「売却前提で事業を作るのはアリか?」——元クラウドワークス副社長・成田修造氏が、学生起業家からの相談に答える事業相談企画。資本政策、属人性の排除、経営者のメディア露出戦略まで、2〜3年スパンで売却を繰り返すキャリアを志向する起業家に向けたM&A目線の実践的アドバイスをまとめた。
「売却前提で事業を作るのはアリか?」——若手起業家が抱きがちなこの問いに、元クラウドワークス副社長/COOの成田修造氏が答える事業相談企画。学生時代に立ち上げたインド向けメディアをフォロワー17万人で売却した経験を持つ高橋氏が、新たに手がけるインバウンド向けD2Cブランドの設計について相談する。資本政策、属人性の排除、経営者の露出戦略——「23年スパンで売却を繰り返す」キャリアを志向する起業家に向けた、実践的なアドバイスがまとめられている。
登場するのは、慶應義塾大学在学中にクラウドワークスの立ち上げに参画し、副社長/COOとして11年間経営の最前線に立ち、2022年末に退任した成田修造氏。現在は次の起業準備と複数社の社外取締役を務めている。
相談者は、高校時代のインド留学を起点にインド関連事業を手がける学生起業家・高橋氏。最初に立ち上げたのは「インドのコンテンツに日本人がリアクションする」というYouTubeチャンネルで、海外の反応動画のインド特化版にあたる。同チャンネルは登録者17万人まで成長し、2年前にM&A CAMPの運営会社へ売却している。
現在は得たキャッシュをもとに、インバウンド客向けのD2Cブランドを展開中。ガラスリングのキャンディボックスや、地元・名産地のだるまをポップカルチャー風にリブランディングしたシーシャ加工商品などを、原宿や海外客の集まる立地でテスト販売している。
高橋氏が抱える相談は二つ。一つ目は「売却前提で事業を進めるとき、今取っておくべきアクションは何か」だ。
「上場を目指す、調達してイノベーションを起こす、というタイプではなく、2〜3年スパンで売却を繰り返す起業家人生のほうが性に合っている」と高橋氏。前回のメディア売却時に「もっとちゃんとしておけばよかった」と感じた点が多く、初期の選択ミスを次は回避したいという問題意識があった。
これに対し成田氏は、まずM&Aを前提とした起業の正当性そのものを擁護する。
「資金調達して大きくしていくのはアメリカが作ったもの。その過程で大きな会社が買収を重ね、富裕層が生まれていくのもアメリカ的な資本主義のあり方。それ自体は全く悪いことじゃない」
成田氏は日米のキャリア観の違いにも言及する。「100年以上続く会社の数は日本とドイツが圧倒的で、他国にはほぼない。アメリカは『1人で全部できる人なんていない』前提で分業されている。0→1を作れる人は作り続ければいいし、引き継ぐのは大きい会社でいい」。創業者が一社を長く経営することを美徳とする日本流とは、そもそもゲームが違うという指摘だ。
高橋氏自身も「健康に経営できるのは5〜10人くらいの範囲。最初のコンセプトを作るのが得意で、当たりが見つかってルーティンワーク化すると興味がなくなる」と自覚している。前回のメディアもまさに「型が見えてからモチベーションが落ちた」ケースだった。
二つの軸——資本政策と事業内容——のうち、まず資本政策について成田氏は明快な指針を示す。
「資本金が低ければ低いほど、売却できる可能性は広がる。たとえば5億円のバリュエーションで20%の株を渡したら、その株主を満足させるためには5億円以上で売らないといけない。それが10億、20億、50億と上がるほど買い手は限られる」
時価総額が低ければ低いほど買い手のレンジが広い、というシンプルな原則だ。現状のように資本金500万〜1,000万円のレベルを維持できるなら、可能な限り維持するのが望ましい。
ただし事業拡大のために資金が必要になる局面では、株式での調達ではなく銀行借入を選ぶことを成田氏は勧める。「製造を増やしたいなら先に借りる。借入は売却時に大きく影響しないので、回せる分はどんどん借入で回すスタイルがいい」。高橋氏が現在ほぼ100%自己資金で運営している点は、売却ゴールから逆算するとむしろ理想的な布陣だといえる。
事業内容の側で論点になるのが「属人性」だ。高橋氏の前回のメディアは、自分たち自身が出演者として露出していたため、手離れが悪かったという反省がある。
成田氏は、企業価値が「事業が長く続くという前提」で算定されることを踏まえ、こう指摘する。
「企業価値はその事業がこの先続く前提で決まる。もし作り出している人の属人性で、たまたま3年うまくいっただけだとしたら、買い手からすると怖い。『社長さん、辞めちゃいますよね?』となってしまう」
買い手が確信を持って買うためには、(1)どこに再現性があるかを言語化すること、(2)次に引き継ぐ人を2年ほどかけて育成し、引き継げる体制を作ること——この二つが必要になる。逆に売り手も、ここまで整えて初めて確信を持って売れる。
高橋氏のもう一つの懸念は、自身がメディアに出ることでブランドと顔が一致してしまい、手離れが悪くなるのではないかという点だった。「売却を考えるなら、ずっと黒子でいた方がいいのか」と問う。
これに対し成田氏は否定的だ。
「採用には効くし、メディアに出ること自体は問題ない。お客さんは製品の良さやコンセプトに惹かれて来るのであって、そんなに簡単に経営者個人へ紐づくものではない」
むしろ、決裁者にリーチできる実績や信頼を作るうえで、経営者の露出はM&Aの成立確率を上げる方向にすら働きうる。「製品は製品で売り、自分は自分で露出するというコンビネーションでいい」と言い切る。
成田氏が最も率直に懸念を示したのは、D2Cというビジネスモデルそのもののスケール可能性だった。
「D2Cはどうしても、流行り廃りでも売上10〜20億で止まってしまうイメージがある。多くの会社は年商数億のブランドを複数持って、時価総額30〜40億くらいに着地している」
高橋氏が手がけるブランドは1個1個のセンスは光っているものの、買い手目線では「1コンセプトでどこまで伸びるか」を見極めにくい。だからこそ「誰がどう仕切り、どんな再現性で量産しているのか。今のブランドが落ちたとき、次を出せる会社なのか」までを設計しておく必要がある、と成田氏は提案する。
高橋氏自身は「指輪やだるまにこだわりがあるわけではなく、海外受けする日本カルチャーに一手間加えて海外でバズるコンテンツを量産していきたい」とビジョンを語る。インド生活が長く、海外の反応の蓄積から「これ好きそう」という感覚を持てる点が再現性の源だ。デザインはインド現地のティーンエイジャーと相談しながら決め、ファンへのABテストも行う。だが、そのプロデュースが現状ほぼ高橋氏一人で完結している以上、「ある一人の才能に極めて依存した分かりやすい会社」という構造から抜け出せていない。
その構造を踏まえ、成田氏は別の選択肢も提示する。「むしろM&Aせず、社内に事業部をポンポン作って事業を作り続けるという道もある。良いタイミングで良い買い手が見つかったら売る、というスタンスでも全然いい」。売却後にその事業が買い手のもとで伸びる会社もあれば、撤退して創業者だけが残るケースもある——M&Aの巧拙は、結局のところ買い手との相性にも左右されるからだ。
「売却前提の起業」は決してダメではない——成田氏のメッセージは明快だった。資本金を低く抑え借入で回す資本政策、属人性を排して再現性を言語化する事業設計、メディア露出は妨げにならないという認識、そしてD2Cならではのスケール限界への対処。これらを早期から織り込んでおけば、2〜3年スパンで事業を作っては売るシリアルアントレプレナーのキャリアは十分に成立する。
一方で、創業者の才能に強く依存する事業ほど、買い手にとっての「怖さ」も大きくなる。M&Aを目指すか、社内で事業部を量産するか——選択肢は経営者本人の性格特性とビジネスの構造の両方から導かれるべきものだろう。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
