DMM.com会長・亀山敬司氏が、メディア・コンテンツビジネスの収益構造と参入の難しさを語る。NewsPicksやDMM TVを例に、メディア単体では儲かりにくい現実、周辺事業との連動、クリエイティブとビジネスの間に立つプロデューサーの役割まで、実体験から語られた動画事業の本質。
メディアやコンテンツ単体では儲かりにくい——これは業界では半ば常識となっている見方だ。NewsPicksのように成功事例とされるメディアでも、有料会員収益だけで成り立っているわけではない。
DMM.com会長の亀山敬司氏は、NewsPicksの収益構造についてこう分析する。「ビジネスマンがみんな見るメディアから、オンラインサロン的なものや出版的なことに展開している。会員をいかに別のものに持っていくかを考えているはず」。さらに、メディアと連動する金融調査サービス「スピーダ」のような周辺事業の存在も大きいと指摘する。日経が金融調査で信用を持っているのと同様、メディアブランドを軸にした派生ビジネスが利益を生む構造だ。
つまり、メディア本体は集客・ブランド構築の役割を担い、利益は周辺事業で取りに行く。これが現代のメディアビジネスの基本形だという。
コンテンツから派生する具体的な収益化パターンとして、亀山氏はいくつかの類型を挙げる。
第一にオフ会。イベント自体で入場料を取る分かりやすいパターンだ。第二に求人広告と企業紹介。メディア上で求人を貼り、企業から紹介料を受け取る。そして「一番メインで大きいのは成果報酬型」だという。企業を紹介し、採用が決定したら報酬が入る形だ。就活イベントのように企業から出展料を取るスタイルもある。
ただし、ここには構造的なジレンマがある。広告主や紹介先企業から金銭を受け取れば、メディアとしての中立性が揺らぐからだ。「自社でやった方がいい」と思いつつも、その場合でも「矛盾と戦いながらやっていかなきゃいけない」と亀山氏は語る。
中立性を保つためには、目先の利益に走らない経営判断が必要になる。「ある程度ちゃんと中期で考えられる人がリーダーじゃないと、目先の利益に走ったらブランド壊れる」。
たとえば求人メディアであれば、紹介先企業の都合だけを優先せず、「ここはブラック企業だけど、成長したい人にとってはいい」といったリアルな情報を出すスタンスを崩さないこと。読者からの信頼があってこそ、長期的に成立するビジネスだという考え方だ。
一方で、若者のセンスを掴むコンテンツ制作には、スタートアップならではの強みがあると亀山氏は見ている。字幕の出し方、音声のテンポ、収録からアップまでのスピード感——こうした細部の作り方が、若い世代の視聴感覚にフィットする。「大企業はそういうところが弱いから、そのクリエイティブが欲しいというのは結構言いやすいパターン」。スタートアップとの協業余地が生まれる領域でもある。
動画メディアの収益化として、亀山氏はPIVOTやICCサミットといったイベント型・B2B型の事例にも言及する。基本構造は「無料でコンテンツを見せて多くの人にリーチし、企業側からのB2Bビジネスで稼ぐ」モデルだ。
IVS、B Dash Camp、ICCサミットなどのスタートアップ系イベントも、それぞれ性格が異なる。B Dash Campは数百人規模の招待制で「人間ベース」の関係性を重視。IVSは京都と組んで1万人規模に振り切った大型イベント路線。ICCはやや雰囲気が変わってきており、大企業役員とスタートアップのマッチング色が濃くなっているという。
「大企業からするとスタートアップの考え方が聞けて勉強になる、スタートアップからすると営業っぽくできる」。スポンサー収益の主軸は大企業側になっており、スタートアップは出せない金額を大企業が負担する構造に近づいている。
DMM TVのような動画配信サービスは、当然ながら巨額のコストがかかる。それでもDMMが続ける理由は何か。
亀山氏は「結局あそこでアカウントを集めて、そこから先で展開するとかシナジーが取りやすい」と語る。オンラインクレーンゲームでアニメグッズを出す、電子書籍と連携する——エンタメ事業全体で動画は外せないピースだという認識だ。「単独ではなかなか黒字にならない、赤字だけど、その赤字をどこで飲み込めるかという話」。
実はDMMの動画事業への挑戦は今に始まったことではない。15年ほど前からハリウッド映画の買い付けなどを試み、5〜6年続けたが資金的にきつくなり一度撤退した経緯がある。「みんなあの世界に行きたいんだけど、もう金がかかってしょうがない」。U-NEXTも長期にわたる試行錯誤の末に成長した例として挙げ、動画ビジネスは「10年がかり」の体力勝負だと強調する。
それでもなお動画市場に「参戦切符」を持っておくべきだという。「未来のある世界には、動画コンテンツに何かの変化があった時にチャンスが来る。プラットフォームがあれば参戦できる」。ABEMAがアニメ配信、ワールドカップ、Mリーグといった独自展開を見せているように、変化の波に乗るためにはプラットフォームを持っておく必要があるという考えだ。
動画・コンテンツビジネスの本質的な難しさは、クリエイティブとビジネスが構造的に対立することにあると亀山氏は語る。
「いいもの作りたいクリエイターと傾斜があって、大体揉める」。たとえば「このタレント入れてくれないと売れない」というビジネス側に対し、「こんな下手なタレントで映画を作ったら台無し」というクリエイター側。両者の間に立つのがプロデューサーだ。「スワヒリ語とロシア語の通訳みたいに、もう全然通じないぐらいの話を通訳しなきゃいけない」。
亀山氏自身は「ビジネス側」と自認しつつ、クリエイティブへのリスペクトを持つと語る。「彼らがいないとできない。でも彼らと話が合わない」。だからこそプロデューサー的な調整役が、コンテンツビジネスの中核にいる必要がある。
メディア企業発でビジネス側も成立させた稀有な例として、亀山氏はAVEX、ディズニー、スタジオジブリ、ジャパネットたかたを挙げる。AVEXは小室哲哉のヒットパワーから企業として成熟。ディズニーはどこかの段階で「ビジネス寄り」に振り切り、分業体制と配給網を整備した。一方ジブリは宮崎駿氏の天才性に依存した「クリエイター会社」のままで、結果として買収される道を辿った。ジャパネットたかたは創業者・高田明氏のキャラクターから始まりながら、本人が出演しなくても回る組織を作り上げたケースだという。
サブスクリプションモデルについても亀山氏の視点は実利的だ。「500円は安すぎる」と問われれば、「1000円にして人数が半分以下になるくらいなら、そのまま前の人数を維持して他で買ってもらう方がいい」という発想もあり得ると語る。価格と規模、そして周辺収益のバランスで全体最適を考える経営判断だ。
若手起業家がコンテンツビジネスに参入する際の難しさについても言及があった。プラットフォームを作るほどの体力はないが、コンテンツ会社として成長したい——そうしたケースは「分野違いすぎる」と亀山氏は指摘する。YouTuberのヒカルのようにキャラクターをベースにビジネスを広げる事例はあるが、本人の流行り次第で全てが変わるリスクがある。グッズ製造のような派生展開も「組織化しないと難しい」領域だ。
それでも亀山氏は「チャレンジするのはいいんじゃないか」と背中を押す。ただし「ここでの成功体験はあまり役に立たない、むしろ逆」だという認識は持っておくべきだという。
メディア・コンテンツビジネスは、単体での収益化が難しく、長期的な視点と周辺事業との連動が不可欠だ。クリエイティブとビジネスの調整、ブランドと収益の両立、巨額の先行投資——参入には数多くの壁がある。
それでもDMMが動画事業に長期で構えて取り組むのは、市場拡大が見込める領域に「参戦切符」を持っておくためだ。AIや宇宙のように、いずれ大きな変化が来る分野に対して、社内に分かる人間を残しておくこと。それが次の機会を掴む条件になる。
「壁は太いよ」と笑いながら語る亀山氏の言葉は、コンテンツビジネスの厳しさと、それでも挑む価値の両方を示していた。
※本記事はYouTube動画を元に編集部で再構成したものです


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