、亀山会長が太鼓判を押す通り、組織にとって大きな資産になりうる。あとはそれを社員に伝える術を磨いていけばいい。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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