中小・ベンチャー企業が銀行融資を最大限引き出すには、決算書のテクニック以前に「相手選び」と「日常取引の積み重ね」が決定的に重要です。税理士法人小里会計の森氏が、日本政策金融公庫の活用法、信用金庫・地銀の使い分け、銀行員が本当に見ているバランスシートのポイントを解説します。
中小企業やベンチャー企業の経営者にとって、銀行融資をどこまで引き出せるかは事業展開の自由度を大きく左右するテーマです。本記事では、税理士法人小里会計の森氏に、銀行融資を最大限活用するための実務的な視点を伺いました。
小里会計は社員数300人超、顧客数3,600社規模の会計事務所で、上場企業ではなく社員5〜100人規模の中小・中堅企業を主な支援対象としています。森氏は同事務所で17年にわたり、中小企業の財務・税務・資金調達の最前線に立ってきた専門家です。
融資を引き出すうえで森氏がまず強調したのは、テクニックの前に「どの金融機関に見てもらうか」という相手選びの重要性でした。
「銀行取引はノウハウや決算書の見せ方も大事ですが、ほとんどは相手選びで決まってしまうところがあります。どんなに業績が良くても、利益率が高くても、3メガバンクに行けば、ほとんどの中小企業は相手にしてもらえません」
メガバンクは中小企業向け融資残高をある程度キープする必要があるものの、本筋ではないため、無担保で重視してもらうには「最低でも5億円程度」の融資が必要だと森氏は指摘します。年商規模でいえば50億円ほどが一つの目安となるため、それ以下の中小企業がメガバンクに営業をかけても効率は悪いということです。
森氏が中小企業に対して必ず勧めるのが、日本政策金融公庫の枠を確保しておくことです。
創業融資を受けて返済が半分まで進むと、いわゆる「折り返し融資」が可能になります。たとえば1,000万円借りた企業が500万円まで返済すれば、再び500万円を借り入れることができ、売上が伸びていれば2,000万円程度まで枠が広がる仕組みです。
注意したいのは、一度取引をやめてしまうと、次に申し込むときは「新規扱い」で1からのスタートになる点です。金利が民間より高い、担当者がつかないといった理由で公庫を敬遠する経営者もいますが、森氏は「2,000万円の0.数%程度であれば、確認してみればそう大きな金額ではない」と説明します。
それよりも、最もリスクを取って融資してくれる金融機関であることが公庫の最大の価値であり、資金調達の枠として常に確保しておくべきだと言います。
公庫を確保したうえで、森氏が推奨するのは信用金庫1行・地方銀行1行と取引を持つ構成です。理由は、両者を競わせることで融資条件が改善されるためです。
信用金庫だけと付き合っていると、信用保証協会の枠だけが使われてプロパー融資(保証協会を介さない融資)が出にくくなります。一方、信金と地銀の双方が同じ案件を取り合う状況になると、保証協会の枠の取り合いだけでは差別化できなくなり、プロパー融資を提案してくる動きが出てきます。結果として、調達総額が増えていくのです。
また、メガバンクとの取引を始めると、預金がメガに集中しがちです。取引先の都合でメガを指定されることもあり、結果として振込手数料も地銀・信金より高くつく一方、預金を積み上げても積極的な融資につながらないことが多いとされます。
「メガバンクで預金をどれだけ置いても、振込手数料をどれだけ落としても、資金調達はそんなに積極的に出てきません。それなら預金は地銀・信金に預けたほうがいい」
銀行が重視するのは「3大業務」と呼ばれる預金・融資・為替(決済)のバランスです。決算書がいかに優れていても、貸し借りだけの付き合いでは良い取引関係にはならないと森氏は言います。
相手選びと日常取引が整ったうえで、ようやく決算書の話に進みます。森氏は「銀行員は、皆さんが思っているほど決算書を見ていない」と指摘します。
銀行員も森氏のような専門家も、業種ごとに「あるべき決算書の姿」が頭に入っているため、瞬間的に融資可否の見極めができてしまうのです。そのとき見ているのは損益計算書ではなく、貸借対照表(バランスシート)の「左上と右下」だと言います。
- 左上:預金
- 右下:純資産(資本金と利益剰余金)
お金を借りるということは、返すということ。返済力を支えるのは、現時点での手元預金と、赤字に陥ったときに削られる純資産の厚みです。森氏は「心配しているのはこの2つだけ」と語ります。
預金については「売上の2ヶ月分が最低ライン」が一つの目安。これがないと、未来がいくら明るくても目先の資金繰りに追われてしまい、銀行側も評価しづらくなるためです。
借入金の多寡そのものは、実はあまり問題視されません。借入が少なく預金が決済の3ヶ月分あるのが理想ではあるものの、現実的にはそうした会社は少ないため、「借入を増やしてでも預金を厚くしたほうが評価は高まる」というのが森氏の見立てです。
一方で、自己資本比率が高く借入が少ない会社は、外部から見ると「金を借りられない理由が何かあるのではないか」と疑われやすい側面があります。普段の銀行取引が薄く、いざというときに支援を求めても応じてもらえないリスクもあります。
借金が多くて預金も多い決算書のほうが、銀行に好まれやすい——これは経営者の直感に反するかもしれませんが、貸し手の論理を理解すれば腑に落ちる話です。
さらに、IT企業や本社機能の会社のように在庫や売掛金が少なく、前受金が多い業種は、銀行から見ると「資金使途」が見出しにくく、融資の理由が立てにくいという特殊な事情があります。資金使途は貸借対照表の左側(資産)にある売掛金や在庫を指すため、これらが乏しい会社はそもそも借りる根拠が乏しいのです。
こうした会社が調達額を最大化するには、取引銀行数を増やすという発想が有効になります。1行あたり2,000〜3,000万円が限界であっても、3行で6,000万円、5行で1億円と積み上げていくイメージです。
純資産には銀行評価が一段階上がる節目があります。森氏が示した目安は次の通りです。
- 1,000万円
- 3,000万円
- 5,000万円
- 1億円
特に5,000万円は、信用保証協会の「車載(しゃさい)」と呼ばれる資金調達手法を活用するうえで最低ラインとなる水準であり、明確な節目とされています。
中小企業の経営者がはまりやすい落とし穴として、森氏は「制度融資」の使いすぎを挙げます。利子補給があり、保証料も実質ゼロ、利息も極めて低い——条件だけを見れば魅力的ですが、これは「コンディションが悪い会社が使うべき制度」だと森氏は言います。
コンディションの良い会社が制度融資を使う意味は乏しく、利息を減らしたいという理由だけで使うと、銀行側が真剣に向き合ってくれなくなるリスクがあります。なぜなら、制度融資は保証協会が保証するため銀行側のリスクが低く、結果的に「銀行が顧客本人を見ない」取引になるためです。
新規取引の銀行が「保証協会付きでなければ貸せない」と提示してきた場合、経営者側もきちんと理屈で問い返すことが重要だと森氏は言います。
「なぜ保証協会が必要ですか、と聞けばいいんです。喧嘩せず、『まずプロパーでお願いします』と。新規だから100%保証協会付きなんですか、そういうわけでもないですよね、と」
銀行側もリスクを取りたくないため保証協会を付けたがりますが、企業側に十分な預金や前受金があれば、銀行のリスクは実質ありません。理論武装して交渉すれば、相手も無理は言わなくなります。
また、融資と引き換えに同じ金融機関で定期預金を組ませる「両建て(拘束預金)」も注意が必要です。本来は優越的地位の濫用に該当し得るもので、応じてしまうと「この経営者は甘い」と他行から見られるシグナルにもなります。借入と同額の定期預金を要求された場合は、その合理性を冷静に問い返す姿勢が必要です。
銀行融資を最大限引き出すための要点を改めて整理すると、次のようになります。
- メガバンクではなく、日本政策金融公庫を必ず確保し、信金1行・地銀1行を競わせる構造を作る
- 預金・融資・為替の3大業務をバランスよく取引し、関係性を蓄積する
- 決算書はバランスシートの「左上(預金)」と「右下(純資産)」が最重要
- 借入が少なすぎる会社は、かえって銀行から警戒される
- 制度融資・保証協会付き・両建てを安易に受け入れず、必要性を理屈で問い返す
融資条件は、決算書の数字以上に経営者の姿勢と取引の積み重ねによって決まる——森氏のメッセージは、資金調達を単なるテクニックではなく経営の本質と捉える視点を示してくれます。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです。
