DMM亀山会長がAI×フィットネスのマトレーナーとテックファミリー2社の経営者に直接アドバイス。バリュエーション向上のカギは「儲ける順番」と「ユーザーをただで集める発想」にあった。
M&Aや事業売却を視野に入れる経営者にとって、「自社の企業価値をどう高めるか」は最大のテーマです。今回のかめっちVALUE第9回では、AI×フィットネス事業を展開するマトレーナーの吉田氏と、寺院・宗教法人向けDXを手がけるテックファミリーのシーナ氏が登場。DMM.com会長の亀山敬司氏が、それぞれの事業に対して企業価値を伸ばすための具体的な道筋を提示しました。
マトレーナーの吉田氏は、自身がトレーナー出身であり、別事業として15店舗のジムも運営する経営者です。同社の主軸プロダクトは、LINE上で動くダイエット伴走AI。トレーナーが本来時間を取られていた食事管理を自動化する仕組みで、現在パーソナルジムを中心に約200店舗にSaaSとして導入されています。
そこから次の一手として、吉田氏が動かし始めているのがインフルエンサー連動型のD2Cサービスです。フィットネス系インフルエンサーの「AI分身」を作り、ファンが課金してレベルアップ機能やランキング機能で交流できる仕組みを構想しています。
吉田氏は現時点の企業価値を「5〜10億円程度」と見積もり、「目指すは10倍の100億円」と語りました。
亀山氏はまずフィットネス事業の特性に触れ、「リアルなフィットネスは人とのサービス業が中心で、効率化が難しく、1〜2人でやっている店舗には大手も勝てない」と指摘。一方で、AI領域であれば勝負になると見立てます。
そのうえで、インフルエンサー連動の構想に対しては率直なアドバイスを返しました。Web上で完結するサービスは真似されやすく、アプリの精度勝負になれば差別化が難しい。だからこそ、インフルエンサーは「入口」として割り切り、本丸は地方の一般トレーナーが自分のファンに使えるツールとして広げるべきだ、というのが亀山氏の見立てです。
「九州にいるユーザーが、東京の有名インフルエンサーに惹かれてアプリをダウンロードする。実際に通うのは無理だから、地元のトレーナーを見つけてそちらに流れる。インフルエンサーは集客チャネル、リアルな人とのつながりこそ継続価値になる」と語りました。
さらに、現段階でのM&Aや売却については「アイデアレベルで数億円のバリュエーションしか付かない。会員数が積み上がってからの方が、何十倍にもなる可能性がある」と、まず実績を出すことを優先すべきだとアドバイスしました。
2人目に登壇したテックファミリーのシーナ氏は、もともと2015年頃までインドに住んでいた経歴を持つ起業家。帰国後に英会話スクールを起業し、保育園や社会福祉法人への講師派遣を経て、現在は葬儀業界・宗教法人・社会福祉法人向けのDX支援に事業を展開しています。
受託開発で培ったCRMの自社コアエンジンをベースに、お寺の檀家管理システムをこれから本格的に展開していく段階。現時点の企業価値は「売上はわずかだが、気持ちとしては10億円」と語りました。
課題は、宗教法人との接点をどう増やすか。LinkedInやFacebookでDMを送ってアポを取る地道な営業に限界を感じているといいます。
ここで亀山氏が提示したのが、本動画の核心となる「儲ける順番」の発想でした。
「もうコアエンジンができているなら、システム自体は無料で配ってしまえばいい。ただで配れば10倍のユーザーが入ってくる。サーバーコストなんて知れている。完成してから有料化すればいい」
さらに踏み込んで、ユーザーから寄せられる要望をマネタイズに転化する具体的な方法も示しました。
「『この機能が欲しい』という要望が来たら、『じゃあ受託で作りますよ』と提案する。普通なら1,000万円もらうところを、『他社にも売る権利をうちに残してくれるなら500万円でいい』と条件交渉する。相手の費用で開発し、できあがったものはSaaSの追加機能として横展開する」
この方法なら、開発コストをかけずに機能拡張ができ、同時に「本当に売れる機能」だけを実装できます。シーナ氏も「めちゃくちゃ聞きすぎてカスタムが増えてしまった」と反省を語りました。
両社に共通するテーマとして、亀山氏は「投資資金は本業から回せ」と強調しました。
「稼いだ金を全部次に突っ込む。1億稼いだら1億全部使う。経費にすれば赤字を出して税金も抑えられる。それが一番効率的な投資の仕方」と語ります。DMM.comが大きくなったのも、まさにこのサイクルの繰り返しだったといいます。
吉田氏に対しては「ジムが15店舗もあって、ムキムキの仲間もいるんだろう。それは使わない手はない。AIならどこでも作れるが、フィジカルがあるのは強み」と、保有資源の活用を促しました。
最後に亀山氏が示した企業価値の目安は「現状の利益の5〜10倍」。シーナ氏については「受託で稼いでいる利益の5倍が現状の価値。新規事業に1億円突っ込む前のベースで考える」と整理しました。
また、「大きい市場の10番手より、小さい市場の1番手の方が利益率は高い。教育コストもかからない」と、ニッチ市場で1位を取る戦略の優位性についても言及しています。
吉田氏は「無料配布の発想は自分にはなかった。明日から実行に落とし込む」と語り、シーナ氏も「日本の7万7,000件のお寺のうち、まずは1,000〜2,000件で実証してみたい」と決意を新たにしました。
企業価値を高めるカギは、奇抜なアイデアではなく「儲ける順番を間違えないこと」と「ユーザーの声を最も安く集める仕組みを持つこと」。亀山氏のシンプルで実践的なアドバイスは、スケールを目指すすべての経営者にとってヒントになるはずです。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
