資本主義社会で成功を収めながら幸福であり続けることは可能なのか。フロムやマズローの理論を引きながら、人間が無意識に「不幸」を選んでしまう心理構造と、それを乗り越えて真の幸せに至るための「勇気」について語った対談を再構成する。
資本主義社会における成功と幸福の両立は、なぜこれほど難しいのか。本対談では、心理学者フロムやマズローの理論を踏まえながら、人間性の深層に潜む「幸福を阻む構造」について語られた。
NHK文化センターでの講演で「幸せになりたい人」と問えば全員が手を挙げ、「不幸になりたい人」と問えば誰も手を挙げない。しかしフロイトは「人間はすでに苦しみたがる」と指摘した。悩んでいる人にとっては、悩んでいること自体が最大の救いになっているというのだ。
人間は「不幸と不安」の選択を迫られると不幸を選び、「不満と不幸」を迫られると不満を選ぶ傾向がある。
例として挙げられたのは、暴力を振るう夫やアルコール依存症の夫と暮らす女性のケースだ。「ひどい夫だから別れなさい」と周囲が促しても、彼女たちは別れない。なぜなら、別れて一人になることが「不安」だからだ。一方で依存症の夫と暮らし続けることは「不満」である。だが不満と不幸の二択を迫られれば、人は不幸を選んでしまう。
さらに驚くべきデータとして、アルコール依存症の夫と離婚した女性のうち、約半数が再びアルコール依存症の男性と結婚するという話が紹介された。「依存症の男だけは勘弁してほしい」と本心では思っているはずなのに、実際には同じ相手を選んでしまう。
その理由は、依存症の夫が「自分に合っている」からだという。周囲から「かわいそうね」と関心を向けられ、自分が努力しなくても誰が見ても夫が悪いという構図に身を置ける。つまり、自分自身が変化・成長する必要がない安全地帯になっているのだ。
マズローは「幸福になるためには人間性に対する深い理解がなければいけない」と説いた。アルコール依存症の人を好きになってしまう自分とは何なのか——自分自身と向き合う作業なしに、幸福へは到達できない。
人間は無力に生まれるため、保護と安全を本能的に求める。これを「安全性の優位」という。成長と安全の二者択一を迫られれば、ほとんどの人は安全を選ぶ。
しかし成長するということは、自立し、能動性を持ち、リスクを取って不安と向き合い続けることだ。悩み続けている状態は、裏を返せば「成長しなくていい」という選択でもある。
幸福であるためには、絶えず不安を乗り越えて成長し続けるしかない。それは決して楽な道ではない。
もう一つ重要な対比として語られたのが、「好き」と「欲」の違いである。
- 好き:能動性であり、適切な人間関係を築き、自分を成長させる
- 欲:受け身であり、適切でない相手と付き合い、最後は破滅に至る
不倫や複数の異性関係などは、好きではなく欲によるものだという。「自分が誰かを愛する」のではなく「みんな私を愛してください」という受動的な姿勢——それは穴の開いたバケツに水を注ぐようなもので、どれだけ満たそうとしても満たされない。
また幸福と所有金額は必ずしも比例しない。100億円持っていても翌年90億円になれば不幸を感じる。成長率という観点が、幸福を測る指標になる。
結論として、語られたキーワードは「勇気」だった。
- 安全と成長で「成長」を選ぶのが勇気
- 不満と不幸で「不安」を選ぶのが勇気
勇気がなければ絶対に幸せにはなれない。しかし勇気がなく生きていく方が楽でもある。だからこそ「地獄への道は舗装されている」——舗装された楽な道を選び続けた結果、人生の最後に残るのは後悔だけになる、というのだ。
成功と幸福の両立は、自分の「好き」を見つけ、安全よりも成長を選ぶ勇気を持ち続けた人だけに開かれている。それが本対談の到達点である。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
