スタートアップにおけるCFO採用の判断軸はどこにあるのか。会計士・中辻氏が、資金調達フェーズ別のCFOの必要性、年収相場、CFOより先に採用すべき管理部門人材の重要性まで解説する。
スタートアップが成長していく過程で、多くの経営者が一度は悩むのが「CFOをいつ採用すべきか」という問いだ。資金調達の規模が大きくなるほど、経営者一人で財務・IR・ガバナンスをカバーするのは難しくなる。一方で、上場を目指さないフェーズや売上規模が小さい時期にCFOを置くのはオーバースペックになりかねない。
本記事では、会計事務所・事業会社を経てスタートアップでファイナンス、IR、IPO準備を担当し、2026年4月に独立してスタートアップ支援と海外案件のコンサルティングを手がける会計士・中辻氏に、CFO採用のタイミングと、その前段で必要となる管理部門人材の採用について話を聞いた。
CFOがいない段階で資金調達をする場合、当然ながら経営者がその役割を担うことになる。中辻氏は、これはむしろ望ましい姿だと語る。
「投資家の心であったり、自分のビジネスがどう見られているのかは、投資家と話す中でこそ分かる。だから経営者がやるべきという面があります」
投資家との対話を通じてしか得られない感覚があり、その学びは事業の磨き込みにも直結する。CFO採用を急ぐ前に、まず経営者自身が一次情報を取りに行くことが、スタートアップの初期段階では合理的だという。
ではどの段階でCFOを採用すべきか。中辻氏は感覚値としてのラインを示す。
「2桁億円を超えるような調達をしようとすると、経営者一人ではやはり回らなくなります。シリーズAぐらいまでは経営者一人で動くか、CFOと一緒にやるか。シリーズBになるとCFOがいた方がいい印象です」
調達額が大きくなるほどバリュエーションの根拠を投資家に対して論理的に打ち返す必要が出てくる。「100億と提示して相手から50億と返ってきたとき、なぜ100億なのかをきちんと説明しなければならない」場面が増えるためだ。
数億円規模と数十億円規模では、関わる投資家の数も、求められる対応の深さもまったく異なる。
「ミドル・レイターになると、投資家から財務DD(デューデリジェンス:財務面の詳細な調査)や法務DDが入ります。それに対応しないといけないし、業務が段階的に細かくなっていく」
さらに、ステージが進むほど経営者自身も事業マネジメントの負荷が増していく。組織が大きくなり、見るべき範囲が広がる中で、財務・IR領域まで一人で背負い続けるのは現実的ではなくなる。「攻めと守りの両方を組織として実装し、その最終責任を持たなければならない経営者は本当にすごい」と中辻氏は語る。
上場やM&Aを目指さず、中長期で売上を伸ばしていきたいというフェーズの会社にCFOは必要なのか。この問いに対して中辻氏は、フルタイムでの採用にはハードルがあると指摘する。
「IPOやM&Aを目指さないのであれば、外部アドバイザー的にシェアリングCFOのような形で一時的に入ってもらうのが現実的かもしれません。フルタイム採用となると、就職する側にとっても大きなゴールが見えにくく、来てくれない可能性がある」
CFOはプロフェッショナル職であり、自身の成長と会社の成長が相関する。会社の成長が止まると自身のキャリアも停滞しかねないため、上場やエグジットといった大きな目標がないと優秀な人材を惹きつけにくいという構造がある。
気になる年収相場について中辻氏はこう答える。
「今は結構高騰していて、1,000万円超えにストックオプション以上、というのが当たり前になりつつあります。最低ラインで800万円ぐらいの可能性もありますが、CFO経験や実績がある方はなかなか少ない」
スタートアップにおけるCFO人材は供給が限られており、相応の対価を払わなければそもそも採用候補に上がりにくいのが実情だ。
中辻氏は、現在のマーケットではCFOよりも管理部長や経理マネージャーの採用の方が難しいと指摘する。
「管理部長は人事、総務、労務、経理、財務とまったく質の異なる業務を全部見なければいけない。その難易度がまず高い。加えて、管理部門のロールは守りの番人なので、性格としては保守的な方が多い。そういう方がスタートアップに来てくれるかというマインドセットの問題もあって、市場に供給されにくい」
業務範囲の広さと求められるキャラクターの両面から、適切な人材に出会うこと自体が容易ではないということだ。
それだけ難しいにもかかわらず、中辻氏は採用タイミングとしては管理部長や経理マネージャーの方をCFOより前に置くべきだと話す。
「数字を整えないと、その数字を前提に経営判断ができない。今期売上10億円のつもりが実は5億円でした、では判断がまったく変わってしまう。数字のインフラを整えることが大事なので、より早いステージで採用した方がいい」
見極めの難しさについては、「話せばその人の経験値はある程度わかるが、マインドセットや働き方は会ってみないとわからない。可能なら業務委託で1ヶ月ほど一緒に働かせてもらえると判断しやすい」と実務的なアドバイスを添える。
上場を見据える企業ほど、ミドル・レイター期にはガバナンス構築の遅れが現場の疲弊につながる。早いステージから整備しておくほど後が楽になる、というのが中辻氏の見立てだ。
ただし、ここには大きな前提がある。
「スタートアップで難しいのは、事業が最優先という点です。ガバナンスは構築できたが売上はゼロでした、ではあり得ない。管理部門は収益を生まないので、結局は事業との兼ね合いになります」
4年で上場するような連続起業家の会社は、最初からガバナンスを意識して整えているケースが多いという。一方で「事業のほうがまず大事だ」という経営者の判断も、それはそれで正解だと中辻氏は言う。
「経営者がどれぐらいガバナンスに意識を持っているかによる部分が大きい。意識が高い人はやっているし、まずは事業だという人もいる。どちらも正解だと思います」
CFO採用の判断は、調達規模・上場の有無・経営者の意識など複数の変数で決まり、一律の正解はない。ただし本インタビューから読み取れる目安は次の通りだ。
- 初期の資金調達は経営者自身が担い、投資家視点を学ぶ
- 2桁億円の調達やシリーズB以降がCFO採用の目安
- 上場を目指さない場合はシェアリングCFOの活用も選択肢
- CFOより前に、管理部長・経理マネージャーで「数字のインフラ」を整える
- 事業成長とガバナンス構築のバランスは、経営者の優先順位次第
「これという正解はないが、早めに意識して組織づくりや採用を考えることが大事」という中辻氏の言葉は、フェーズを問わず多くの経営者にとって示唆に富む。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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