ワークスアプリケーションズ創業者でパトスロゴス創業者の牧野正幸氏が、社員30人以下のスタートアップにおける採用基準、組織づくり、資金調達、経営者の役割について語る。「経営者は神格化せよ」「友達同士の創業は失敗する」など、2度の起業経験から導き出した原則を解説。
ワークスアプリケーションズ創業者であり、現在はパトスロゴスを率いる牧野正幸氏。2度目の創業から3年で順調に成長を続ける同氏に、社員30人以下の中小企業・スタートアップが取るべき成長戦略について話を聞いた。
「1回目みたいにのんびりやってられない」と語る牧野氏。前職創業時の1990年代後半は、アーリーステージで資金を出すVCが事実上存在せず、上場直前の経営陣の持ち株比率が0.数パーセントになるほどだった。資本政策を考える余裕もなく「世の中にプロダクトを広げたい」という思いだけで走った1回目に対し、2回目は資金調達も資本政策も意識。創業から2年半で35億円を集め、1年目で社員30人を超えるスピードで立ち上げた。
初期メンバー30人の採用について、牧野氏は明確な基準を持っている。
「ITのスキルなんかよりもはるかに大事なのはポテンシャル。ポテンシャルの高い人が2年やるのと、低い人がIT業界で5年やるんだったら、全然2年の方が上」
ベンチャー企業に絶対必要な条件として挙げたのが次の2点である。
- 頭の回転速度が速いこと
- 頭が柔らかいこと
これに加えてコミュニケーション能力があれば望ましいが、最初の2つは業界を問わず必須だという。一方で、規模が数千人になると「高度なルーチン化」が進み、ポテンシャルがそれほど高くなくても経験で活躍できる人材が必要になる。フェーズによって求められる人材像は変わるという指摘だ。
多くの経営者が陥る間違いとして、牧野氏は「経験者ばかり取ろうとすること」を挙げる。
「経験がある人はキャリアだけで報酬も高い。報酬をあまり払わないとなったら、できない奴が来る。できない年配選手はベンチャーにとって全く役に立たない」
むしろ採用において最も推奨するのが第二新卒である。社会経験があり常識の範囲が分かっており、大企業のいい面と悪い面を理解した上で転職してくるからだ。「大企業で得られなかったものを理解している人なら、ベンチャーに来ても辞めない」と語る。
離職率を下げるために重要なのは、採用時にきちんと説明すること。「あなたが今から10年の間に、自分の持てる能力を最大限に発揮できる環境がある。ただし決まったことは何もないし、全部自分でやらなきゃならない」と正直に伝えることが、ミスマッチを防ぐ鍵だという。
組織づくりにおいて牧野氏が強調したのは、経営者の「神格化」である。
「上下関係を作らないと無理。神とそれ以外、それぐらいの関係でないとダメ」
若い経営者が陥る最大の間違いが、友達同士での創業だという。気心は知れていても、能力があるかは分からず、後で必ず揉める。共同創業するなら、自分が心からリスペクトできる相手か、明確な上下関係を作れる相手でなければならない。
また、トップマネジメントに自分より年上を入れないことも重要だと説く。「26歳なら26歳以上はいらない。年齢が低い人の言うことを、人はなかなか聞けない」。20代30代では1歳の差も大きく感じるため、同年齢以下、できれば1歳でも下の方が望ましいという。
極めて個人的に仲良くすること、フラットな関係を強調することも避けるべきだ。下に人が入ってきたとき、誰が言っていることが正しいか分からなくなるためである。
「成長において大事なのはマネジメントじゃない」と牧野氏は言い切る。
100〜200人まではトップマネジメントは1人で十分。社長自身が「大営業部長」「大総務部長」として、最大の資源としてプレイヤーであり続けるべきだという考えだ。
「社長は優秀じゃなくても部下が優秀だったらいい、なんていうのはガセネタ。ベンチャーで一番優秀なやつは誰なのと言ったら、それは社長でしょ。じゃないんだったら創業するな」
ただし、自分一人ですべての領域をカバーするのは不可能だ。牧野氏は前職創業時から、自分がカバーできない領域(セールス、コンサルティング)で「自分の人生で会った中で最も優秀な人物」を1年がかりで口説き、共同創業者として迎え入れた。創業前からこのスカウトを最重要ミッションと位置づけていたという。
初期のフェーズではCFOを置かず、牧野氏自身が資金調達も担った。
「毎年やばかった。調達に9ヶ月かかっていたから、終わったらすぐ次の調達。永遠に資金調達していた」
安心して経営したいなら5年分の資金が必要だが、現実には不可能。今の時代でもランウェイ1年半分は集めて、シード→A→Bと調達していく。資金があっても次のラウンドが取れるかは事業計画通りに進むかにかかっており、前職では上場まで100%計画通りに業績を達成し、VCから「鏡」と呼ばれたという。
ミッション・ビジョン・バリューの設定についても明確な指針を語った。
「バリューを作る時の問題点は、理想を掲げすぎること。そんなことできる奴いたら神でしょ、というバリューを作っても意味がない」
パトスロゴスでは5つのバリューを設定。代表例が「他責NG」だ。「あれが解決しないとこれは解決できない、と言っていたら永遠に解決しない。最後は『国が悪い』になっちゃう」。原因の根源にこだわらず、自分で解決できる方法を考える文化を徹底している。
また、バリューには例外を設けてはいけないという。「ユーザーファーストと言った限りは、それ以外いらない。全部ユーザーファースト、ぐらいに極端にやってちょうどいい」。例外を作ると浸透しないというのが経験則だ。
社員数十人までは経営者が直接「これはこうだ」とジャッジできるためバリューは不要。100人を超えるとトップが直接伝えられなくなるため、共通言語としてのバリューが必要になる。
複数事業の展開について、牧野氏は否定的だ。
「100人で売上10億から、1000人で100億にするのはめちゃくちゃ難しい。マーケティングツールも製品も増えるが、唯一増えないのは自分だけ」
多角化は経営者の資源を最初から分散させてしまうため、それ以上の成長を妨げる。アメリカのメガベンチャーで多角化している会社は一社もなく、日本で多角化している企業は個別事業が行き詰まっているケースが多いという。リソースは1つの事業に集中させるべきというのが原則論だ。
年齢による役割の変化についても語った。30代までは現場で成果を出し、40代はマネジメントと人材育成、50代になると「マネージャーを育てる」段階に入る。
「50歳超えたら経営ができていないとダメ。経営とは、ビジョンを明確にして全体をエナジャイズすること。未来を見せてエナジャイズする、これが経営者の仕事」
伝え方も人それぞれ。1on1が得意な人もいれば、1対100、1対1000で発信する方が得意な人もいる。牧野氏は後者で、社内集会で繰り返し同じメッセージを発信する。「1回聞いて『なるほど』となっても1ヶ月経てばまた鱗が生えてくる。100回以上同じ話をして、やっと深く理解する」と語る。
B2Bエンタープライズ領域は手堅い反面、成長させるのは難しい。B2Cが感覚的にいいものが売れるのに対し、エンタープライズは顧客との信頼関係を積まなければ売れないからだ。
「巨大な組織だから、1人と仲良くしても意味がない。意思決定までに何十倍もの人が出てくる。各々の人とどういう関係性を持ち、誰がどういう役割かを理解する必要がある」
多くのスタートアップが営業を避け、エンタープライズ領域に来たがらないからこそ、参入余地があるとも言える。
最後に牧野氏は、30人以下の規模の経営者にこう語りかけた。
「ウダウダしている場合じゃない。後先考えずに、100人ぐらいまでは早く規模を拡大できるよう、営業も製品開発もサービス提供もとにかく高速でやる。100人ぐらいまではマンパワーで全然いける」
資金を調達したら、最も優先すべき使い道は給与だという。優秀な人を取るには高い報酬が必要であり、加えてキャリアの成長機会と、優秀な人で固められた環境を提供することが採用の鍵となる。
「若手経営者によく言うのは、最初から『人が取れません』という会社が多いけど、まず取ろうとしている人が間違っているし、報酬が低い。この2つをクリアしないと無理」
原理原則に乗っ取り、難しいことを考えすぎず、やるべきことを高速でやる。それが30人以下のフェーズで爆速成長を実現する道筋である。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


2025/6/27

2024/8/16

2024/5/15

2024/5/15

2026/3/24

2026/2/6