DMM.com会長・亀山敬司氏が語る、経営者が陥りがちな「成功すれども幸せならず」の罠。仕事・家族・友人のバランス、欲望の制御、他人と比較しない生き方とは。20代経営者に向けた人生哲学。
上場企業の社長や、M&Aで数十億円を手にしてセミリタイアした経営者たち。傍から見れば成功者だが、実際に多く接してきた聞き手の実感では「家庭がうまくいっている率は5%ほど」だという。お金を使っても減らず、刺激が刺激でなくなり、すべてが既視感のように感じられる――。逆に、創業初期に仲間とカップラーメンをすすっていた頃の方が楽しかった、と語る人も少なくない。
そんな中、DMM.com会長の亀山敬司氏は仕事と家族・人生をうまく両立させているように見える。本人はどう考えているのか。
亀山氏が大切にしているのは「仕事の主人ではなく、人生の主人になる」という考え方だ。
「家族とどれくらい過ごすか、自分の友達とどうするか、仕事はこれくらいやるか――そういうことを自分の中で考える」
仕事に没頭して家に帰っても誰もいないのは嫌だ、と亀山氏は言う。家族に金だけ渡して「収入が増えているからいいだろう」と開き直っても、たいていは家族が壊れていく。30歳頃に結婚した亀山氏は、忙しい時期でも「土日は一緒に過ごす」「朝は一緒にいる」というルールを自分の中に置いた。
配分のイメージは、仕事が3〜4割、友人など個人的な関係が3割、家族が3割。そのくらいのバランスが自分にとってちょうどいいと、20代の頃から考えてきたという。
頭では分かっていても、目の前の刺激や仕事に引っ張られて家族との時間を削ってしまう経営者は多い。亀山氏はこれを「欲望が強すぎる」状態だと指摘する。
「欲望は程よくないと、経営者ってやる気にならないから持ってもいい。でも強すぎると、目の前の欲望に乗っかってしまう」
やってはいけないと分かりながら手を出してしまう、家に帰らなければと思いながら仕事を続けてしまう――これらはすべて欲望の制御ができていない状態だ。
ではどう制御するか。亀山氏の答えはシンプルだ。「自分は何のために仕事しているのか、何のためにお金が要るのか」を突き詰めて考えること。
たとえば「お金を払ってモテる」のと「お金を持っていなくてもモテる」のはどちらが嬉しいか。突き詰めれば後者の方が嬉しいに決まっている。お金目当てではなく自分目当てで人が寄ってくる方が、本質的な満足につながる。本質に向き合えば、自然と程よい欲望に落ち着いていくという。
若手経営者は、周りが資金調達していると焦り、上場している会社を見て自分も目指さなければと思いがちだ。しかし亀山氏は、人と幸せ度を比較するような視点はほとんど持たないという。
「周りに合わせていたら自分の個性がなくなる。個人でも会社でも、個性を持っていた方が生き残りやすい」
亀山氏自身、DMMを立ち上げた当初は石川県で事業をしていた。「ある種、鎖国していたから良かった」と振り返る。周りにキラキラした人がいない環境だったため、比べる対象がなかった。
会社を「大きくしたい」というより「続けたい」を繰り返した結果、たまたま大きくなった。売上目標を立てたこともない。むしろ皆が資金調達で動く中、非上場のままで規模を作ったからこそ、上場企業とは別のポジションが取れたのだと言う。
亀山氏が以前Spotifyで語った「幸せの三原則」がある。
1. 他人と比べて、自分より下の人を見て優越感に浸る(最もしょうもない比べ方)
2. 今あるものがなくなったらどうなるかを想像し、今ある幸せに気づく
3. 去年より成長した、会社が10%でも伸びた、という成長への喜びを感じる
本人いわく「正直、自分もそんなに人間ができていない」。会社でしんどい時には、他社で苦労している動画を見て「この人に比べたら俺は楽だな」と慰められることもあるという。三原則すべてを使い分けているのが実態だ。
ただ、健全なのはやはり「自分の過去と比べて幸せを感じる」「未来でなくしたくないものを想像して幸せを感じる」方向。なくしたくないものを想像すれば、家族を大事にしようという気持ちも自然と湧いてくる。
メンタルが落ち込むことはあるかと問われ、亀山氏は「ゼロではないが、年を取るごとに減った」と答える。
20代の頃は契約が切れたり、誰かに裏切られたりするたびに落ち込んだ。しかし2回目、3回目と経験するうちに、「1ヶ月で乗り越えられる」「1年あれば立ち直れる」という感覚が掴めてくる。次に同じことが起きても「前は1年かかったけど、今度は半年だな」と見通せるようになる。失敗を乗り越えた経験そのものが裸の自信になり、落ち込まなくなっていく。
それは純粋さを失うことでもあるが、人間への理解が深まり、覚悟と許容ができるようになることでもある。
社員が家族のように思える瞬間があっても、ITの世界では「やめます」と急にいなくなることもある。それでも自分のあり方を変えず、周りも許容できるようになれば、かっこいい大人になれる。
「会社があんまり良くなくても、自分で『これかっこいいんだ』と思えたら結構幸せじゃない。自分で自分を褒めてやれるかが大事」
比較や落ち込みも完全には消えない。それでも、自分のかっこよさの基準を自分で持ち、それに向かって生きていく――亀山氏が示すのは、成功と幸せを両立させるためのシンプルだが奥深い指針だった。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
