出張撮影サービス「Lovegraph(ラブグラフ)」を学生時代に立ち上げ、2年前にミクシィへグループジョインしたコゲヨウスケ氏。M&Aを選んだ理由、カルチャーフィットの大切さ、組織崩壊から学んだ経営観、そして20代から60代までの人生設計までを赤裸々に語る。
出張撮影サービス「Lovegraph(ラブグラフ)」は、取りたいカメラマンと撮られたい家族・夫婦・カップルをつなぐマッチングプラットフォームだ。学生時代の趣味からスタートし、2022年にミクシィ(MIXI)へグループジョイン(M&A)したことで業界の注目を集めた。
本記事では、ラブグラフ代表のコゲヨウスケ氏が、M&Aに至るまでの経緯、ミクシィを売却先に選んだ理由、組織づくりへのこだわり、そして長期的なキャリアプランまでを率直に語る。
コゲ氏がラブグラフを立ち上げたのは20歳のとき。今年31歳になり、創業からすでに12年目の会社になる。
きっかけは、SNS全盛期だった大学生時代の違和感だった。当時5,000〜6,000人のフォロワーを抱えていたコゲ氏は、自分より上のフォロワー数の人を見ては「まだまだだな」と感じていたという。
「いろんな人の幸せが目に入ってくる中で、自分が持っていないものばかりに目がつく人類になってきたな、と。このままだと人間は幸せにならへんかも、と思ったのがきっかけです」
持っていないものではなく、目の前にある家族・恋人・仕事仲間・友達といった幸せに目を向けてもらう。そのために写真というメディアを使う──これがラブグラフの思想の出発点になった。
ラブグラフがミクシィへ100%の株式売却を決めたのは2022年。だがコゲ氏は「コロナをきっかけにM&Aを考えたわけではない」と語る。
もともとミクシィの写真共有サービス「家族アルバム みてね」と相性が良いと感じており、シード期・プレシリーズA・シリーズAの各調達タイミングで、出資を受けるかどうかに関係なくミクシィに挨拶に行っていたという。
「最初の頃は、こっちもめっちゃちっちゃいし、向こうもまだ『みてね』のユーザー数を伸ばすことが第一優先で、マネタイズはまだ考えていない時期だった。タイミングが合わなかったんです」
転機になったのは、ちょうどコロナ禍にあたるタイミング。ミクシィ側がマネタイズのため事業会社との連携を模索し始め、加えてラブグラフが1年ほど前に競合のフォトワークを擁する会社「ソフィダンテ」を買収して結果を出していたことが追い風となった。最初はマイノリティ出資、その後100%売却という流れで話が進んだ。
人と人が会うことを前提とした出張撮影事業は、コロナ禍で甚大な打撃を受けた。一時は売上が9割ダウン。しかし、卒業式や成人式が中止になった学生たちに向けて「ラブグラフで思い出を残してほしい」というツイートがバズり、依頼が殺到。結果としてその年は過去最高売上を記録し、年間トータルでも成長を維持できたという。
この頃にはすでにミクシィのオフィスにラブグラフが間借りする形で入居しており、自然な形で資本関係から事業連携、そしてM&Aへと発展していった。
コゲ氏がIPOではなくM&Aを選択した背景には、冷静な事業計算があった。
「IPOした時の時価総額は、似た業界の上場企業が参考にされる。それがM&Aで売却する金額の2〜3倍程度にしかならないなら、上場して低い時価総額で頑張るより、大きな資本がある企業のグループ企業になった方が事業のためになる」
IPOで上場しても、時価総額が低ければ次の資金調達能力が制約される。それなら、シナジーのある企業の傘下で投資を受けながら伸ばす方が合理的だ──という判断だった。
バリュエーション(企業価値評価)については、過去の投資家がつけてくれた金額を1つの基準にしつつ、ミクシィ側が減損しないラインとの間で調整したという。
コゲ氏がM&Aで最重視したのは、事業シナジーがあるか、そしてその領域にちゃんと投資してもらえるかだった。
「投資というのはお金だけじゃない。例えば『みてね』からラブグラフへの送客にどれだけ力を入れてくれるか。買収後にお飾りにならないかは大事でした」
もう1つの軸がカルチャーフィット。社員採用と同じで、お互いに合うか合わないかは決定的に重要だという。
「ミクシィのカルチャーがもともと好きでしたし、かなりフィットすると感じていました」
ロックアップ期間(売却後に経営者が一定期間会社に残ることを義務付ける契約)は数年あるが、コゲ氏は「気にしなくていい」と語る。売却してすぐ抜けたい人にとっては長く感じるかもしれないが、彼自身はラブグラフを伸ばすために残っているつもりなので、まったく苦にならないという。
M&A後の上司にあたるのは、ミクシィ創業者の笠原健治氏だ。コゲ氏は「師匠」と呼んで深く尊敬している。
「いわゆる経営者のギラギラ感が一切ない。プロダクトのことしか考えていない人。初めて会った時、仲のいい経営者を聞いても『あまり飲みに行かないので』と1秒で終わるのに、『みてねでやりたいことは?』と聞いたら『今年は7つあって』と一生喋っていた。物作りの人なんだな、と」
もともとカメラマン出身でプロダクトアウト型の人間であるコゲ氏にとって、笠原氏の姿勢は理想的なロールモデルとなっている。
ラブグラフも創業期に組織崩壊を経験している。原因はコミュニケーション不足だった。
そのとき相談に行ったRMP(リクルートマーケティングパートナーズ)の元社長・山口文洋氏から教わったのが、ダニエル・キムの「成功循環モデル」だ。
組織には4つの要素があるという。関係の質・思考の質・行動の質・結果の質。良い組織はまず関係の質から入る。関係が良くなれば思考が前向きになり、行動のレベルが上がり、結果が出る。結果が出るからまた関係が深まる──というサイクルだ。
逆に、結果から入る組織は危うい。結果が悪化すると「あの部署のせいで」と関係がギスつき、思考が荒れ、行動の質が落ち、さらに結果が悪化する負のサイクルに陥る。
「VCが入ってきて結果を求められる中で、関係値がおかしくなって組織崩壊につながった反省がある。今は1on1や毎週の朝会で、関係の質を磨くことを徹底しています」
組織を一人から束ねる側に回るうえでコゲ氏が大切にしているのは、細かい違和感を放置しないことだ。
「最初の角度がちょっとずれているだけで、5年後・10年後にはめっちゃ開いてしまう。だから細かいことでもちゃんと言える関係にしておくことが大事です」
ラブグラフ社内には「あの時こう思ってたんだよね」と後から言うことを禁止するカルチャーがある。基本は本人同士で直接、その場で解決する。陰で言うのも禁止だ。
また、創業期にあった「摩擦力」という言葉も象徴的だ。意見をぶつけ合うときに火花が散るのは、ラブグラフという宝石を磨くため。対立を恐れて意見を言わない方が、むしろチーム全体の不利益になる、という考え方である。
ラブグラフの事業は、会社・カメラマン・ゲスト(顧客)の三者がステークホルダーとなる。それぞれの利害は微妙に対立する構造だ。
カメラマンの報酬を上げれば会社の利益が減り、顧客に求める単価が上がる。逆に顧客に寄りすぎればカメラマンの報酬が下がる。会社が儲けようとすると、両方にしわ寄せがいく。
「いい人だけで立ち上げると逆に事業として成り立ちづらい。バランス感覚を持って公平に判断できる能力が求められます」
また、業界慣習として撮影スタジオではデータをすぐに渡さない(台紙やフォトブック販売で利益を出す)構造があるが、ラブグラフは撮影データをすべて顧客に渡す方針を取っている。フォトブックなどはオプションとして提供する形だ。
これは「ビジネス的なプラスとユーザー体験が逆行する」業界慣習へのアンチテーゼでもある。
M&A当時、社員はおよそ10名。そこから現在まで大きな変化はなく、正社員15〜16名規模を維持している。一方でカメラマン(ラブグラファー)は当時約800名から、現在は1,500名規模に拡大した。
「2,000万人いる有罪(要するに撮影需要のあるユーザー)に対して全国どこでも出張撮影を提供できるようになった。これがM&Aにつながった大きな要素の1つです」
スタートアップのM&Aは、利益の何年分という伝統的な評価軸ではなく、シナジーで価値を測る。あえて赤字を掘ってでもユーザー数や供給側を集めきった事例こそ、IPOにもM&Aにも繋がりやすい──というのがコゲ氏の見立てだ。
コゲ氏のキャリアプランは長期で構想されている。
- **20代**:日本で結果を出す(28〜29歳でラブグラフを売却し達成)
- **30代**:海外で挑戦できる事業を作る(みてねと組んだ新規事業を構想中)
- **40代**:政治。日本の仕組みにタッチできるポジションへ
- **50代**:地球規模の課題(難民・貧困など)への挑戦
- **60代**:宇宙ゴミ・惑星接近など、宇宙規模の課題
「『絶対こうあるべきやん』ということがそうなっていないのがむかつくタイプ。子供の教育や少子化など、自分なりの考えがあるのに変わらないのが許せない。だから40代では政治家、あるいは区議会でもいいので日本の仕組みに関われる立場になりたい」
壮大なビジョンを口に出し続けることで、政治家とのコンタクトも増えてきたという。
コゲ氏は自分が「不適合者」だと公言する。だからこそ、苦手なことを得意にしようとせず、人に任せる経営を貫いている。
「これマジで、世の中の社長が言いづらいから代わりに言うけど、マジで社長はそいつができることにフォーカスさせた方がいい。何でもできる人間なら、大企業で普通に出世しているはず。不適合者が起業してるんやから、できることを最大限やれる組織を作った方が会社はハッピーになる」
ナンバー2に苦手なことを任せることに「申し訳ない」と感じる必要もない、とも語る。社長が苦手なことをやろうとしても会社のためにならない。割り切ってチームワークで補い合うことこそ健全である、というスタンスだ。
M&Aの発表に対し、ラブグラフ社員は驚くほどスムーズに受け入れたという。
「上場するぞと言って集めたメンバーじゃない。ラブグラフの事業が好きで集まったメンバー。事業がクローズするわけじゃないし、グループ会社になりますと言われても『何が変わるんやろう』というぐらいの感覚だったと思う」
お金で集めたメンバーは条件が変われば辞める。上場をエサに集めたメンバーはM&Aで辞める。一方、ビジョンや人柄で集めたメンバーは、よほどのことがなければ残る──。これはイグジット(出口戦略)にも直結する重要な示唆だ。
インタビューの最後、コゲ氏は若手起業家にこう語りかけた。
「M&Aしたから、みんなから見たらうまくいったように思われてるかもしれないけど、組織崩壊もキャッシュが尽きそうになったことも事業が伸びないことも全部経験している。それでも諦めずに頑張ったこと以外、ここまで来れた理由はない。みんな辛いと思うけど、頑張ってください」
趣味から始まった会社をM&Aまで導いた経営者の言葉には、特別な才能ではなく地道な継続だけが道を作る、という説得力があった。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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