大阪万博で開催された学生起業家の世界大会「GSEA」の前哨戦に登壇したタイミー代表・小川嶺氏。8年間の経営で同世代の起業家100人のうち残ったのは3人という現実を踏まえ、起業の覚悟、Why、リーダーシップ、そしてグローバル視点について語ったインタビュー。
大阪万博とEO(起業家機構)のコラボイベントとして開催された学生起業家ピッチコンテスト「GSEA(Global Student Entrepreneur Awards)」。世界6大陸を舞台に1,500人を超える学生起業家が挑戦する世界最大級の大会で、前日の予選会には18名が登壇し、勝ち残った8名が翌日の万博会場本選で数千人を前にプレゼンテーションを行うという形式で実施された。
会場には約700〜1,000人の観客が集まり、ゲストにはYahoo関係者など著名人も多数登壇。一般チケットは1万5,000円という規模感のイベントとなった。GSEAは一般的なビジネスプランコンテストのように事業の完成度を評価するのではなく、EOの理念に基づき「起業家としての信念・挑戦・情熱」を評価するのが特徴である。
予選会のトップバッターを務めたのは、株式会社ダイヤの暮らしの福田氏。石川県金沢市の「ごくごく普通の家庭」で育ち、伝統工芸の作家だった父が活動に行き詰まり地元の工場に転職する姿を見て育ったという。「子供心に、好きなことで生きていくのは難しいんだなと思っていた」と語る。
金沢大学に在学中、自分へのコンプレックスを解消しようと「仮面浪人」として東京の大学を再受験。1年間アルバイトで貯めた資金で1日10時間勉強し図書館で赤本を開く生活を送ったが、結果は全落ちだった。その経験から「1時間勉強できることのありがたさ」「応援してくれる人の大切さ」「800円稼ぐことの大変さ」を強く感じたという。
その後YouTubeを開始。初投稿は再生数22回、半年間毎日投稿しても登録者800人・全動画100再生以下という状況だった。サイバーエージェントのインターンシップで東京に行った際、地方と都会の情報格差に衝撃を受け、就活チャンネルを開始。石川県の経営者にFacebookやInstagramでアポイントを取って面接の様子を公開するなど、2,000本以上の動画を投稿した。
結果として「就職しない方がいい」と判断し起業。当時手元には1万2,000円しかなく、青年会議所で3万円ずつ100名から出資を集めて会社を設立した。YouTube開始から6年でようやく10万人登録を達成し、現在は海外向け・転職向け・M&A向けチャンネルで累計50万人以上の登録者を獲得している。
福田氏が出した結論は「好きなことで生きていくのはやっぱり難しい。ただ、好きな自分で生きていることはできる」というものだった。
上場から約1年が経過したタイミー代表の小川嶺氏も、本企画の取材に登場。小川氏自身もかつてGSEA日本大会で優勝し、世界大会に日本代表として出場した経験を持つ。
小川氏は学生起業について「1回チャレンジするのはすごくいいこと」としながらも、現実的な視点を強調する。タイミー以前にアパレル系の会社を起業して失敗し、一度会社を畳んだ経験を持つ小川氏は、「起業はそんなにうまくいかないよ」と率直に語る。
「8年間自分も経営している中で、同世代で起業した100人のうち、残っているのは3人くらい」というのが実感だという。さらに警鐘を鳴らすのは「リビングデッド」状態に陥ることのリスクだ。
「一番最悪なのは、ビジネスとして100万、200万稼いでますみたいな状態。それは君がやりたかったことなんだっけという話になる。中途半端な状況で続けるくらいなら、いったん畳んで就職した方がいい。人生の時間は1回しかないので、また面白いビジネスが見つかったら再チャレンジすればいい」
タイミーが急成長した要因について、小川氏は「資金調達したお金を半年〜1年で絶対使い切るというのをやり続けた結果」と振り返る。
「人からお金を預かるのであれば、いつまでに何のために使って、どういう効果を出すのかを決めないとお金は使えない。無駄遣いではなく、採用など本質的なものに使い続けたチャレンジの結果が今の従業員数」と語る。最初から意識していたわけではなく、エージェントとの対話、登壇活動、メディア露出といった地道な作業の積み重ねがあったという。「早道や近道はそんなにない」と断言する。
上場から1年、変わったこととして小川氏が挙げたのはIR活動の増加と、社員の株式意識の変化だ。「時価総額を意識して経営しないといけないというマインドが、自分の中でもより上がった」と語る。
未上場時代にも責任はあったが、一般の個人投資家を意識するようになり、四半期ごとに最高売上を更新し続けるプレッシャーは大きい。それでも「結局、売上が全てを癒す。サービスがうまくいかないと潰れる」というシンプルな原理を強調する。
小川氏がタイミーに辿り着いた背景には、1社目を畳んだ後の日雇い労働経験がある。倉庫やコンビニで働きながら「なぜこんなに人手不足なのに労働者は軽視されるのか」という苛立ちを抱き、「世の中にこんなにアプリがあるのに、アプリで働けないのはなぜか」という疑問からタイミーを着想した。
「1回以上、自分自身がタイミーで働いて労働者の立場であり続けることを意識している。それが自分のWhyに強くかかっている」と語る。
ビジネス選びについては「テーマがあればすごく強いが、テーマがなければすごく弱い」と表現。さらに「マーケットが大きいかどうかはどっちでもいい」とも語り、世界大会で出会った売上1,000億〜2兆円規模のパン屋の事例を引き合いに出した。「パン屋は儲からないと勝手に決めつけているだけで、どのカテゴリーでも本気でやれば儲かる」というのが持論だ。
起業家に必要な資質を尋ねられた小川氏は「リーダーシップ」と即答した。
「社長は『ついていきたいか』と常に問われる。10年後・20年後の日本や世界を語り、こんなことをやりたいんだと自分の言葉で力強く話せるかが重要」と語る。
もう一つ重要なのは「背中で語る」こと。自ら営業をかけ、技術を深く学び、「社長にこの武器があるからすごい」と思われる存在でなければ優秀な人材は集まらないという。「常に一番勉強し続けないといけないし、常に一番アンテナを張り続けないといけない。成長を終わった瞬間に経営者としての器は小さくなる」と厳しく語った。
グローバル展開について小川氏は2つの視点を提示する。
第一に、日本はGDP世界4位の観光大国であり、十分にビジネスができる市場である。タイミー自体もまだ日本のみで展開しており、それでも上場できる規模にまで成長した。
第二に、外貨を稼ぎ日本のプレゼンスを上げる重要性。食やアニメといった日本が強いテーマであれば、最初からグローバルを意識した方がよりグロースする。「テーマごとに、最初は日本に閉じた方がいいか、最初からグローバルを意識すべきかが変わる」というのが結論だ。
GSEA本選には、メルボルン出身18歳の起業家(11歳で起業した「フィジェット」プロダクトを展開)、フィンランドの医療技術スタートアップ共同創業者(医療画像解析の自動化で診断時間を短縮)など、世界各国から学生起業家が登壇。彼らはいずれもグローバルマーケットを前提としており、「最初から世界を見ている視座は学ぶべきものがある」との感想が記者からも語られた。
「100人のうち3人しか残らない」という厳しい現実の中で、小川氏が感じる経営の楽しさとは何か。
「やれる仲間が増えていく、やれることが増えていく。最近もコメ騒動の中で小泉農水大臣から備蓄米の人手不足に関して声をかけていただき、一緒にやらせていただいた。日本のためになれる、働くインフラを作れることが嬉しい。誰かのためになれることが一番の力」
小川氏は最後に学生起業家に向けて、「ビジネスが楽しい、世の中に広がったら楽しいよね、と思えるかが重要。グローバルでこんな会社が伸びているんだとヒントを得られるのは大きい。何より楽しんでほしい」とメッセージを送った。
小川氏自身は高校3年生から学生団体で活動するなど、スタートダッシュが早かった。「今は高校3年生から起業している人もたくさんいる。マジョリティかどうかはわからない(1%以下だと思う)が、市民権を得てきている。より挑戦しやすい環境は作られてきている」と現状を分析する。
新卒採用についても、「AIで中途半端なスキルを持つ人材は淘汰されていく。新卒は一番中途半端で、その層が一番苦しくなる」と厳しい見解を示す一方、タイミーでは毎年50名規模で新卒採用を行い、「選び抜かれた優秀なメンバーが集まっている」と手応えを語った。
小川氏のメッセージを総合すると、起業は「Whyの強さ」「リーダーシップ」「やり続ける覚悟」の3点に集約される。失敗してもいったん畳んで就職するという選択肢は常に保険として持っておくべきであり、中途半端に事業を続けるリビングデッド状態は避けるべきだと語った。
本記事を取材した編集部スタッフ自身もGSEA予選に登壇したが本選進出は果たせず、「海外の学生起業家がそもそもグローバルマーケットを前提にしている視座は学ぶべきだった」と振り返る。
GSEAは全国各地で予選を実施し、日本大会、世界大会へと続く。挑戦する若者たちにとって、自分と同世代の優秀な起業家と出会い、視野を広げる場として機能している。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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