M&A CAMPの新がニューズピックス元社長の坂本氏に直撃。メディアの中立性と成長戦略のバランス、エクイティと借入の使い分け、YouTube依存からの脱却、LINEを軸とした顧客接点設計まで、低コストでビジネスメディアを勝たせる方法を聞いた。
M&A CAMPを運営する新が、ニューズピックス元社長である坂本氏とZoomで対談しました。テーマは「お金をかけずにビジネスメディアで勝つ方法」。資金調達の選び方、メディアの中立性、マネタイズの構造、プラットフォーム依存のリスクなど、メディア事業を成長させる上で避けては通れない論点について、率直な議論が交わされました。
新は冒頭、現状のM&A CAMPのビジネスモデルについて、PIVOTのようなタイアップ広告を主軸に据えつつ、複数の収益源を探っている段階だと説明しました。モデル自体はシンプルで、本気で抑えにいけばコストはどこまでも抑えられる構造だとも言います。
その一方で、外部から資金を調達することへの葛藤があると吐露しました。出資を受ければメディアとしての中立性が揺らぎ、本来言いたくないことを言えなかったり、推奨したくないサービスを紹介せざるを得なくなる懸念があるからです。
坂本氏はこれに対し、上場企業や調達企業はどうしても期待値から逆算した株価形成を迫られるため、会員数も売上も伸ばし続けなければならない構造に置かれると指摘します。しかしメディアには「適正な会員ボリューム」があり、無理に広げようとするほどコンテンツは下世話な方向に流れがちです。「うちはこの規模のこういう人を相手にし続ける」と割り切れるかどうかが、メディア経営の根幹だと語りました。
話題は事業の広げ方に移ります。ビジネスメディアの定石として、立ち上げ後にAI、健康、メンタルヘルスなど領域を広げていくパターンがあります。新は、チャンネルごとにコンセプトを尖らせたい立場だとし、登録者の累計数より平均PVや影響力を重視していると述べました。
坂本氏は、マス化には膨大なコンテンツポートフォリオが必要で、日経新聞のように数百人規模の記者を抱える体制になると指摘。一方で、セグメント特化であれば負荷も少なく、マネタイズもやりやすいとアドバイスしました。一定の成長キャップを受け入れるのであれば、エクイティではなく借入の範囲で回すという選択は合理的だと整理しています。
マネタイズについて、坂本氏が提示したのが「広告主のビジネスモデルを自分たちで取り込む」という考え方です。広告主はメディアに広告費を払ってもペイするモデルを持っているのだから、その構造を取り込んでしまえば最も利益率が高くなる、という発想です。
M&A CAMPの問い合わせはベンチャーキャピタルなど投資側からのリード獲得ニーズが多いと新が紹介すると、坂本氏は「いま困っているのは投資を受ける側の人が少ないこと」だと応じました。VCを内製するか、M&A仲介に振るかという議論では、自前でファンドを少額立ち上げつつ、自社で扱いきれない案件は仲介会社に流すハイブリッドモデルもあり得ると示唆しました。
ただしファンドを持つと「自社の投資先を持ち上げているように見える」という中立性の毀損リスクが必ず伴うため、線引きの設計は慎重に行うべきだと釘を刺しています。
セグメントメディアの収益性を決めるのは「1コンバージョンあたりの単価」だと坂本氏は強調しました。100万円を超える単価が立つ領域として挙げられたのが、転職、不動産、そしてM&Aです。
M&A仲介会社は数多くあるものの、各社が共通して困っているのは案件のソーシング、つまり売り手集めです。「会社を売るとはどういうことか」を発信し続けてデータベースを蓄積していけば、メディアは強力なソーシングエンジンになり得るというのが坂本氏の見立てです。
坂本氏自身は他社への投資はほとんどせず、自社事業に全ベットするスタンスだと話します。投資する場合も、社外取締役として実行に関われる案件に限定しているとのことです。「いま世の中はお金が余っている」と語り、誰から、どんな意味のあるお金を集めるかが重要だと述べました。
新も改めて、現フェーズではエクイティモデルが最適ではないと整理しました。決められたマーケットで適切なユーザーに価値を届けるモデルを複数積み上げていく中で、再現性が見えたタイミングで横展開のためにエクイティを使うという順序が現実的だ、という共通認識に至ります。坂本氏も「型を作ったモデルを一気に10事業展開したくなった時こそエクイティ調達のタイミング」だと同意しました。
新が次に持ち出したのが、YouTubeに依存することの是非です。坂本氏はFacebook、Twitter、YouTube、TikTokと変遷してきたSNSの歴史を振り返り、後発のプラットフォームほどアルゴリズムの比重が大きく、個人のチャンネル登録の価値が相対的に弱まっていると分析しました。
プラットフォーマーの立場で考えれば、個人が力を持って外に抜けてしまうのは避けたい構造であり、必然的にアルゴリズムが個人の影響力を希釈する方向に動きます。だからこそ、メディア事業者は「自分たちだけのプール」をどう作るかを早い段階で考える必要があると語りました。
自前のプールを作る具体策として、坂本氏が推したのがLINEです。「YouTubeからLINE」という王道の導線を引き、Lステップ等を活用してワントゥワンのコミュニケーションを設計するモデルが今後さらに主流になるという見方です。
アプリへの送客が理想ではあるものの、ニューズピックスほどのコンテンツ量を毎日提供できる体制がなければ、ユーザーが日常的に使っているLINEに乗せた方が移行コストが低く、開封率もメルマガを大きく上回ります。少量・高頻度のコンテンツを届ける設計には、LINEは極めて相性が良いという結論です。
対談の終盤、坂本氏はメディアの本質を「属人化している間が一番強い」と表現しました。リハックの高橋氏が前面に立つ時代、ニューズピックスの佐々木氏がやっていた時代こそが、メディアとしてエッジが立っていた時期だという見立てです。
属人性に依存すればするほどエッジは出せる一方、脱属人化と規模化の両立は極めて難しい。経営者の仕事は、そのエッジ・マネタイズ・スケールのバランスを取り続けることに尽きると坂本氏は締めくくりました。
ビジネスメディアにおいて、エクイティ調達と自己資金経営は単なる資金繰りの話ではなく、メディアの中立性、コンテンツの質、ユーザー層の選別と直結する経営判断です。セグメントを尖らせ、コンバージョン単価の高い領域に張り、広告主のビジネスを内製化していく。プラットフォーム依存を避け、LINEや自社データベースで顧客接点を握る。再現性のあるモデルが複数できてから、初めてエクイティで横展開を狙う。坂本氏が示したのは、メディア経営者が辿るべき現実的な順序そのものでした。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
