東京大学在学中に仮想通貨メディア『コインオタク』を約6億円で売却した島山氏。MA前提での起業、ピボットによる組織再編、そして売却金額より大切にした信頼関係について語る。芸術とビジネスを両立する独自の経営哲学にも迫る。
東京大学在学中に起業し、大学4年生の時に会社を約6億円で売却した経営者がいる。島山氏は2017年、大学2年生の時に仮想通貨メディア『コインオタク』を立ち上げた。仮想通貨取引所への送客や、ブロックチェーン領域のニュース配信を行うメディアプラットフォームで、イメージとしては「株探(かぶたん)の仮想通貨版」だ。
当時はコインチェックがCMを始めるよりも前で、ビットコインの価格が一桁万円から10万円程度の頃。最初のバブルやハッキング事件などを経験しながら事業を伸ばしていった。
「上場の選択肢がそもそもなかったんですよね。仮想通貨の領域でその頃上場なんて絶対にないでしょっていう雰囲気だったので、基本的にはどこかのタイミングで売却すると考えていました」
そもそも島山氏は宗教学者を志しており、研究に集中するための資金を稼ぐ手段として、仮想通貨や株式のトレードと並行して起業を選んだ。トレードと事業によるキャッシュの両方を獲得したいという発想だった。
売却の話は、起業から驚くほど早いタイミングで舞い込んだ。
「1番早かったやつで言うと3ヶ月ぐらいで来たんです。マネックスの松本さんから、学生起業家と大御所経営者のクロストークみたいなイベントに呼ばれて行った時に『ブロックチェーン絶対あると思うんだよね』と言われ、1週間ぐらい後に『買いたいんだけど』って急に言われました」
その時はまだスタートダッシュの段階だったため断ったものの、売却という選択肢が現実的にあることをこの時点で認識したという。マネックスがコインチェックを買収したように、経済圏を作りたい会社が候補になることも見えていた。
資金調達はエンジェル投資家から最初に止まり、それ以降は自己資本で運営。仮想通貨やネットマーケティングに携わる会社との接点が増える中で、売却先候補からの声かけが増えていった。
コインオタクは順調だった時期ばかりではない。仮想通貨バブルの最中には「仮想通貨」と検索するとWikipediaよりも上位に表示されるほどの強さを誇った時期もあったが、コインチェックのハッキング事件以降、市場全体が冷え込む。
「シェアとしては僕らもそれなりにあったものの、市場全体が冷え込みましたみたいな感じになったんです」
組織のメインは東大生のインターン約30人。次のキャリアを考えるメンバーが就活のために休学・退職していき、役員クラスもやめていく事態となった。ここで島山氏はピボットを決断する。
仮想通貨市場は必ず戻ると判断してコインオタクは継続。同時に、デジタルマーケティング全般を扱う『先人ホールディングス』を別法人として立ち上げた。コインオタクは「仮想通貨×デジタルマーケティング」のうち、仮想通貨に対するオタク集団として位置づけ、先人ホールディングスはデジタルマーケティングのプロ集団として走らせる。
さらに、当時マネージャークラスだったインターン生(当時20歳)に「社長をやらないか」と声をかけ、年俸1000万円・売却後のアーンアウトも寄せる条件で、1年かけて事業を引き継いだ。
「全員がリーダーだった方がうまくいきそうだなみたいな感じでしか考えてなくて。リーダーだったら残る人はたくさんいるし、リーダーだったら力を発揮する人はたくさんいそうだなって思ったんです」
この判断により、コインオタクも先人ホールディングスも事業が回復し、無事に売却まで到達した。
2社の経営を経て、島山氏が強調するのはメンバーとの信頼関係の重要性だ。
「売れる金額とかマジで誤差だと思っていて。別にそれが1億、2億、10億変わったとて、ずっと一緒にやっていけるよねみたいなメンバーがいたり、別に会社としては一緒じゃなくても一緒にやれるとか、その信頼関係が継続していることの方が、今後自分がより面白いことをやろうと思った時に絶対大事でしょ」
MAをする際に経営者の欲望だけで動いてしまうと、メンバーから「急に何?」「騙された」と感じられかねない。だからこそ、何を大事にしてメンバーと向き合っているのかが重要だという。
島山氏自身、1社目と2社目で関わってくれているメンバーが継続していることが、自分のキャリアの特徴だと振り返る。
何も持っていない若手起業家が事業を始めるとき、何を意識すべきか。
まず島山氏は、メディア初手の起業について慎重な見方を示す。
「僕が今だったら絶対メディア初でやらないですね。今二十歳とかで起業するってなったら、もっと勝ち筋がある領域、何も持ってない人が勝てる領域がある気がしちゃう」
今のYouTubeやSEOには資本力のある競合がひしめいており、コツコツやっても勝てないフィールドだ。資本を大きく調達してIPO前提で勝負するか、別の領域を選ぶかのどちらかになるという。
島山氏が当時仮想通貨を選んだのは、「うさん臭くて若手しか寄りつかなさそうな領域」だったから。今で言えば、Eスポーツやトレカといった、まだ一般化されていない領域に近い。AI領域については「学生エンジニアを安く囲って営業の差分でアービトラージするモデル」が多いと指摘し、生成AI×住宅のように、キャッシュを作りながら領域特化していく形を勧めた。
そして何より重要だと語るのが、「自分にとっての成功状態を定義すること」だ。
「マーケットを決めるよりも、自分にとって何が良い状態なのかを決めることの方が大事だと思っていて。1兆円企業を目指す人、30歳で親の会社を継ぐ前にビジネス経験を積みたい人、フェラーリに乗りたい人。誰から何を言われても変わりませんっていう成功の状態が何なのかを定義することの方が絶対大事です」
それが定まれば、方法はいくらでも思いつく。逆に定まっていない状態でアドバイスを聞いても、すべてポジショントークになりがちだという。
島山氏のオフィスにはアトリエが併設されており、油絵の匂いが漂う。芸術活動とビジネスを並走させる独特のスタイルだ。
「あらゆる需要も供給も細分化されている時代で、それを循環させることで新しいものや欲望が生まれてきます。同じような会社がたくさんある中で、それぞれが本来持っている哲学や価値観は表現する手法がないから見えてこない。新しい世界観や認知を生み出すのが芸術なので、その考え方を組織作りや組織の哲学づくりに応用できると思うんです」
芸術には正解がなく「目指したものを正解にした人勝ち」という側面が、起業家のエゴと組織への定義にも通じる。心の使い方が似ているという。
島山氏は150歳まで現役でいられる可能性があると考えており、ビジネスマン、研究者、アーティストとしての3つの活動を長期視点で両立させようとしている。
「150歳までだと考えたら、3倍の時間がある。普通に真面目に地道にやっていれば全部できるじゃないですか」
現在の会社をどうしていきたいか。島山氏の答えはスケールの大きいものだった。
「1番、世界を謎に加速させていましたねってなるのが一番大事です。タイムマシンができたり、不老不死が実現するための期間を短くするために必要なことをします、という感じです」
人が何かを欲しいと思う状況をより多く作り、それが満たされて新しいものを欲する循環を健全に回していく。それがマーケティングの本質であり、その役割を日本、アジア、世界で果たしていきたいという。
進歩と幸福のバランスを問われると、「個人としては全然幸せになりたいと思っていない」と即答する。ベンチマークしているのはレオナルド・ダ・ヴィンチやチンギス・ハンといった歴史上の偉人で、彼らも特に幸せそうではなかったが偉業を成し遂げた、という。
40〜50代の経営者が一定の達成後に休憩モードに入ることへの危惧を尋ねると、強く首を振った。
「マジで絶対そうなりたくないなと思っています。成功している人ほど、次のことができる武器が揃っているじゃないですか。人間関係もお金も能力も。社会でやらないといけないことが山積みすぎる中で、やめる理由が逆にない」
島山氏は現在、芸術活動として企業・自治体・計算所などとのコラボ作品の制作に注力している。山形県の街には大きなオブジェクト型の作品を設置予定で、コインオタクの後を継いだ元社長がファンディングを行っているという。
「世界中にどでかい作品を作りまくって、それらが統一した思想の中にあることによって、どこも攻撃できない新しい形の平和な関係を作りたい」
企業や自治体に対しても、歴史に残る建造物を立てたい人を募っているとのこと。さらに、大阪万博でも作品が展示される予定だ。
大学在学中に6億円規模の売却を実現した島山氏のキャリアは、MA前提の起業設計、市場変化に応じたピボットと組織再編、そしてメンバーとの長期的な信頼関係の重視という、再現性のあるエッセンスに満ちている。
まずは「自分にとっての成功状態」を定義すること。そして売却金額そのものよりも、その後も共に走り続けられる仲間との関係性を大切にすること。芸術とビジネスを並走させる独自の哲学とともに、若手起業家にとって示唆に富む内容となった。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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