東大阪から起業し、中央電力グループを400億円規模に育て上げた中村氏。子会社レジルが上場を果たすまでの道のりで掴んだ「商売の型」の作り方、組織の壁の乗り越え方、銀行との付き合い方を語る。社員30人以下の中小企業オーナーに向けた、長期視点での成長戦略インタビュー。
中央電力グループの子会社「レジル」が上場を果たし、利益27億円規模に成長している。創業者である中村氏は同社株式の1割弱を保有しつつ、関西電力に経営を譲り渡す形で第一線から退いた。
「電力事業は非常にカチっとした事業なので、僕みたいに新しいことをどんどんやろうという空気感ではなかなか合わない。きちっとした人にきちっとやってもらう方がいい」
中村氏自身は過去2回、上場準備を進めながらも途中で取りやめた経験がある。1回目は「事業をもっと確立してから行こう」、2回目は「利益が20億以上出ており、慌てて上場する必要がないと判断した」という。レジルの上場は、3代目社長の強い意向を汲んで実現したものだ。
「上場したからといって劇的に何かが変わるわけじゃない。優秀な人が急に入り出すこともないし、社風や人材の質が一変するわけでもない。一部上場企業の安心感で集まる社員が増えるという話は聞きますが、果たしてそれが正しいのかは色々な良し悪しがあります」
上場をゴールにすると伸びが止まる経営者も少なくない。重要なのは「上場後にどういう成長戦略と動線を作れるか」が整っているか否かだ、と中村氏は指摘する。
社員30人以下の中小企業が次の成長ステージに進むとき、最大の壁は資金と組織だ。中村氏は資金調達のやり方を二つに整理する。
ひとつは「先に金を集める」やり方。エンジェル投資家やVCから資金を集めるロケットスタート型だ。もうひとつは「商売の型ができてから集める」やり方。一定の利益パターンが見えてから銀行から借り入れて拡大するアプローチである。
「ロケットスタートは分かりやすく早い。ただ、勝つ戦略・勝ちパターンに乗っていない段階で大金を集めると、お金の使い方が荒くなる確率が高くなる」
中村氏の推奨は、まず小さくても「型」を作ることだ。たとえば社員1人に給料30万円を払って40万円を稼げる仕組みを作り、それを10人、100人へとコピーできるモデルにする。この実績ができれば銀行は貸す。借りた資金は過去の経験や失敗を踏まえて使うため、生きた使われ方をしやすい。
「肩ができている状態で資金を入れる、ということが大事です」
中村氏自身、現在の中央電力の柱である「マンション一括受電」事業に行き着くまでに約13年かかったと振り返る。
「省エネ商売、メーカー、いろいろやりました。20くらいビジネスモデルを試したと思う。やっては潰れ、やっては潰れの連続でした」
もう少し早く「型を作る」発想を持てていれば違ったかもしれない、と中村氏は省みる。理屈より先にとにかく動く――そのスタイルは社員の離職を生む副作用もあったが、失敗を重ねながら自分なりの形を組み立てていったという。
「同じパターンでなくていい。いろんな経営者のやり方を聞きながら、これは自分のパターンだなと選んでいけばいい」
人数が増えるほど、創業者の血や熱量は薄まる。中村氏が体感した転換点は「3人」だった。
「1〜2人のときは社長の血が濃く入る。3人を超えると組織になり、薄まり始める。同じことを同じようにやってくれと言っても、それは伝わらなくなる」
マニュアルを作っても人間は同じようには動かない。だからこそ、再現性を作るために組織設計を考え続ける必要がある。中でも陥りやすい罠が「数字の出ているプレイヤーをそのまま課長にしてしまう」ことだ。
「課長の役割が何かを社長自身が分かっていないのに、数字が出ているからと任せてしまう。すると人に興味がない人間が課長になり、部下がかわいそうな目に遭う」
課長・部長それぞれの役割、評価の仕方、家としての成果のあげ方――これらを言語化して問えるかどうかが、組織設計の質を分ける。「あなたが部長として今週具体的に何をするのか」を即答できない人はその役職を本当に務めてきていない、と中村氏は厳しく見る。
中村氏が30歳前後だった頃、社員アンケートには「社長がアホすぎてこの会社にいられない」と書かれていたという。
「当時は反省もせず、むしろ『誰やこんなん書いたんは』とイラつくくらいでした」
自分が引っ張らねばという気負いが片肘を張らせ、対立を生んでいた。スタイルが変わったのは40代に差し掛かってから。「申し訳なかった、僕が悪かった、すみませんでした」と部下に言えるようになって、組織の収まりが格段に良くなったという。
「組織を作る主人公は自分だけれど、社員それぞれにとっては自分が主人公。頼りない自分のところに来てくれているだけでありがたいと思えるようになると、すっと組織が回り始める」
失敗の経験から学んだ自責と謙虚――それは口先だけでなく、心からの姿勢でなければ社員に見抜かれる、と中村氏は強調する。
創業初期は「面接に来てくれるだけで採用」という時代もあった。髪を整えるための散髪代を渡したらそのまま帰ってこなかった応募者もいたという。組織がある程度の規模になってからは、視点が変わる。
「一般の社員として募集する人の多くは、やることが決まっている方が楽だと感じます。『好きなことをやれ、考えてどんどん動け』と言われると困る人もいる。組織を作るときに必要なのは、決められたことをきちっとやってくれる人です」
一方で「社長を作る」、つまり次世代の経営者候補を育てるフェーズでは真逆の人材が求められる。同じ採用でも、フェーズによって求める資質を切り分ける必要がある。
また中村氏は、48歳のときに自分の強み・弱みをそれぞれ100ずつ書き出したという。経営者として何が得意で何が苦手か。それを理解した上で組織設計を行えば、足りない部分は社員に限らず顧問や先輩経営者、社外コミュニティで補える。
「全部自社の社員にする設計が、最近はどんどん変わってきている。働き方の多様化も含め、5人を10人に、10人を30人にする時にどう人を入れるかは、組織の概略を手書きで描いてみるところから考えるといい」
資金繰りについて中村氏は、売上100億円を超えた頃には20の事業会社それぞれで借入を積み重ね、合計40社から140億円を借りていたという。
「地熱発電所を作ったり、横の事業に資金を出したりしていたら、計算したら債務超過だった。ただキャッシュは潤沢に持っていたので回った」
会社が潰れるのはキャッシュが切れたとき。逆に言えば債務超過でもキャッシュが潤沢にあれば潰れない。建設会社のように黒字でもキャッシュが入らずに連鎖倒産することがあるのは、その逆の例だ。
中央電力では「マンション一括受電」事業に踏み出す際、2期連続で2億円以上の赤字を計上した。中村氏はその前に5億円ほど借りて準備をしていたという。攻める前に「どこまで赤字を掘る可能性があるか」を計算し、キャッシュを積んでおく――この準備が攻めの選択肢を広げる。
一括受電事業の立ち上げ期、リース会社が容易に与信を付けてくれない局面があった。1世帯あたり約5万円の工事費を投じ、2〜3年で回収する設計のため、ストック型ビジネスとはいえ初期負担は重い。
中村氏が取った手は「人のブランドを借りる」ことだった。三菱商事の子会社をファイナンスアレンジャーに据え、決まれば手数料5%を支払う。打ち合わせは三菱商事の会議室で行う。
「ブランドを借りるとリース会社がついてきてくれる。徐々に信用がついてきたら、5%の手数料を3%、2%、1%と下げてもらい、10年かけてゼロにしました」
金融機関との付き合いについて、中村氏は一般的な発想と逆の戦略を勧める。
「金利を1%から0.5%、0.3%にさせる交渉に注力する経営者がいますが、僕はむしろ『喜んで払う』くらいの方がいいと思っています。金融機関も金利を払ってくれるところを大事にしてくれるんです」
紹介会社との関係も同様で、手数料を下げさせるより倍にしてでも優先的に動いてもらう発想の方が、信用と人脈の脈になる。「設けさせながら味方にしてもらう」――これが中村氏の言う信用構築の基本だ。
さらに、銀行との関係は有事ではなく平時に作る。
「金融機関は相談されるのが好き。相談を通じて情報が入るからです。決算書を月次で見ておいてもらえませんかと布石を打っておく。担当者で動かせる枠もあるし、国の支援枠もある。いざという時の動きが全然違ってきます」
用事のない時に会いに行く――昔人脈作りのコツとして言われたこの言葉が、銀行との関係構築にもそのまま当てはまる。
短期的な視点に陥ると、単月赤字や周囲の急成長企業を見て焦りが募る。中村氏が経営者に「絶対にやってはいけない」と説くのが、他の経営者と比べることだ。
「業種が同じでも、集まっているメンバーも経歴も全部違う。比べるものじゃない。比べていいのは唯一、過去の自社と現在の自社、立てた予算と実績です」
SNSで他社の動きが容赦なく目に入る時代にあって、この姿勢はますます難しい。日本は先進国の中でも「足の引っ張り合い」が強い国だと中村氏は見る。だからこそ意識のリソース配分が経営者の力量を決める。
「気になる人の言葉が全部課題になるなら課題にすればいい。課題にならないものは消す。むかつくとか悶々とするだけのものは課題設定にならないのでいらない」
人間の意識と脳は一つで、何に向けるかが全て。富士山に登ると決めて登っているのが今の自分。腹立ちや羨望にリソースを使うのは、その分だけ自分のリソースを他人に渡していることになる――中村氏が愛読する『マスターの教え』(ジョン・マクドナルド著)から得た視点だ。
中村氏は競合他社を調べたり会ったりすることをほとんどしない。基本は自己流で、自分の頭の中で考えていく。ただし時代の変化は冷静に捉えている。
「アイデアにどれだけ価値があるのかと最近思います。チャットGPTが世界中の事例を答えてくれる時代に、自分のポッと出すアイデアというのは結局、世界中にすでにあるたくさんのチャンネルを今のここに合わせているに過ぎないのではないか」
中央電力グループでは現在、フランスの技術にアメリカの投資家がついて生まれた、パルス電力で岩盤を割りながら地下を掘削する技術に投資している。地方で求められる課題を起点に、世界から技術や事例を探してきて「チャンネル合わせ」をする――これが中村氏が描く新しい事業の作り方だ。
そして組織もまた多様化する。社員で作る組織、社外ネットワークで作る組織、コミュニティで作る組織。1人と顧問20人でも立派な組織だ。フェーズに応じて、どの組織形態をチョイスするかが経営者の力量となる。
中村氏が一貫して語るのは、長期視点の重要性だ。短期で勝とうとすると一足飛びの楽な方法に走る。評判は残り、次がうまくいかなくなる。
金融機関を設けさせる、関わる人をハッピーにする座を設計する、結果として規模が大きくなる――この順序を守れる経営者だけが、社員数の壁、資金の壁、組織の壁を一つずつ越えていける。
失敗してもいい。「正解なんて何が正解か全くわからんと進んでいく」のが経営。すべてが事前にわかっていたら何も面白くない。社員30人以下の経営者にとって、自社の過去とだけ比較しながら、目の前の課題に意識のリソースを集中させる――それが0から400億円への道筋となる。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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