『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』の著者・三戸政和氏が小規模M&Aの実態を語る。元手ゼロでも始められる理由、安く買うための鉄則、事業承継案件の見極め方まで、実践者50人以上を輩出したノウハウを公開。
日本創生投資代表の三戸政和氏は、SBIでのベンチャーキャピタル経験と地方政治家としてのキャリアを経て、現在は地方中小企業のバイアウトファンドを運営している。著書『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』は大きな反響を呼び、実際にサラリーマンが小さな会社を買う流れを生み出した。
三戸氏によれば、売上10億円以下の会社のM&Aプロセスは、大型案件と本質的に大きく変わらない。「外に出ていないだけで、ある程度理解しておけばそんなに難しいプロセスじゃない」と語る。中小企業の多くは「おっちゃん1人でやっているような会社」であり、サラリーマンや経営未経験者でも十分にチャレンジできるという。
インタビュアー自身も、三戸氏の本に触発されて小さなメディアやインド人向けYouTubeチャンネル(登録者16万人)を買収した経験を語った。結果としてリソース分散により思うように展開できなかったが、三戸氏はこう問い返す。
「失敗の定義をしっかりしておかないとダメ。1円で買って学びを得て、マイナスがなければそれは成功に近いんじゃないですか」
M&Aは目的ではなく手段である。投資した金額に対してどんなリターンを得たいのか、お金以外の学びや経験も含めて、ゴールを定量的・定性的に明確化することが何より重要だという。
三戸氏が強調するのは、ファンドの世界でも個人M&Aでも変わらない原則だ。
「安く買って高く売れば投資家は喜ぶ。バリューアップしないと利益が出ないということは、すでに高く買ってしまっているということ。安く買うことが最優先で、バリューアップは優先順位としてはかなり低い」
そして「安さ」は絶対的なものではなく相対的なもの。会社は一物一価であり、ある買い手にとっては10億円でも別の買い手にとっては20億円の価値がある。重要なのは入口(買値)と出口(売値)をセットで考えることだ。
三戸氏が小さい会社の買収を勧める理由は、プロセスがほぼ同じだからこそ場数を踏める点にある。
「100万円の会社を買おうが1億円の会社を買おうが、やることは一緒。小さい事業で数をこなしておけば、大きい会社を買うシーンが来た時にミスる確率が相当減る」
さらに、即決で買う姿勢は不動産投資と似ており、「すぐ買ってくれる人」のところに良質な情報が集まりやすくなる。100万円規模の案件で複数回トライしておけば、たとえ全てが失敗しても誤差レベル。一方で、1億円規模の本命案件が舞い込んだ時に勝負できるポジションを得られる。
「蕎麦屋の大将が毎日気温と湿度で味を変えている」といった属人化エピソードは、裏を返せば「毎日同じ味を出せないだけ」だと三戸氏は喝破する。
「外から見たら難しそうに見えるけど、実際入ってみたら大したことないなというのが世の中99%。学生起業家だってできるのだから、社会人経験のあるサラリーマンができない理由はない」
オンラインサロンのメンバーには、大手鉄道会社のサラリーマンが副業的に観光関連会社を1,000万円未満で買収した例や、自己資金ゼロで日本政策金融公庫から5,000万円を借り入れて地元企業を買収した例がある。
後者の人物は、地元では「個人で会社を買った人」として有名になり、政策金融公庫・商工会議所・地元メディアから取材依頼が相次ぎ、次の案件として3〜4億円規模の借り入れによる買収まで進んでいるという。
「事業承継融資は最大7.2億円、連帯保証なしで借りられる。個人保証もないので、事実上、個人にリスクがない。経験も積めるし、地方では“救世主”扱いになる」
安く買うために最も重要なのは、競争入札にしないこと。そのためにはレッドオーシャンではなく、ブルーオーシャンの売り手を見つける必要がある。トランビやバトンズなどのネットメディア、事業承継センター、商工会議所、さらには「正月に田舎で父親に話す」といった一次情報・〇.五次情報へのアクセスが鍵となる。
「Tシャツに『会社を買います』と書いて持っておけ、と最初の頃は言っていた。あらゆるところで言うのが大事」
そして高齢オーナーとの信頼関係こそが価格形成を左右する。
「80歳のおじいさんが廃業を考えている時、息子がいたらタダで承継するわけです。家族レベルの信頼関係を築ければ、極論タダでもらえる。だからコミュニケーション能力が全て」
三戸氏が一貫して勧めるのは、業歴の長い会社を狙うこと。30年続いている売上1億円の会社なら、買った瞬間に売上が2,000万円に落ちることはまず考えにくい。
「ITや新興業種は変動が大きいので1発目はやめた方がいい。10年、20年、できれば30〜40年続いている会社を買うべき。LBOが組めるのも、安定キャッシュフローのある業歴の長い会社だから」
買収後の運営は本当にケースバイケースで、「何もしなくていい会社」もあれば、営業同行や事務所探し、Amazon・楽天への商品出品まで一緒にやるベタなケースもあるという。
最後に三戸氏は、売り手側の経験についても言及した。
「株は売れる時に売れ、というのが基本。1億円で値段がついたなら、悩まず売ってしまった方がいい。値段感度を感じた瞬間が売り時。キャッシュ・イズ・キング、現金化してまた次のことをやればいい」
この20年間、三戸氏が「売れる時に売れ」と言って従って損したと恨まれたことは一度もないという。逆に「あの時売っておけばよかった」という後悔はよく聞くそうだ。
また、若手経営者にとってエグジットの時期を決めておくことの効用も大きい。「60歳で売る」と決めれば、そこから逆算して集中力が増し、経営の質が上がる。「いつまでに」がない経営は、ずるずるとマンネリ化しがちだ。
M&Aは時間を買う行為であり、買い手としても売り手としても一度経験することで見える景色が変わる。経営者の最大の能力は意思決定の幅であり、その幅は経験値からしか生まれない。
「リアルな経験と聞いた経験は雲泥の差。1回踏んでおくのは絶対大事」
小さくてもいい。M&Aという選択肢を持ち、買いでも売りでも実際にやってみる――三戸氏のメッセージはシンプルかつ実践的だった。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
