DMM創業者・亀山敬司氏が、若手起業家からの相談に答える企画。だるまの製造販売・インバウンド向け物販を手がける起業家に対し、露天商から始めた自身の体験を踏まえ、信用がない時の資金繰り、店舗ビジネスの厳しさ、そして王道の事業拡大法を語る。
DMM.com創業者の亀山敬司氏に、若手起業家が経営相談を持ち込む人気企画。今回の相談者は、メディア事業を畳んだ後、インバウンド向けに「だるま」の物販事業を立ち上げた起業家だ。
相談者は群馬発のだるまを、外国人観光客向けのお土産商材、そして法人向けのカスタムギフトとして展開している。デザインコントロールは自社で行い、製造は地元職人に委託するモデル。一見順調に見えるが、相談者には深刻な悩みがあった——キャッシュフローの問題である。
相談者が抱える課題は、百貨店との取引における支払いサイトの長さだ。納品しても入金は数ヶ月先。在庫を抱える物販ビジネスならではの苦しさがある。
亀山氏もこの感覚に深く共感する。露天商として商売を始めた当時、商品を売ればすぐに現金が入ると思っていたが、実際には「翌々月」「よよ末」といった条件を提示され、資金が回らない現実に直面したという。
> 「商品を仕入れる時はこっちから前払い、売る時は支払いがよくよく月。普通は逆なんだよね。だから売上は上がっても結局資金が回らないっていうのがよくあるパターン」
さらに大手量販店やコンビニと取引すれば「安定供給」を求められ、在庫切れにはペナルティが発生する。亀山氏は「強力な店と取引すればするほど苦しむ」と、店舗流通ビジネスの構造的な厳しさを指摘した。
亀山氏が露天商時代に石を海外から仕入れていた頃、信用がないため先に送金しないと商品が送られてこなかった。1ヶ月の売上が1,000万円なら、資金繰りには3,000万円程度を用意しなければ回らない。
> 「信用のない時は、もう資金で補うしかないんだよね。『お金送るから物送ってください』『支払いは前払いでもいいから下ろさせてください』っていう、これは弱者がやるしかない」
取引を1年、2年と続ける中で徐々に信用が積み上がり、前払いから後払いへ、支払いサイトが緩和されていく。これが王道のステップだという。
相談者は、亀山氏が起業した時代に「持たざる者」が参入できる領域はどこだったのかを尋ねた。亀山氏の答えは率直だ。
> 「結局、持たざる者ができるもんはなかったよね、ぶっちゃけ。資本が必要。今の時代は元手がないやつでもゲームを作ったりSNSでヒットを出してメディアを売ったりできる。俺の時代はそんなチャンスもなくて、お商売しかなかった」
亀山氏は2,000万円を個人保証で借り、店舗内装と材料仕入れに投じて飲食店を始めた。借金完済までに7年。コーヒーは原価の10倍で売れ、飲食原価は約3割と利益率は良いが、人件費・家賃・電気代、そして初期の内装費が重くのしかかる。銀座や六本木の店舗が頻繁に入れ替わるのは、計算なく参入した者が家賃を払えず撤退していく姿だという。
物販ビジネスで百貨店や老舗店舗に下ろそうとすれば、20年・30年続く老舗の問屋たちと正面から戦うことになる。信用も資金繰りも整った相手に、新参者が単純な卸取引で勝つのは難しい。
しかし亀山氏は、現代の若手には一つの優位性があると指摘する。
- インバウンド・海外向けブランディング
- SNSを活用したマーケティング
- D2Cによる直接販売(EC)
こうしたチャネルを使い、旧来の流通とは別軸で勝負することで活路が開ける。
委託販売や返品リスク、高い店舗手数料(京都の老舗店舗では売上の60%が取られるケースも)を避けるためのアドバイスとして、亀山氏は次の戦略を示した。
1. 商品力があることが大前提
2. 委託ではなく「10%引きますから売り切りで買ってください」と交渉
3. 銀行から運転資金を借りる(決算上は利益が出ているので融資を受けやすい)
4. 貸倒れだけは絶対に避ける
5. 物量を増やしながら自然と利益を積み上げる
> 「貸倒れだけが一番やばい話。理屈から言うと、いくらの入金があっていくら出るかは比較的分かりやすい。あとは銀行の借金で回しながら運転していくと、自然と利益が出て物量がどんどん増えてくる。これが王道かな」
亀山氏は会計処理の観点からも、両者の違いを明快に語る。ITビジネスは在庫もなければ複雑な入出金もなく、AppleやGoogleからの入金を受けて人件費を引けば終わり。一方、物販・製造業は商業簿記・工業簿記の世界で、仕入・在庫・原価管理が複雑に絡み合う。
> 「夜中の商売(IT)がいくら派手に見えても、市場全体で見れば数パーセント程度。流通や製造の市場に比べれば、相手の市場は10%ないと思う。なのに利益率がやたら高くて、若いやつらが気軽に稼いでる。みんなスタートアップにも投資するけど、お商売の人や製造業の人に誰も金を貸してくれない」
エクイティ調達という概念がそもそも存在しない世界で、物販・製造に挑む若手起業家への共感がにじむ。
相談者の事業について、亀山氏は最後にこう示唆した。
スケールには店舗展開を含めさらに資金が必要になる。しかし、商品力が認められインバウンドやアメリカ市場で評価されれば、ニューヨーク店やハリウッド店といった海外展開も視野に入る。「商品力があると踏んだら、相手(DMM)でなくてもM&Aを検討するかもしれない」とまで踏み込んだ。
聞き手が「絶対に店舗ビジネスはやらないでおこうと思いました」と感想を漏らすほど、物販・店舗ビジネスのリアルな厳しさが浮き彫りになった対談となった。一方で、信用を積み上げ、資金繰りを設計し、商品力で勝負する——「持たざる者」が王道で戦う方法は、確かに存在することも示された。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです
