大学の同級生2人で創業、株式50:50のダブル代表で売上10億円規模に成長したキャスティング会社・株式会社クロスアイ。副社長の伊藤氏がDMM亀山会長に、人依存ビジネスのM&A可能性とオーナー企業として続ける選択肢について本音で相談した対談の記録です。
株式会社クロスアイは、大学の同級生2人がダブル代表で立ち上げ、まもなく7期目を迎えるキャスティング会社だ。芸能人、インフルエンサー、YouTuber、専門家などを広告・イベント・SNS投稿といった用途にキャスティングする事業を展開している。
副社長の伊藤氏によれば、今期の売上は10億円弱(9億円台後半)、営業利益は5000万円程度。財務健全化を進めつつ、来期は1億円規模の営業利益を残したいという。資金調達はほぼ行わず、巣鴨信用金庫からの1億円の借入を除けば自己資金で回してきた、いわゆる「デッド型」の堅実経営だ。
そんな伊藤氏が、M&A CAMPの「亀っちVALUE」企画に登場。DMM創業者・亀山敬司会長を相手に、自社のバリュエーションとイグジット戦略を相談した。
伊藤氏が強調するクロスアイの強みは3つある。
第一に、芸能人からインフルエンサー、YouTuber、専門家まで全ジャンルに対応できること。「CM一つ取ってもコメディアンもモデルもいる。お客さんの『こんな人いませんか』にドンピシャで応える」と語る。
第二に、芸能界特有の「連絡が遅い」という商習慣に対する圧倒的なスピード対応。社内ルールとしてLINEやチャットでの即レスを徹底し、他社が1〜2週間かかる案件を超短期で対応する。
第三に、IT投資による独自データベースの内製化だ。「ママタレント、30〜40代、出身地が石川で予算◯万円」といった条件にその場でリストを提示できるほか、夫婦共演NGや特定のクリエイティブ表現が不可といった「生々しい情報」を細かく蓄積し、起用後の炎上リスクを抑えている。
売上構成は広告契約(CM)・イベント・SNS投稿が3割強ずつとほぼ均等。販路は広告代理店経由が6〜7割、直接取引が3〜4割で、テレアポによる代理店開拓やSEOといった「キャスティング会社では珍しい営業力」も伸びの背景にある。
上場やM&Aを当初は全く考えていなかったという伊藤氏が、イグジット戦略を意識し始めた理由は2つある。
1つは、株式50:50・ダブル代表という創業時の構造だ。「ダブル代表は絶対揉める」と一般的に言われるなか、現状は大きな衝突なく経営が続いているが、いずれ意思決定で割れる可能性は否定できない。「気持ちよく2人でゴールしたい」という想いから、何らかのイグジット戦略が必要だと考えるようになった。
もう1つは、会社を長期的な存在として捉え直したときに、現状のままで良いのかという問いが浮かんだことだ。
伊藤氏は自己申告で「2桁億円のバリュエーション」を視野に入れているという。共同代表のもう1人は「亀山さんなら20億円で買ってくれるんじゃないか」と冗談交じりに語ったというが、伊藤氏自身は10億円程度を現実的なラインとイメージしている。
亀山会長の指摘は明快だった。キャスティングのような人依存ビジネスは、システムや仕組みで巻き取りにくく、M&Aと相性が良くない。さらに芸能業界とIT系企業の文化的ギャップが大きく、「真ん中で翻訳する人材」が不可欠なため、買収側が継承しづらいという構造的課題がある。
その上で、もし売却するなら現実的な相手は競合のキャスティング会社、特に業界2番手あたりだとアドバイスした。「業界1位が60億円規模なら、2番手が50億円。クロスアイを買えば60億円になって1位を狙える、という絵を描ける相手の方が値段がつきやすい」というロジックだ。
バリュエーションについては、利益1億円なら5年分で5億円程度が「健全な水準」との見立て。20億円という自己申告には「無理筋」と笑った。
もう一つ重要な論点は、そもそもM&Aすべきか、という点だ。亀山会長は「コツコツ稼げる事業ならM&Aするとモチベーションが落ちる」と指摘。資金調達ニーズもなく、キャッシュフローが回っている現状であれば、無理に上場やM&Aを目指す必要はないという立場を示した。
どうしても上場の体験が欲しいなら、株主構成に外部が入らない東京プロマーケットへの上場が一つの選択肢として挙がった。「IPOしても利益の10倍程度しか株価はつかない。それなら配当でもらった方が良い」という現実的な指摘もあった。
伊藤氏自身、ホスト側の発言(プロマーケット上場の発信)に強く影響を受け、即時に資料請求したと明かす。芸能界という「怪しさが残る業界」だからこそ、財務面だけでもきっちりした会社にしたいという想いがあるという。
結論として亀山会長が示した道筋はシンプルだ。
まず、共同代表のどちらかが代表を担う形で、約16%分の株式を譲渡し、2/3(66.7%)の意思決定権を集中させる。これにより重要な経営判断が可能になる。その上で、新規事業展開のために外部資本を入れたいなら投資を受け、不要であればオーナー企業として継続する。
M&Aを選ぶ場合は業界2〜3番手の同業に声をかけ、相見積もりを取るのが現実的だ、と亀山会長は付け加えた。
伊藤氏は対談の最後にこう振り返った。「壁打ちはしたことがなかった。第三者的なアドバイスはあっても、亀山さんのように『その場で何十億の意思決定が変わる人』に話を聞ける機会は貴重だった」。
人依存ビジネスのM&Aは難しい。だからこそ、まずは自社の構造とオーナーシップを整理し、選択肢を残しておくことが重要であることを示した対談となった。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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