NEWPEACE代表・高木新平氏が語るビジョニングの本質。未来ではなく過去に刻まれた怒りや痛みを掘り起こすことで生まれる一貫性のあるブランドとは。若手経営者へのロープレ形式で、思想なき経営の落とし穴を鋭く指摘する。
NEWPEACE代表の高木新平氏は、経営者の個人の価値観を引き出し、それをビジョンとして言語化・デザイン化する「ビジョニング」という仕事を手がけている。多くの人がビジョンを「未来」や「夢」と捉える中、高木氏の主張は明快だ。
「僕は未来は過去の再編集って言ってるんですけど、その人の人生の過去の中に刻まれた怒りとか、傷みたいなものが絶対あって、それを呼び覚ますというか、掘り起こす作業なんですよ」
未来は曖昧でふわふわしているが、過去の経験は身体に刻まれた血肉であり、ぶれない。それを今の時代に再解釈して掲げ直すことが、強烈なブランドを生む起点になるという。
高木氏は、表面的な「何をやるか(What)」はマーケットの変化に応じてコロコロ変えていいと語る。重要なのは根っこにある一貫性だ。
「創業者がなんでこの会社を作ったのかっていうもの自体は、そんな簡単に変わらないと思ってて、なんでそれをとにかく見つけるっていう作業をしてる」
例として挙げられたのが、BE:FIRSTを擁するBMSGグループ。SKY-HI氏が会社を立ち上げる際、高木氏は「才能を殺さないために」というステートメントを言語化した。業界の闇に対する悔しさや怒りという過去の経験があったからこそ、説得力のあるビジョンになっているという。
ソフトバンク、ユニクロ、サントリー、ドンキホーテ、リクルート――強烈なブランドを持つ企業には必ず創業者の物語があり、それは創業者がいなくなっても残り続ける。
動画の中盤、M&A CAMPの聞き手がロープレ形式で自身のビジョニングに挑戦する。情報格差をなくしたいという就活時代の原体験から始まった事業、M&A後の自身の経験から立ち上げたメディア――一見一貫しているように見えるが、高木氏の指摘は鋭かった。
「フワっとしてなんかどこにでもありそうな……今その寄り所のキーワードがあんまねえなっていう感じが根本的な課題やな」
「経営者として自分自身の思想なんですけど、結構浅いなとか空っぽだなとか、いろんな情報を浴びすぎて自分がなくなってる」
YouTubeのアルゴリズムに沿った試行錯誤はしているが、自分の価値観に沿ってはいない。すごい人の話を聞きすぎることで、分かった気になり、自分が消費されていく――この構造を高木氏は「ガーファが産んだモルモット」と表現する聞き手に共感を示しつつ、こう語る。
「すごい人の話を聞きすぎちゃダメなのよ。分かった気になっちゃうから」
高木氏自身も20代の頃、似た経験をしている。会社をすぐ辞めてシェアハウスに住み、当時23歳でメディアにも出ていたが、「経験を経てる言葉が少ないから空中を舞ってる感じ」がして、約2年間ほぼSNSを断った。
「最初きつくて。投稿すればリアクションあるって楽じゃないですか。禁断症状が出る。でも自分で考える癖がついた」
短期で結果を求めるデジタルマーケティング的な発想ではなく、5年・10年とかけて熟成させた思考錯誤こそが言葉に宿る。だからこそ反射ではなく、潜る時間が必要だという。
高木氏のビジョンの源泉は明確だ。「失われた30年」という言葉への強烈な違和感である。
「30年って言葉が本当に嫌いで、僕は失われてねえだろと思って。製造業もまだ豊かだし、観光で行きたい目的地も日本中にある。それってむしろ失ったんじゃないって思うんですよ」
学生時代、2008年のオバマ大統領選挙で、26歳のスピーチライター、ジョン・ファヴローが書いた演説と、Facebook共同創業者クリス・ヒューズが仕切ったSNS選挙戦に衝撃を受けた。日本にはこの「自分たちはこういう国だ」という物語が足りない――その怒りが今の仕事の原動力になっている。
地方創生に取り組む山形県鶴岡の企業「ショウナイ」が、行政に頼らず教育施設を無償化したエピソードも紹介された。「地方の希望であれ」というビジョンを掲げたからこそ、短期的にはキャッシュアウトでも長期で信頼が溜まる。経済合理から見れば「非合理」だが、その非合理こそがブランドを生む。
AIが情報を量産する現代を、高木氏はデザイナー原研哉の概念を引きながら「エクスフォメーション」と表現する。情報が許容値を超え、わからなくなっていく時代だ。
「正解に溢れてるからみんな情報増えてるんですけど、分かんなくなってってるんですよ。だから自分なりに『これはコップです』『俺はこれがボールに見える』みたいな決めるしかない。それがビジョンであり判断軸なんです」
WhatやHowは後でいい。Whyがぶれなければいい。多くの経営者がHowやWhatをコロコロ変えて議論するが、根っこのWhyが定まっていないから方向が定まらないのだ。
ロープレの最後、聞き手は「ガーファが産んだモルモットとして、それなりの幸福論を模索する」という結論にたどり着く。高木氏はそれを否定しない。
「モルモットなりの幸福論を模索するのはいいかもしれない。むちゃめちゃ自覚的に捉えて、どうやったらモルモットの檻から脱出できるかの試行錯誤のプロセス自体は、価値あるわ。むちゃむちゃ面白い」
抜け出せなくても面白い。両極端を経験することで見えてくるものがある。大事なのは自分の心に嘘をつかず、それを発信して適切な仲間を集めていくこと――それこそがビジョンなのだ、と高木氏は締めくくった。
100年続くブランドは、未来の予測からではなく、創業者の過去に刻まれた怒りや痛みから生まれる。AIの時代だからこそ、自分自身のオリジンを掘り起こす作業の価値が、改めて問われている。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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