東証上場のポートが、人材紹介大手HRチームをバリュエーション60億円・取得比率66%でグループ化。3段階に分けて出資比率を引き上げた経緯、就活会議や民集の買収から得た教訓、そして「大型M&Aほど失敗しない」という独自の哲学まで、代表・春日博文氏が成長戦略の核心を語る。
2025年10月、ポートは人材紹介大手のHRチームを連結子会社化したと発表した。バリュエーションは60億円、取得比率66%という大型ディールだ。だが、このM&Aはいきなり成立したわけではない。3段階にわたる資本業務提携の積み重ねの末に到達した結論だった。
「最初は本当に資本業務提携で、9〜10%にも満たないライトな出資からスタートしました。HRチームさんは創業期から人材紹介を加速度的に成長させていて、我々はその最大の集客元だったんです。だから業務提携を強化しようというのが入口で、M&Aを前提としていたものではなかった」
そう語るのはポート代表取締役の春日博文氏。最初の出資はあくまでパートナーシップを補強するためのもので、まずはお互いにメリットを確認するためのステップだったという。
ポートとHRチームは、人材紹介市場における強烈な競合関係にある。グループ連結後も両社の文化と組織は統合せず、競合のまま走り続ける方針だという。
「我々の人材紹介としては、HRチームとポートはもう最強の競合。スーパー競合なんです。ただ会社を統合しないので、お互い文化が違う中で戦い抜きます。グループ連結すれば成果報酬市場で2割のシェアになり、市場1位を目指せる。新卒採用支援市場はずっと求人広告がマーケットを取ってきましたが、成果報酬型の人材紹介が一気に攻め込めるフェーズに入っている」
新卒市場全体のサイズは約1,500億円。学生数は減っているが進学率の上昇で母集団は横ばい、採用単価が上がり続けているため、市場成長率は2桁を維持しているという。
3段階に分けて出資比率を引き上げた背景には、明確な合理性があった。1回目は約3億円で10%、2回目は4〜5億円を投じて持分法適用の20%超に。そして3回目で約27億円のキャッシュを投じて66%まで取得した。
なぜ100%でも67%でもなく66%なのか。
「34%保有していると拒否権が残るので、HRチーム側にもまだ会社へのコントロールが担保されている。3年半の取引、関係性で言えば7〜8年の付き合いがあって信頼関係はありますが、法的にもヘッジされていた方がより信頼関係は強くなる。我々のスタンスを表明する意味もありました」
HRチームは前期売上37億円、営業利益10億円。今期も増収増益見込みで、足元も伸びている。買収マルチプルから見ても合理的な水準であり、人材紹介市場での価格交渉力強化にも寄与する判断だった。
ポートはこれまでに民集(楽天から取得)や就活会議といった著名なメディアプロダクトも買収してきた。これらは売上の積み上げではなく、会員基盤を狙ったディールだ。
「民集の場合、売上は全盛期の半分以下まで落ちていました。CGM型メディアの台頭でシェアを奪われていた。それでも『民集』というブランドで検索して使うユーザーは多く、就活会議で蓄積した1ユーザーあたり売上高のデータと照らすと、まだまだ伸ばせると判断しました」
プロダクト買収の評価軸は、推定収益の5〜8倍。買収後にマネタイズ力を強化することで、適正バリュエーションに収まるという考え方だ。実際、就活会議は買収後にマネタイズ強化が進み、今ではグループの人材事業内でナンバーワンプロダクトに成長したという。
なお就活会議の買収は2020年、コロナ直撃のタイミングで進められた。3月に基本契約、7月末にクロージング。「9割以上は諦めかけました」と春日氏は振り返るが、価格を再交渉して着地させたという。
春日氏のM&A観を象徴するのが、「大きなM&Aほど失敗しない」という言葉だ。
「数千万円で10個以上のメディアを買って運用していた時期もありました。月の営業利益で2〜300万円のインパクトの会社をたくさん集めていたんですが、これで営業利益100億円を目指そうとすると1,000個運用しないと届かない。無理ゲーだと気づいたんです」
この経験から、ポートは新領域参入の際は大きく張る方針に転換した。エネルギー領域への参入で買収したINEはバリュエーション40億円。当時のポートと同規模の会社を取り込む決断だった。
「数億円の利益が出ている会社は、それなりの組織規模とオペレーションが構築されている。5,000万円の利益の会社だと、月の利益が400万円程度。100万円突っ込んだ瞬間に300万円になり、一気に減益になる。5億、10億の利益を出せる会社を高く買っても、結果的にはそちらの方が安く済むことが多い」
また、10億円以上の2桁ディールに参入する企業は意外に少なく、競争が穏やかなレンジでもあるという。
アグレッシブな成長戦略の原動力はどこにあるのか。春日氏の答えは明快だった。
「エネルギー源は上場しているからですよ。四半期ごとに開示を求められ、しかも開示時にはすでに次のクォーターのイメージも見えている。残り1.5カ月しかないという感覚で常に走らされる。これは強烈なストレスですが、悪いストレスではない。アグレッシブにやらざるを得ない環境があるから、結果として上場が自分を成長させてくれている」
3年後、5年後を見据えたパイプライン構築も上場経営者ならではの動きだ。HRチームのケースでは3年半の付き合いの末にM&Aに至っており、「3年後に買いたいと思える会社と今つながっていますか」という問いに答えるためには、地道なソーシングを止められないという。
「M&Aは完全に営業。直接会って関係性を作るソーシングが7割。お会いしてすぐ売りますという会社は存在しないので、業務提携、資本業務提携、取引、どのフェーズでもいいから繋がっておくことが本当に大事です」
結果としての取引そのものが、最も精度の高いデューデリジェンスにもなるという。
ポートの中期計画は2030年度に売上800億円・EBITDA130億円。前期200億円規模から4倍に成長させる計画だ。年率30%成長を維持するという宣言である。
成長戦略は3本柱で構成される。
第1は、ストック収益比率を全体EBITDAの4割まで引き上げること。エネルギーやファイナンス領域でレベニューシェア型のモデルにシフトしている。第2は人材とエネルギーの主力2事業をロールアップM&Aを含めて伸ばすこと。第3が新領域への大型M&Aだ。
人材事業では新卒に加え、HRチームの強みである既卒・第二新卒領域へも本格進出。20代採用市場全体でナンバーワンを取りに行く計画だという。
この戦略を支えるのが、メディアと営業を両立させる組織能力だ。
「メディア強い会社は営業が弱く、営業強い会社はメディアが弱い。でもインターネットの巨人と呼ばれる会社は、プロダクトも強いけれど営業もめちゃくちゃ強い。両輪を回せる会社が結局大きくなる」
春日氏のもう一つの特徴は、強気のレバレッジ運用だ。ポートのネットキャッシュは現状マイナス。それでも「取り返せる力のキャパシティを見極めれば、レバレッジを効かせて構わない」と語る。
「上場企業は100%攻め一択。ただオーナーカンパニーは時間軸次第。年10%でも30年積み上げれば複利で大きくなる。我々は2030年度までに4倍という時間軸を選んだので、毎年30%成長で60億円増収を積み続ける必要がある。だから攻めるしかない」
強烈なプレッシャーの中でメンタルをどう保つのか。春日氏のセルフマネジメント論は独特だ。
「モチベーションが高すぎる時は抑える。低い時は上げる。空回りしているなと感じたら微調整する。5年、10年戦い抜くためには、ドロップアウトしないことが何より大事。スピードと継続性をどう両立させるかを意識しています」
最後に、ポートが2025年初頭に資本業務提携を結んだダイアリー(M&A CAMP運営)への期待についても語られた。
「期待というより、この会社が伸びることを全力でやってほしいし、我々もやれることは全力でやらせてほしい。業務提携の果実を短期で追い求めず、ゆっくりでも積み上げる。会社が伸びるための判断を常にする」
ダイアリーとの提携時には会社分割など特殊な要望にも柔軟に応じたといい、これも春日氏のM&A哲学に通じる姿勢だ。
「資本業務提携は、その会社と関われるチケット。チケットを取れること自体にメリットがある。M&A力とは、自分たちの許容範囲をどれだけ広げておけるかという勝負です」
大型ディールに踏み込むためには、相手企業のあらゆる事情を受け入れる「器」が必要だ―。3年半をかけてHRチームをグループ化したポートの歩みは、その言葉を体現している。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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