DMM.com会長・亀山敬司氏が、若手起業家に向けて資金調達・組織づくり・M&Aの本質を語る。10人・100人・1000人と組織が変わる中で経営者に求められる「謙虚さ」と、買収先を成長させ続ける仕組みとは。
M&A CAMPでは今回、DMM.comのオフィスにお邪魔し、亀山敬司会長にお話を伺いました。テーマは「若手起業家へのアドバイス」。M&Aを検討している40歳以下の1回目の起業家に向けて、最初の事業で気をつけるべきこと、知っておけばよかったことを中心に語っていただきました。
亀山会長自身、22〜23歳の頃に信用金庫から2000万円を借りて事業を始めた経験があります。当時の金利は7〜8%。父親の保証人だけでは足りず、親戚にまで頼んで個人保証をつけたといいます。自己破産のリスクを抱えた、文字通り人生最大のリスクテイクでした。
しかし現在の環境はまったく違います。個人保証なし、金利2%程度で借りられるケースも増えています。
「今、ゼロから若手で起業するなら?」という問いに対し、亀山会長はこう答えます。
- エクイティ調達はよほどのことがないと使わない
- まずは借入からスタートするのが基本
- アイデアレベルではバリュエーションもつかない。ピボットも前提になる
- ある程度結果を出してからエクイティを検討すればいい
「個人保証なしで3000万借りられるなら、それを借りておくのが無難。最後に自己破産しなくていいわけだから」というのが亀山会長の感覚です。企業家マインド的にはついてでも4000万借りたい人が多いものですが、リスクの差を冷静に見るべきだと指摘します。
亀山会長は組織のフェーズを次のように整理します。
全員の名前を覚えられ、一緒に食事もできる距離感。自分が「こっちに行くぞ」と引っ張っていけるフェーズ。
一通りの名前は覚えられるが、直接動かすのは難しい。10人のリーダーを育て、それぞれに10人を任せるやり方になります。ここで初めて「中間管理職を育てられる人材」と「専門職に特化する人材」を分ける必要が出てきます。
「30人マネジメントできるやつを3人ぐらい育てて、あと7人はそれぞれ専門職をしっかりやってくれる、みたいな感じ」。職人肌のメンバーが部下を育てられないという問題も、ここで顕在化してきます。
意外なことに、亀山会長は100人規模を「一番組織が健全になりやすい」と表現します。リーダーを置きながらも、その下の30人と直接話せる距離感が残っているため、上から見ても下から見てもリーダーが適任かどうかを判断できるのです。
DMMは現在4000人を超える規模ですが、ここまで来ると10年経っても一度も会わない社員も出てきます。
「100人までなら人事や総務はいなくてもいい。でもその規模を超えると、採用やいろんな問題が出てくる」と亀山会長。事業部から独立した中立的な機関(人事・広報など)が現場の声を拾いに行く役割を担う必要が出てきます。
亀山会長自身、若い頃は「なんでこんな部署がいるんだ」と思っていたそうですが、ある程度の規模になるとその重要性が見えてくると振り返ります。
興味深いのは、組織が10人でも100人でも1000人でも、亀山会長が直接やり取りするのは結局10人前後だという話です。
「3つにやり取りできる人数って、それぐらいになる。それに合わせてバババでやってたら体が持たない」
人数は変わらず、関わるメンバーが少しずつ入れ替わっていく。これが大企業の経営者の現実だといいます。
人材登用については、ほとんど「やってみて判断する」のが亀山流です。
「いいなと思ってもそうでもなかったやつもいれば、意外と伸びてるなってやつもいる。自分の目利きなんてあんまり信用しない方がいい」
この「自分を信用しすぎない」姿勢こそが、亀山会長の経営の根幹に流れています。
亀山会長は石川県で事業をスタートし、30代前半〜中盤で社員100人規模になりました。当時、自分で起業した若手経営者は石川にほとんどおらず、ある種「鎖国」のような状態だったといいます。
しかし、それが結果的に「山の大将」として基礎力を養うことにつながりました。
- ビジネスモデルも方向性も自分で考える
- 経営の判断は基本的にすべて自分でやる
- 100人規模での苦労、10人規模での感覚を、現場で実体験した
「初めから1万人の会社に入るより、こういうところからスタートする方が、現場が見える経営者になれる。最近は買収後に大企業の代表になる起業家もいるけど、その目線では現場が見えない」
スタートアップ起業家の多くが、0→1は得意でも、社員が100人を超えると力を発揮できず売却や社長退任に追い込まれます。亀山会長が変化に対応し続けられた理由は何か。
答えは「謙虚さ」でした。
「100人ぐらいから先は手が回らなくなる。次のフェーズではどんどん権限を渡していく。『この店はお前がやれ』『このビジネスの営業は全部責任取れ』という風に。それは結局、謙虚さなんだよね」
初めはアルバイトに「金を盗むなよ」「ちゃんと店を開けろ」というレベルの教育から始まり、徐々に「言わなくてもやる」「方向性を考えてくれる」人材を増やしていく。財務や営業で自分より優れた人材が出てくれば、口を挟まずに任せる。
「俺は営業もできないし、プログラムも書いたことないし、財務もプロほど得意じゃない。むしろ何もできなかったから、謙虚にならざるを得ない」
では亀山会長自身は何が得意なのか。
「跳ねる旗を上げること」
方向性はテレビや孫正義氏の動向を見て判断する。「孫さんがやるならうまくいくのかも」と乗っかる。情報収集の中心は今でもテレビだといいます。
一方で、1→10、10→100で同じビジネスを毎年5〜10%改善して伸ばしていく作業は得意ではない、と率直に語ります。だからこそ、その役割を担う人材へのリスペクトが生まれるのです。
「スタートアップ系の人間は1→100をやる人を馬鹿にしがち。でもその人たちが日本の9割。電話受付したり、おかしくなったときに回収したり、その積み重ねで社会は成り立ってる」
スタートアップは0→1が得意で、1→10が伸びないから売却を考えるケースが多い。一方DMMは、買収後にバックオフィスや1→10運営を巻き取れる体制を持っています。
- サーチームは水商売・インターネット・あらゆる業種に対応可能
- マーケティング部隊が分析・販売を支援
- 法務・財務などのバックオフィスが整備されている
「スタートアップは特にバックオフィスが弱い。そこは我々がきちんとしているから、買収後も健全に成長させられる」
M&Aの最終意思決定は亀山会長自身が行います。判断基準は「フィーリング」と語る一方で、実際には次の観点を見ています。
- ビジネスモデルの正常性と未来性
- 古いビジネスでもITやAIで化けるか
- 運営チーム・経営者の魅力と誠実さ
M&Aでよくある「ロックアップ3年」について、亀山会長は明確に語ります。
「あれはあんまり意味がない。だらだらいてもしょうがないし、売って終わったらやらなくなりましたって人は次のことばかり考えてる。それなら巻き取れる方が楽」
売り手の経営者が抜けても、ここまでの状態にしておけばDMMの1→10メンバーが軌道に乗せられる、もしくはどこかの事業部にくっつけられる──両方の選択肢があるビジネスがM&Aしやすい、という考え方です。
資金調達は借入から堅実に。組織は10人・100人・1000人でフェーズが変わり、それぞれに必要な仕組みが違う。そして何より、自分の限界を認める「謙虚さ」が権限委譲を可能にし、組織を伸ばし続ける。
DMMという巨大企業を率いながら、亀山会長の語り口は驚くほどフラットでした。プライドを捨て、現場を尊重し、自分より得意な人に任せる。シンプルですが、これこそが3000億円規模の事業を作り上げた経営者の本質なのかもしれません。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
