買い手特化のFA事業を展開する川端氏が、M&Aの買い手側が必ずチェックする評価ポイントを解説。売却理由の伝え方、財務面の見られ方、市場成長性、そして「売り時」の見極め方まで、買い手のプロならではの視点を語る。
M&A業界で「買い手特化」という珍しいスタンスを取るFA(ファイナンシャルアドバイザリー)事業者がいる。キーエンス出身で、日本M&Aセンターにて約8年間勤務し東日本統括まで務めたのち、2022年に独立した川端氏だ。今回は、買い手側の気持ちや評価ポイントについて、現場の本音を聞いた。
業種を問わず、買い手が共通して最も気にするポイントは、売却理由だという。
「物の売買とは違い、人生をかけて経営してきた事業を売却するわけです。しかも儲かっていて伸びてもいる。そこに腹落ちしないと、どんなにいい案件でも進みません」
売り手側からすれば、管理面の限界、資金調達の負担、事業フェーズの転換など、さまざまな事情がある。しかし、それらは外から見えない。だからこそ、本音をオープンに伝えることが重要だと川端氏は強調する。
「日本人的に、お金を稼ぎたいという動機をオープンにすることは美徳とされていない傾向があります。ただ、本当はそういう部分もある、加えてこういう理由もある、と素直に伝える方がいい。隠していると感じられた瞬間、買い手は『見えないものがあって怖い』となります。何億、何十億円という投資判断において、不透明さは致命的です」
中には「事業を伸ばしてまた売却するつもりです」と公言する経営者もいるが、それも本音であれば買い手は受け入れられるという。問題なのは、本音が見えないことそのものなのだ。
次に重要なのが財務面だ。当然ながら、赤字より黒字、純資産が薄い会社より厚い会社が好まれる。特に注目されるのが「内部留保」、つまり過去の蓄積だという。
「20年経営している会社で、今期は2億、3億の利益が出ています、と言われても、純資産が1,000万円しかなければ『今までの利益はどこへ行ったのか』と思いますよね」
経営者はPL(損益計算書)に意識が向きがちだが、買い手はBS(貸借対照表)に表れる長年の積み重ねを重視する。
もっとも、地方の中小企業では節税対策で利益を残さない経営が一般的で、BSが弱いケースは少なくない。それで売却できなくなるかというと、そうではない。
「重要なのは、ロジックで説明できることです。なぜBSがこうなっているのか、実態の収益力はどうなのかを分析し、買い手に伝えられるアドバイザーをつけることが大切です」
また、資本構成や株式の変遷も買い手は必ずチェックするポイントだという。
業種選定や市場の未来性も、バリュエーションを大きく左右する要素だ。
「分かりやすい例で言えば、紙媒体の印刷機を持っていて利益が3億円出ている会社があったとして、3年分の収益力で10億円で買ってください、と言われても怖いですよね。市場自体が縮小していくわけですから」
逆に、成長領域で実績が出ている会社、事業基盤がしっかりしていて実現性が担保できる会社には、ハイバリュエーションがつく傾向にある。
レガシーな業界でも諦める必要はない。
「レガシーな分野であっても、新しい要素をどれだけ取り入れているか。革新性のある取り組みがあるだけで、印象もバリュエーションの倍率も変わってきます」
川端氏が手がけるのは、業界でも希少な「買い手探し専門」のFAだ。日本国内にM&A仲介会社は約3,000社あるが、2022年に1件でも成約した会社は723社にとどまる。つまり7割以上は年間で1件も成約できていないのが実情だ。
ヒアリングを重ねた結果、川端氏は構造的な課題を発見した。
「事業承継ニーズで売り案件は取れるのですが、1〜2人で運営しているM&Aブティックが多く、売り手のフォローや新規開拓に追われて、買い手探しに手が回らないんです」
そこで川端氏は、自身の強みである買い手探しに特化し、業界各社から案件を受ける形のビジネスモデルを構築した。社名のとおり「BUY SIDE(バイサイド)」専業として、業界内でユニークなポジションを築いている。
最後に、売り手側へのアドバイスを聞いた。
「『これから上がっていく、まだこの株を売りたくない』と思った時こそ売り時です」
業績が伸び切った後で慌てて相談に来る経営者は多いが、本当に評価される売却は、まだ伸びる余地が見えるタイミングで動いた人だという。他者から見て将来性があると判断される時期だからこそ、高いバリュエーションがつき、売却プロセスにも余裕が生まれ、選択肢も広がる。
M&Aは経営者にとって初めての経験となる場合がほとんどだ。だからこそ、売却を意識する前から「どんな買い手にとって価値ある会社か」という視点で経営を設計し、早めに相談することが、結果的に企業価値を最大化する近道になる。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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