17LIVE元CEOから僧侶へ転身した小野龍光氏が語る、金融資本主義の罠と人間としての本質的な成長。売上拡大の先にある「幸せ」とは何か、欲との向き合い方を哲学的視点から紐解く対談。
M&A CAMPでは、売り手と買い手の情報格差をなくすことをテーマに、資本主義のど真ん中で活動しています。今回はその対極とも言える視点から、元17LIVE CEOで現在は得度(出家の儀式)を受けて僧侶として活動する小野龍光氏に、「資本主義から解放される生き方」について話を伺いました。
小野氏はまず、自身の立場をこう説明します。
「資本主義そのものが悪いわけではないと思っています。今日も電車に乗らせていただき、インターネットも使わせていただいているので、貨幣経済に頼って生きているわけです。ただ、ただ数字が大きくなる方が良いという概念は、破滅にしか向かわないと思うんですね」
株価も売上も人口も、膨らみ続ければ何が起こるか。すでに地球環境では、6,500万年前の恐竜絶滅を引き起こした隕石衝突よりも速いスピードで生物の大絶滅が進んでいると言われています。ホモサピエンスのわがままが、地球上の生命を脅かしているのです。
さらに小野氏は、金融資本主義そのものへの違和感を語ります。
「金利がプラスであるということに疑問を抱かないという時点で、我々はひょっとすると金融カルト宗教に染まっている可能性がある。金銭はおにぎりやサービスの代替物でしかない。我々は必ず死にますし、サービスも朽ちていく。あらゆる金銭の代替物は本来価値が下がっていくものなのに、その代替物であるお金だけが放っておいても膨らむというのは、完全な矛盾です」
資本主義は、資本を持っている人にとってより有利になる仕組みであり、格差が内包された構造になっている。それが今、人と人、人と地球の衝突を生んでいる──というのが小野氏の見立てです。
若手経営者の多くは「成り上がりたい」「成長したい」という欲を抱えています。しかしその先に幸せはあるのか。小野氏は古代ギリシャの哲学者の言葉を引きます。
「アリストテレスが2300年前に答えを語っています。幸せには2つあると。1つは、富や権力、名声、美しさ、強さ。これらは新しい可能性を与えてくれる。確かにお金があれば事業もできる。ただし、それは一時的なものでしかない」
売上1億円を達成した瞬間、その目標は消える。次は2億、5億と、追いかける終わりはない。一方、人生を通した幸福感は別にあるとアリストテレスは説きます。それは「良きことを継続すること」によって得られるもの。
これはハーバード大学が84年間にわたって何万人もの人生を追跡した研究『グッド・ライフ』の結論とも一致します。人類最長の幸福研究が導いた答えは、「良き人間関係が重要である」というシンプルな事実でした。
小野氏は、成長を求めること自体は人間の根源的な欲求だと言います。問題は、その指標です。
「分かりやすい成長の指標として、お金の数字を追いかけてしまうのが、特にスタートアップにおける罠だと思っています。売上1,000億円ありますと言っても、人間的にどうなのかという方もいるし、売上なんかないですという方でも素晴らしい方もいる」
数字は分かりやすい。だから怖い。一方で内面の成長──人徳を磨くという成長は、曖昧で顕在化しにくく、数値化もできません。
「人としての使命とは何か、お金以外の価値は何かを悩みながら、自分の使命や哲学を磨いていく作業も人格としての成長になる。これこそが人の成長の根源になり得る」
外側の成長ばかり追いかけていると、ブランドバッグや高級車を持っただけで「すごい人」と勘違いされる、いわば「裸の王様」のような状態に陥る。実は内面が貧しくなっている可能性がある──小野氏自身、この罠に正直すごく苦しみ、死にたくなったこともあると振り返ります。
小野氏は仕事の本質をこう定義します。
「他の人が何か足りないと思っているもの、されたいと思っていることをする。そしてその代替物として貨幣を得る。それが仕事です」
貨幣が誕生したのは約3,400年前と言われます。それ以前は30〜50人の狩猟民族コミュニティで衣食住を自給自足していました。貨幣の登場により分業が可能になり、専門家文化が発達した。しかし現代では、貨幣そのものが目的化してしまった。
「私は今、講演会に呼んでいただいてもお金は一切いりませんという生活ですが、仕事をしているつもりなんです。経済を回すという意味ではほとんど存在価値はないけれど、人に頼っていただいて何かをさせていただき、ありがとうと言ってもらう。それも仕事になる」
他人に良きことをした結果として、貨幣の代替物が生まれる。規模の拡大は目的ではなく、結果でしかない。電気、水道、鉄道、すべて誰かの働きに支えられて私たちは生きている。それを忘れて「もっと安くしろ」「もっとちゃんとしろ」とわがままになってはいないか、と小野氏は問いかけます。
走り続ける経営者は、責任感を抱え、ラットレースにはまりがちです。これに対し小野氏は、心理学からも哲学からも導かれる「切ない事実」を伝えます。
「あなたが思っている以上に、あなたって重要じゃないんですよ。あなたが重要だと思っているのは、あなただけです」
自分がいなければ会社が回らない、と思うことはあるかもしれない。しかし人類の歴史を見れば、たくさんの偉人たちはほとんど死んでいるのに、世の中はちゃんと回っている。
「自分の存在に意味がないと言いたいわけではなく、大事にしていい。けれど、そこまで背負い込まなくても、自分がいなくても回るものを作って価値を残していけば大丈夫じゃないか」
欲をどう扱うか。小野氏自身も承認欲求を含めて欲は常にあると認めます。重要なのは、その欲が他人を損ねるかどうか。
「人口減少国の日本の中で売上を上げるということは、誰かのシマを取っているテイカーになっている可能性がある。営業利益が出ているということは、本来もっと還元できるものを自社に集めようとしている、という言い方もできる」
仏教に限らず、あらゆる宗教の戒律は「盗むな」「殺すな」「他人の異性に手を出すな」など、他人を損なうことを禁じています。これは人間がコミュニティで支え合って生きるための基本原則だからです。
欲が暴走しそうになる時、小野氏は「呼吸の意識」を勧めます。
「欲にまみれそうな時って、呼吸が乱れているんですよ。お酒を飲んでつい『もう一杯』となる時、まず呼吸が浅くなっている。酔っ払って呼吸が自動運転になり、脳に十分な酸素が送られない。そういう時にさらに飲むと二日酔いになる」
呼吸を意識しながら飲むと二日酔いになりにくい。瞑想すると二日酔いが治る、とも言われています。心臓や腸と違って、呼吸だけは自分でコントロールできる。緊張時や感情が波立った時に深く吐いて吸う行為が、瞑想の本質です。
サウナで「整う」感覚も同じ原理。熱い環境で無意識に深い呼吸をすることで代謝が促進される。さらに、サウナ中はスマホやSNSから物理的に離れられる。
「現代の難しさは、メッセンジャーやTikTokやタイムラインに引っ張られて、自分の人生を生きているようで動かされている状態になっていること。スマホを離して試験を受けた子供の方が点数が高いという研究もある。スマホがそこにあるだけで気になって集中できない」
瞑想やサウナ、ランニングなどで情報を遮断し、自分と向き合う時間を持つ。それが、本当に気づきたいこと──体の異常や、本当に求めている幸せ──に気づくチャンスをくれる、と小野氏は語ります。
資本主義の最前線を駆け抜けた経営者だからこそ語れる、数字の追求の限界と、内面の成長の重要性。お金や売上を追うこと自体は悪ではない。しかし、その先に何があるのか、追いかける自分が浅ましくなっていないか、他人を損ねていないか──。アリストテレスから現代の幸福研究まで、答えは驚くほど一貫しています。良き人間関係を築き、他人に良きことをし、自分の内面を磨くこと。経営の成長とは何かを問い直すヒントが、この対談には詰まっていました。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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