M&A業界をメディアから切り拓いたM&A BANK代表・島袋氏が、売り手特化のFA事業とフランチャイズ展開を組み合わせた独自の成長戦略を語る。地方M&A市場の可能性や未経験者の参入余地まで、業界の裏側に踏み込んだ対談記事。
M&A業界は上場企業が約56社、時価総額も大きく注目を集める成長市場として知られています。本記事では、M&Aメディア「M&A BANK」を運営する島袋氏に、独自の成長戦略や業界参入の可能性について語っていただきました。M&A仲介の中央型モデルとは一線を画す、FA(ファイナンシャルアドバイザー)事業とフランチャイズを組み合わせたユニークなビジネスモデルから、地方M&A市場のチャンスまで、業界の裏側に迫ります。
M&A BANKは現在、グループ内でM&Aの売り手側に特化したファイナンシャルアドバイザー(FA)事業を展開しています。一般的なM&A仲介は、買い手と売り手の間に立って両方から手数料を得るマッチングモデルですが、FAは売り手か買い手のどちらか一方だけを支援するスタイルです。
島袋氏は、この事業を軸にIPOを目指していると語ります。ただし、既存のM&A仲介業界に正面から参入する選択肢は取りませんでした。
「M&A業界の上場企業を見ると、営業組織を作れる会社が強い。良い人材をリクルーティングして、Web上で発信できる知識を持つ。この2つが鍵だと思うんです。ただ今からそれをやっても5番手・6番手になるので、戦いは厳しい。時価総額は大きいけれど、PER(株価収益率)はそんなに高くないんですよね」
そこで島袋氏が選んだのは、別の切り口でPERを高くつけられる独自モデルでした。
M&A BANKが手掛けているのは、M&Aから新しい事業の提案までを一気通貫で行うビジネスです。具体的にはこういう流れになります。
まずM&Aサロンを運営し、そこに集まる経営者の一部にFA事業として売却支援を行う。そして売却後——いわゆる「アフターM&A」のフェーズで、孤独に陥ったり詐欺師が寄ってきたりする経営者たちに、フランチャイズ事業を提案するという仕組みです。
「フランチャイズでやってもらったり、場合によっては本体の方に出資してもらったり。今、この事業を50店舗近く伸ばしているんです」
通常のフランチャイズ事業者は広告費をかけてオーナーを募集しますが、M&A BANKは動画コンテンツを通じて既に資金力のある経営者層にリーチできるため、広告費が不要だといいます。
「動画を見てくれている人はお金持ちが多いから、5000万円するモデルでもサクッと決まるんですよね」
単純なM&A仲介でも単純なフランチャイズでもない、このハイブリッドモデルこそが、上場時の評価倍率(マルチプル)を引き上げる狙いだと島袋氏は語ります。
対談相手から「メディアを先に作ってから事業側を作る順序を考えているが、両輪を同時に動かす際の注意点は」と問われた島袋氏。自身は同時に作っていったタイプですが、振り返ると別の進め方もあったと話します。
「どちらかというと、業界側の人間をちょっとYouTuber寄りにエッジを立てて作っているという感じかな。本当は身だしなみを整えたりキャラを作っている部分もあって、普段とは全然違うんですよ」
YouTuberから事業を作るのは意外と一筋縄ではいかないと感じており、メディア領域は専任の担当に任せるのも一つの選択肢だと示唆。実際、島袋氏自身も最近は広報や資金調達が主な仕事になっているといいます。
M&A業界への新規参入は遅いのではないか——という問いに対し、島袋氏は「全然遅くない」と即答します。むしろ業界の構造的な制約から、新規プレイヤーにこそチャンスがあるといいます。
「大手で働いている人たちは、誓約書で同業転職を制限されていることが多いんです。横の転職にセンシティブで、行きたくても行けない人が多い。狭い業界だから、すぐ知られてしまうんですよね」
さらに島袋氏が強調するのが、都心と地方のM&A市場の違いです。
「都心のM&Aは上場戦略の中での華やかな事業売却が中心。でも地方に行くと、家族内承継だったり第三者承継だったり。地方の経営者からすれば『東京の人間に俺の会社が分かるか』という感覚なんですよ」
地方では、スーツをきちんと着て現場に足を運び、地場の繋がりを持つ人物が信頼されやすい。既存のM&Aメディアが響いているのはほぼ都心圏に限られるため、地方M&A市場を活性化できるプレイヤーには大きな機会があるといいます。
「地方は手に届きにくいけど、やれたら参入障壁が高いから、リプレースされにくい」
M&A仲介会社には未経験者が多いというイメージについて、島袋氏は率直に語ります。
「ぶっちゃけ誰でもできますよ。マジで超簡単。右から左に紹介するだけだもん。普通のBtoB営業ができる人なら誰でもできる」
会計知識も簿記3級レベルで十分で、用語は3か月ほど勉強し、案件を1〜2件経験すれば習得可能だといいます。法律的な論点は弁護士、会計的な論点は会計士に確認するのが原則で、仲介者の役割は実質的にディレクションに近いとのこと。
それでも年収が高い理由は、手数料水準にあります。
「片手で2000万円、両手で2000万円ずつをミニマムとする会社もある。最低の発注でも3000万円ぐらいが利益になる。インセンティブで3割渡しても数百万円が担当者に入る。年間に何本決めるかという、マンション営業マンに近いイメージですね」
求められるのは、行動量を最大化し、案件を正しく文書化でき、売り手の懐に入れる営業力だと島袋氏は語ります。
対談相手が「若い世代でもM&A業界で勝てるか」と問うと、島袋氏は自身の経験から答えます。
「俺がM&Aチャンネルをやった時、最初はめっちゃ色物みたいに見られた。でも経営者からするとそんなのどうでもよかったんですよ。そこのギャップがすごいし、業界がブラックボックス化されているから、めちゃくちゃチャンスがある」
さらに、スタートアップ起業家の年齢層が下がってきていることも追い風だといいます。経営者がおっさんばかりではなくなり、地方にもこの流れが広がっていく中で、若い世代の方が相談しやすいという需要は確実に存在する、というのが島袋氏の見立てです。
最後に島袋氏が強調したのは、ポジションを「振り切る」ことの重要性でした。売り手側に集中するか、あるいは買い手側に集中するか——どちらかに特化した方が突破口を作りやすいといいます。
「買い手側に振るのも結構ありだと思うんですよ。買い手は表に出ているような会社が買いたくない。良い会社が出てきたら成約率が高いじゃないですか」
両方を狙うのは難しい。最初にニッチなポジションをしっかり取り、そこから広げていく戦略こそが、新規プレイヤーが業界で生き残るための定石だと島袋氏は語ります。M&A業界は依然として参入余地のある成長市場であり、独自の切り口を持つプレイヤーには大きなチャンスが広がっているといえそうです。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
