登録者200万人超の人気YouTuber「スーツ」氏が、自身の会社における経営スタイルを語る対談。会長職に退き経営をプロに委ねる判断、アドセンス収益を軸にした事業設計、そしてYouTubeをビジネスに繋げるための具体的な思考法を明かす。
YouTubeチャンネル「スーツ交通」「スーツ旅行」などを運営し、登録者数200万人超を誇るスーツ氏。同氏が代表を務めるのは観光誘致社株式会社(旧・株式会社asoview)で、現在6期目を迎える。注目すべきは、スーツ氏自身が代表取締役ではなく「会長職」に就いており、実際の経営は伊藤社長に任せているという体制だ。
この構造の根底にあるのは、経営学で言う「所有と経営の分離」。産業革命期のイギリスで、資本家が自ら工場を所有しつつも運営はプロの経営者に委ねた歴史に由来する考え方である。
「自分よりもできる人を探してきて、変わってやってもらう。これは基本的な考えだし、その方が効率がいいのが普通じゃないですか」とスーツ氏は語る。
ただし、完全な放置ではない。最近は会長として三角する場面も増えており、リスクコンプライアンス委員会への参加や大口取引先との打ち合わせなど、経営的な時間に1日の3割ほどを充てているという。「まだ26歳で人生長いので、自分の成長のためにも多少は参加した方がいい」との考えからだ。
経営を任せると一口に言っても、誰に任せるかの判断は難しい。スーツ氏が伊藤社長に支払う役員報酬は年間数千万円規模と、決して安くはない。
「最初に払う時はものすごく勇気がいった」と振り返るが、判断軸は明確だった。「1年間この人を雇って2000万円払っても、全然うちの会社は問題ないと分かっていた。その1年間でその人がやるかどうかをちゃんと見る」。
結果として、社長の経営によって生まれた利益は役員報酬を大きく上回り、十分にペイした。ここで重要なのは、こうした体力を持てるだけの初期キャッシュ=「所有」を、創業者が自力で築き上げていなければならないという点だ。
「ド素人が『俺は所有側に立つから借金してお金だけ借りてきて、あとは経営者にやらせればいい』というのはちょっと無理」とスーツ氏は釘を刺す。
なお、伊藤社長との出会いは、スーツ氏が「スーツセビロチャンネル」の案件を1時間5万円で募集した際、唯一応募してきた人物だった。会社運営の基本姿勢を聞き、信頼に値する人物だと判断したという。
観光誘致社の収益構造は、YouTubeのアドセンス収入と、企業や自治体からのタイアップ案件(営業案件)が二本柱となっている。
アドセンス収益は近年むしろ伸びており、特にテレビでYouTubeを視聴するユーザー層が広告単価を押し上げている。「30秒飛ばせない広告が2連続で流れたりする。それで単価が上がっている」とスーツ氏は分析する。
タイアップ案件の方針として興味深いのは、自分から提案営業を仕掛けるのではなく、問い合わせベースで対応してきたという点だ。「信用のない会社が提案営業しても効果がない。実績を積む期間が必要」という伊藤社長の方針に従い、自社からの提案営業は半年ほど前に始めたばかり。それでも問い合わせは「一時期は毎日3〜4件いい感じのものが来ていた」という。
動画タイアップの基本料金は500万円。冷凍宅配食「ナッシュ」のような、旅行と直接関係のない商材も扱っており、視聴者層の購買力を背景に幅広いジャンルに対応できる強みがある。
スーツ氏が今月から始めたのが、視聴者目線の旅行メディア事業だ。観光地の紹介において、既存のガイドブックやホームページが「綺麗なものしか載せていない」ことに違和感を覚えていたからだという。
「ここの綺麗な場所に行くまでに沼も歩かないといけないけれど、超えていく価値がある」「晴れている日は年間何日ぐらいで、晴れていない日はこっちに行けば元が取れる」──そうした実用情報まで踏み込んだ広告メディアを構築する構想だ。
第1弾として、長野県・湯田中温泉の旅館各社と連携し、実証実験を進めている。受託先の費用は自治体や施設からの広告予算で賄うBtoBモデル。「BtoCの方が予算が大きい」というシンプルな経済合理性に基づく選択だ。
対談を通じて何度も強調されたのが、クリエイターとしての心構えだった。
「自分は金を稼いでいるのであって、再生数を稼いでいるわけではない」──スーツ氏はこの言葉を「儲かってくると特に忘れてしまう」と自戒する。
アドセンス売上を最大化する設計は、再生数×単価という極めて明確な構造を持ち、見通しが立てやすい。そして売上が上がれば、自然とYouTube側のおすすめにも表示されやすくなる。「YouTubeは得た売上の55%を僕らがもらう仕組み。YouTube的にも僕らが儲かってほしいわけだから、長年YouTubeにとって都合のいい動画を出すことを意識してきた」。
スーツ氏自身、編集を極力かけない「スーツセビロチャンネル」の運用から始まり、いかに無駄なコストをかけずにアドセンスを最大化するかを追求してきた。
対極にあるのが「自己満足の罠」だ。「需要のない方向に家事を取ってしまうと、地獄への入り口になる」「自分がいいと思うものを作るのではなく、見てもらえるものを作った方が、自分は幸せになる」とスーツ氏は語る。
ビジネスを伸ばすうえでも、YouTubeを軸に置くべきだとスーツ氏は説く。理由は2つ。
第一に、視聴者がそのまま見込み顧客になる点。「うちに来る案件の3〜4分の1は『いつかスーツさんにお願いしたいと思っていた』というもの。CMをずっと打ち続けているような状態」だ。
第二に、信頼できる人材や機会との出会いの場になる点。スーツ氏自身、東京駅丸の内のコンコースで大企業の役員クラスから声をかけられ名刺を渡された経験があるという。「1万人視聴者がいれば、その中にものすごくできる人が紛れている。視聴者の宝箱みたいな感じ」。
ただし注意点もある。「自分を大きく見せすぎない」「怪しい誘いには乗らない」など、信用判断を誤らないことが前提だ。スーツ氏の場合、登録者2,000人の時点で視聴者からの応援金が累計30万円ほど集まったといい、リアルを届けるYouTubeの本質的な価値を体感している。
対談の終盤、スーツ氏はYouTuberが陥りがちなパターンとして、ビジネスパーソン的な収益最大化志向と、クリエイター的なこだわりとのバランス問題を挙げた。
ヒカキン氏や某ビジネスメディアを例に、「クリエイターよりに振り切ると、収支計画は崩れる」「ビジネスパーソンがYouTubeをやる方が儲けることに特化できる」という構造を指摘。スーツ氏自身は「YouTuberとしての才能を活かしながら、お金儲けに徹する」スタンスを取り続けてきたことが、現在の事業基盤につながっている。
そしてその基盤があるからこそ、「経営を任せる」という選択肢が現実のものとなった。逆に、その柱がないままに他人にビジネスを委ねるのはリスクが高すぎる、というのが本対談の核心的なメッセージである。
「自分で稼げる状態がまずマスト。その上で、信頼できる人に任せる挑戦をする」──クリエイターと経営者、両方の顔を持つスーツ氏の言葉には、再現性のある経営哲学が詰まっていた。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです。


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